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たぶんそこには猫がいる

実家で猫を飼わなくなってからだいぶ経つ。
色々と事情があって猫を飼うことのできる環境が整わなくなった。

僕は子供の頃から猫がいる家で育った。
夜は猫と眠り、朝は猫に起こされ、昼寝中の猫に朝の仕返しとばかりに何度も抱き上げるという嫌がらせをしたり、と家族の一員に常に猫がいる生活が長く続いたのだった。

猫を飼っていないと、猫に触れる機会がほぼ無い状況になる。
人に飼われている猫は基本飼い主以外の人に触られたくないものだし、猫カフェでも行けばという話なのだが、何となく色々な人と「行こう」という話になっては消えるというのを繰り返すうち面倒くさくなって行っていない。
そもそも家族として猫に触れるのと、カフェで猫に触れるのは少しだけ違うようで、だいぶ違うのだ。

そんなわけで、僕には猫成分がずっと不足していて、YouTubeなんかで猫動画を見ると「かわいい」がいき過ぎて数分で発狂しそうになる、という症状が発症してしまった。

そんな風に猫不足が頂点に達した僕は、ついに猫の夢を見た。
昔飼っていて、だいぶ前に亡くなった猫が僕に会いにきた夢だった。久しぶりに会えた猫はものすごい興奮状態で、嬉しくて鳴きながら僕の手を何度も甘噛みした。僕の方も興奮して何度も猫を撫で回した。

すごくリアルな夢だったから、起きてからもその余韻が残っていて、僕は本当に猫に会えたような気分になった。
いつもならすぐに忘れてしまう夢も、今日は記憶から消えずに残っている。

しばらく余韻に浸った後、僕は起き上がったベッドを眺めた。

僕にはこの先、猫と過ごすような日がもう二度と来ないのかもしれない。
ちょっとだけ寂しい気分になってから、すぐに違うと思い直した。
そして、ベッドの上の、僕が寝ていた隣を見つめる。

そうか。ひょっとすると、いや、たぶん、

そこには、ずっと猫がいる。


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