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父の一張羅。【ショートショート1132字】

娘のバレエの発表会を前日に控えた夜、父は自分の事のように緊張して落ち着きがなかった。娘にとっては、これが最後の発表会で、最初で最後のセンターだった。

この発表会の10年以上前、父と母は当時結婚前提に付き合っていたが、2人で観たバレエの公演に感動し、娘が生まれたら絶対にバレエを習わせようと決めたのだ。

本人よりも緊張していて、なかなか眠りにつけない父。

いつもは作業着を着て仕事をしている父は、3日ほど前から、発表会に着ていく服に頭を抱えていた。結局、ビロード生地のジャケットを着ていくことにし、前夜は熱心にブラシをかけていた。普段履かない革靴もピカピカに磨いていた。

準備が終わってもなかなか眠れず、何度もプログラムを確認する父。
自分の娘が出演する演目に○をつけて、確認。

父は、浅い眠りのまま、発表会当日の朝を迎えた。

当日の朝は、とにかくバタバタした。何せ持ち物が多い。

母と娘は小物などの最終確認を行い、いよいよ車に乗り込もうとした時、娘は普段とあまりにも違う父の姿に、驚いた。驚いたのは、普段は見ないジャケット姿というだけではない。

見間違いかと思ったが、髪の毛があった。

普段の父は、毛髪が少なく、特に頭頂部の地肌がしっかり見えていた。

だが、この日は、地肌が見えなかった。

娘はかなり驚き、色々言いたい事はあったが、父の「一張羅」なのだろうと思った。

車に荷物を詰め、いよいよ会場に向かった。会場までは車で30分ほどだった。その間、運転席の後ろに座った娘は父の頭ばかりが気になった。会場に付くと、車から荷物を降ろし、父が運んだ。

駐車場から少し歩かねばならず、強い風が吹く中、3人で緊張しながら会場まで歩き、とうとう会場につくと、会場の入り口までに10段ほどの階段があった。あの階段を登ればいよいよ、今日の本番が始まる。

・・・と思った瞬間。

母がすごい勢いで走り出した。階段を登るのではない。すごい勢いで斜めに降りていくのだ。

どうしたのだろうと、父を見ると、

両手に荷物を持って呆然としている父の髪の毛が、なくなっていた。

もしや、と思い母を見ると、コロコロと転がる何かを素早く拾うと、お腹の中に隠した。

母は何食わぬ顔をして、父の元に戻ってきた。会場の入り口に入ると、母がお腹を押さえながら受付を済ませ、娘は父からそそくさと荷物を受け取り、控室に入った。

次に娘が父に会ったのは、発表会が終わったあとのロビーだった。

髪の毛は元に戻っていた。

帰宅後、風呂場で先ほどまで頭についていた髪の毛を丁寧に洗面器の中で洗っている父の後ろ姿に、娘は一言いった。

「髪の毛なくてもいいから。。今日は風強かったね。」

父は無言で、洗い続けていた。

それ以来、父は帽子をかぶるようになり、ソレは使わなくなった。

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初めて書いてみました。難しいですね〜😭

事実を少し変えて書きました。

亡き父に捧げます🤗

お父さん、いろんな思い出ありがと〜💕




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