【300字小説】桜の園で浮き足立って
あたたかな週末、春の陽気に誘われて、満開の桜にそそのかされた人々が公園で浮かれている。思い思いにレジャーシートを広げ、おむすびや唐揚げなど頬張り、皆隠すことなく浮き足立っている。ふと見れば蝶や蜜蜂など虫たちも、花から花へ、草から草へと飛びまわる。しかし実のところ、浮ついているのはわれらだけではない。
かつて生き物だったもの、それとも古くからおわす千年の石、または存在を超えた概念の精霊。それらもやはり春に誘われ、桜の園で静かに沸き立つ。ついでにやさしく、われらを見守る。よろこびはよろこばしいまま、かなしみはかなしいままに。さあ今は宴会だ。ここに在るものここに亡きもの垣根なく、ただ世界が祝福をする。