韓国の巫俗(シャーマニズム)の伝統
韓国を代表する民間信仰である巫俗(シャーマニズム)は、現代にもその伝統が受け継がれています。巫俗におけるシャーマンは、ドラマや映画で「占い師」や「霊媒師」として登場することが多く、男性は「パクス」や「パクスムダン」、女性は「ムダン」と呼ばれます。また、性別を問わず「巫俗人」や「万神」と総称されることもあります。巫俗人は、霊的な力を持つ存在とされ、親から子へと継承される場合や、突然の体調不良や神病(巫病)を患ったことをきっかけに巫俗人になる場合もあります。
巫俗人の日常と儀式
巫俗人は、路地裏やアパートの一室に祭壇を設けて暮らし、仏像や道教の神々を祀っています。日常的には、干支占いや霊視、護符の作成・販売などを行い、生計を立てています。
相談者が深刻な問題を抱えている場合には、「クッ」と呼ばれる儀式を行うことがあります。この儀式では、巫俗人が民族衣装に着替え、鈴や扇子を手に持ち、伴奏者の太鼓や鑼の音に合わせて歌い踊りながら神と疎通を試みます。クッは、病気平癒や悪霊退散といった個人的な目的から、村全体の平穏を祈る大規模な儀式まで、さまざまな種類があります。
特に80年代以降、巫俗文化が韓国文化の源流の一つとして再評価される動きが強まりました。クッに伴う巫歌や巫舞は、韓国文化遺産にも指定されるようになり、パンソリの原型とも考えられています。
歴史的な弾圧と巫俗の位置付け
巫俗は長い歴史の中で、他の宗教や社会的な制度から弾圧されることも少なくありませんでした。
朝鮮時代:「淫祠」として排除され、儒教的価値観のもとで迫害を受けました。
日本統治時代:朝鮮総督府は神社参拝を国民儀礼とする一方、巫俗を「迷信」と見なして抑圧しました。
解放後:急速に拡大したキリスト教も、巫俗を前近代的で下等な宗教と見なしました。クリスチャンの間では、占いやお守りの購入は避けるべき行為とされました。
このように、韓国の巫俗は政治的・社会的に抑圧される歴史を歩み、巫俗人も社会的偏見にさらされ続けてきました。その結果、政治家や著名人が巫俗人に助言を受けていると報じられると、それが揶揄の対象となることもあります。
ユン大統領
現代における巫俗の再評価
現代では、巫俗に対する見方も変化しつつあります。一方で文化遺産や伝統的知恵としての価値が認められるようになり、他方で依然として偏見や侮蔑の対象であるという両極端な評価が存在します。
特に1980年代、国家アイデンティティーを再構築しようとする中で、巫俗文化が韓国らしさの象徴として再評価されました。巫俗は、映画やドラマでも頻繁に取り上げられています。例えば、『ホテルデルーナ』では霊媒師や死者との対話が描かれ、映画『神と共に』では、韓国的な死生観や民間信仰が物語の重要な要素となっています。
これらの描写は、巫俗が韓国文化の独自性を体現する重要な要素であることを示しています。巫俗人が持つ霊力やその役割は、現代社会でもなお「韓国らしさ」を感じさせる存在として認識されています。