増えていく絵
その昔、実家の子供部屋にファンタジックなイラストが飾られていた。もしかしたらどこかのお店のビニール袋の図柄だったかもしれない。それは壁に貼られていた。そのイラストには、遊園地のような場所と、そこに集まるコミカルな人物あるいは怪物が描かれていた。ある者は飛行し、ある者は広場で踊り、ある者は遊具の陰からこちらを垣間見ていた。
そのイラストを毎日見て暮らしていたが、見るたびに、描かれたキャラクターの数が増えているように思えてならなかった。当時子供部屋を共有していた弟に、このイラストの奇妙な現象について聞いてみたところ、やはり登場人物がだんだん増えていることを認識していた。弟はよく恐ろしい夢を見て夜中に発作的に泣き出したり声を上げたり、霊感のようなものがあった。霊的な方面における自分より確かな感覚で絵が増えることを肯定されて、いよいよ不可思議の想いにとらわれた。
だまし絵的な要素があるのか、子供らしく注意力がないだけだったのか、今となってはわからない。考えてみれば、そのイラストがそもそもどこから持ち込まれて来たのかを、我々兄弟は知らなかった。来歴を確かめようとも思わず、ただ毎日、ああ今日も増えている、と合点するだけであった。
人間は概念のないものは、目に映っていても見えない。自動車のない社会の人に、自動車を見せて絵を描いてもらったら、車輪のない自動車を描くと聞いたのは、この絵を見ていた小学生くらいの頃だった。そもそも描かれていた何者かについての概念が、自然に日々獲得されていった結果、増殖という現象が生じたのだろうか。