5.カバンの中を物色された朝
そう言えば離婚の調停期間中に、僕は鬼子にカバンの中を漁られたことがある。いつもの時間より少し早く目覚めた僕は、何となく悪い予感がしてすぐに書斎に行った。勘が働くってこうゆう事か…。鬼子が慌てて逃げて行った。何をしていたんだ?と書斎を見回してみると、カバンの中の手帳の位置が大幅にズレていたのだ。『おいおい、いくら家族と言えども手帳の盗み見は犯罪だろ?』と思った。
直接会話をするとお互いが感情的になって言い争いになってしまうから、そしたら子供が可哀想だから、僕は鬼子にメールした。
"手帳を入れる場所は、カバンの中の一番大きいポケットです。じゃないとカバンが型崩れしてしまうんで。"
鬼子は見事にスルーしやがって、返事なし。もうこれは完璧にクロだ。
しかし鬼子の犯罪はこれだけではなく、もっと前から頻繁にあったのだ。
たとえば僕のボイスレコーダーを勝手に盗み聞きして、「私の悪口を言っている」と訳のわからない事を言ってきたこともある。たまたま親友と飲んでいる時に仕事用のボイスレコーダーの録音が始まってしまったらしく、しかし話の内容はほとんど仕事の事やら、どうでもいいような会話が何時間にも及んで録音されていた。その何時間もの酔っ払いたちの会話を、鬼子は全て確認したようで(盗み聞きなんだけどね)、さらには「ほら、ここ!ここで私の悪口を言っている!」と主張してきた。ハッキリ言って、何を話しているのかさえ自分でもよく聞き取れないし、お前の話なんかしてねーよ。『コイツまじでやべーな』という感想だけが残った日だった。
鬼子の被害妄想は今に始まったことじゃないが、それにしてもこれは酷すぎる。
ちなみにこの事情聴取は、明け方まで続けられた。何度も何度も、悪口を言っていると主張する箇所を、繰り返し聞かされたのだ。僕は次の日、ものすごく大事な仕事があったにも関わらず…。