ツッコミ不在のボケを追い求める者たち

昨日でスペシャルニーズ(特別支援)の教育実習を終え、本日いよいよOkanagan CollegeのECE Diploma Programを修了することになる。毎セメスターごとに(現地の学生の3倍の)学費を請求されるたび、留学生同士でキレ散らかしていたのが懐かしい。あの頃、私たちがきっとカナダの経済を回していた。

大学時代、面白いブログやコンテンツをつくることに憧れて、ブログを書いたり、ライター・編集業務をかじったりしていた。それと同時に小さい頃から「保育」にも興味があって、将来的には二足のわらじを履きたいとぼんやり思うこともあった。コンテンツ的な「面白さ」と「保育」、このふたつになにか相関関係があるような気がしていたが、この前の教育実習中にハッとした。

保育現場、ツッコミ不在のボケが永遠と続いているのである。

なにも子どもたちもわざとボケようとしてボケているわけではない。大人が思っている「当たり前」と、子どもたちが持つ天然由来成分配合の考え方のギャップが「ボケ」を生み出すのだ。このボケを一度味わってしまえば、一生足を洗うことはできない。それぐらいの中毒性をもつにも関わらず、なんとどこの国でも合法、しかもそれに特化した職業がある。そう、それが「保育士」と呼ばれる職業だ。

事例1. 宇宙人の存在により、宇宙へ行くことを断固拒否

これは外遊びの時間に、ひとりの子どもが「あの飛行機、宇宙まで飛んでくんだよ」と発したところからはじまるのだが、まず宇宙まで飛んでいったら、航空機と乗客乗務員に多大なる被害を与えるのは想像に難くない。

それに対し、ある子どもは「あー、でも宇宙人がいるから行きたくないかも(苦笑)」。宇宙に行きたくない理由ってそこから?「いつもここから」の悲しいときネタで「宇宙に行こうとしたら宇宙人がいたときー」って続いて少し茶の間が静まる流れなのだろうか。エンタで胎児教育がカナダで流行っている可能性すらでてきしまった。

しかも、それに便乗するようにほかの子どもたちも「たしかに。ほら、宇宙人って危ないから」「できれば会いたくない」と返答。彼らはいったい未確認生物宇宙人のなにを知っているというのだろうか。「できれば」と最低限譲歩して話をしているようだが、生きているうちに遭遇する確率はほぼゼロに近い。

事例2. 本日ゼリー形状のため、任務遂行ならず

ある子どもに登園時に「靴を脱いで」と声をかけた際のことだ。彼の返答はこうだった。「できないんだよね。今日、ゼリーでできてるから」

見た目は完璧に3歳児の人間の姿をしているにも関わらず、それはなんとゼリーで形作られたものだったらしい。メタモン並みの身体能力に圧倒され、「なるほど」とつぶやいたあと、私は彼の前に佇んでしまった。なにに納得して「なるほど」とつぶやいたのかすら覚えていない。

その後、なんとか必死にゼリー形状の彼に靴を持たせ、靴箱の前まで連れていったのだが、靴を置くまであとほんの数センチのところで、形状が崩れてしまった。床になだれ込んだゼリー形状から一言、「今日、やっぱりゼリーでできてるから」。

事例3. 齢5歳にして若者並みの文章能力を発揮

有名な英語のスラングにLOL(Laugh Out Loud)というものがある。日本語で言うところの文末につける(笑)だ。

教育実習の園では、アートアクティビティの際、子どもたちは自分の作品に名前を書くことを義務付けられている。とある子どもが自分の名前を書いたあと、「私、LとOも書けるんだよ」と言って自慢気にマーカーを握った。書道パフォーマンスのごとく、大胆にLとOを綴っていく。彼女はまだ筆を止めない。

LとOのあとに続くアルファベットは基本的にVとE、そうLOVE。私が「次はVかな?」と言って彼女の手元を見たら、そこに現れたのはもう一つのL。彼女の名前の横には、LOLというスラングが並んでいた。意味を理解していない彼女にとって、LOLとは(笑)ではなく、単なるアルファベットの羅列にすぎなかった。


これら3つの事例からもわかるように、子どもたちは子どもたち独自の考え方で進んでいく。大人の介入という名のツッコミがなければ、そのボケは終わることがない。子どもは可愛い。たしかに可愛いがそれだけではない。面白く、興味深い。吉本養成所(NSC)に入学したものなら、主席で卒業できるポテンシャルすら秘めている。

笑ってコラえての幼稚園児インタビュー、木下ゆーき(@kinoshitas0309)さん、なべ(@kagushokunn)さんなど、子どもたちと私たち大人の考え方のギャップから生み出される「面白さ」は、誰かを、または自分自身を傷つけてとるような笑いではない、あたたかく優しい笑いを届けるだろう。

これからカレッジを卒業し、保育の現場で働いていく。保育士という職業は、将来を担っていく子どもたちの成長をサポートする、プロフェッショナルな職業だ。そして、面白コンテンツが豊富な玉手箱のような職業だ。「4大卒で保育士ってどうなの?」「保育士って利益生み出さないから、そりゃ給料も低いでしょ」と言われることもあるが、私は保育士という職業につけることを誇りに思う。


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