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【SS】草食の菌類

ある日、母がスーパーの観葉植物コーナーでサラダを食べるキノコを買ってきた。
形はエリンギに似ているが、一本だけ鉢植えに刺さっているのが不思議な見た目だ。
説明書きを読むと、どうやら、食べ残したサラダを食べさせることでどんどん成長し、増えたキノコを収穫することができるらしい。
大きなキノコを一本残しておけば、またサラダを食べさせることで増えていくので、なくなることはないようだ。

その夜、夕飯には僕の嫌いなパプリカのサラダが出された。
サラダの中の細切りパプリカだけを丁寧に避けて、食事を終えると早速キノコに食べさせてみた。
キノコは二本の触手をニュッとだして、かさの下にある口にパプリカを入れ、咀嚼しているようだった。

次の朝、キノコを見てみると、既に小さなエリンギが鉢のいたるところににょきにょきと生えている。
かなり成長が早いらしい。

今日の朝食はベーコンサラダ。
トーストを一枚食べてお腹いっぱいになってしまったので、サラダの皿は全部キノコに渡した。
それぞれの小さなキノコも触手を伸ばして器用に皿から食事をとり、各々に咀嚼している。
奇妙な光景だが、このキノコがやってきてから、父母も食事の片づけが楽になったと大喜びだった。

一通り食べ終わると、一本のキノコがたったいま食べていたサラダを吐き出した。
よく見ると他のキノコの顔色も悪いような気がする。

説明書を改めて読んでみると、どうやらこのキノコには肉を与えてはいけなかったらしい。腐ってしまい、菌が変異してしまうからだ。

今回はどうやら幸い事なきを得たが、次からは気をつけよう。

学校から帰ると、家庭菜園のトマトが全て収穫されていた。
父が大事にしていた鉢植えだ。
おそらく、もう食べごろだということで収穫することにしたのだろう。

家に入ると何だか様子がおかしい。
壁がふかふかしている。
なんだこれは。

とにかく家じゅうがパンパンにふわふわでろでろした物体で満たされている。

「なんだこれ…」

なんとかしてサラダを食べるキノコの説明書を取りに行くため階段を登っ
た。

ーーーーー※注:食べさせすぎると大きくなりすぎます。適量が大切です。

なんだこのふわっとした基準は…!

「お母さん!!!!」
「お父さん!!!!」

返事はまったく帰ってこない。
例のキノコを栽培していた2階で仕事をしていた父と母は、多分真っ先にサラダキノコに取り込まれたのだろう。

家全体がキノコ菌床となってしまった今、もう僕もここでキノコと一つになるしかないのかもしれない。

・肉を食べさせない
・残飯以上に食事を与えない

これらのルールを守っていればこんなことにはならなかったのに。
それから、僕は世界最大級生物の一つとしていきることになった。


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とくらじゅん
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