見出し画像

年中休業うつらうつら日記(2024年9月21日~9月27日)

24年9月21日

週末にかけて滅多やたらに涼しくなった。いよいよ秋か。
長老のマンションで中華料理祭りが行われるが、さすがに先週末の山荘行きでくたびれたので、欠席。
金曜ZOOM会もわりと早めに退席。
内田善美が女性かと思われていたが実は男性であると松苗あけみのエッセイマンガでも知っていたはずなのに、「~と思っていたら実は~」の思考の罠に絡め取られ、うっかり「実は男性」と言ってしまったため、事情通のSくんに「そのレベルか」と笑われて、己のうっかりさ加減に地団太踏んでる。。
まあいいや、私はただのマンガ好きであって、描いている本人について詳しい者ではないんだから。
ただ、「知ったかぶりで間違った情報を流してしまうヤツ」と思われるような発言には気をつけよう。

そんな動揺のせいか、寝る前に枕元のお茶をひっくり返して「きゃー」と悲鳴を上げたら、リビングで風呂上がりの休息をしていた息子がすっ飛んで来ようとしてくれた。
せいうちくんが止めて、「何でもないよ。グラス一杯のお茶がこぼれただけ」と解説してくれたが、息子は「ゲボしたのかと思った」らしい。
そこまで悲惨ではない。
私が悪いのでせいうちくんにも謝り倒し、課題であった枕頭台の片づけをしていたら、残っていたお茶と拾い上げた氷をもう一度ひっくり返して、また「きゃー」。
少ししけった寝床で眠ることになった。

長い長い夢をみた。
私の夢は「覚醒夢(自分で夢だと自覚している夢)」が多いが、ここ数年、うまく起きて現実に戻れなかったり、あまりにも長く続くので「これはもう、死ぬ前、いや、もう死んでいるのかも」と思うような夢を何度かみている。
今回もそうかと思い、あれこれ覚悟を決めてみたが、永遠とも思えるような夢の中での長い時間ののち、やっと目覚めることができた。
しばらくは夢の中の景色が目の前にちらついて現実になかなか戻れないほどだった。

せいうちくんは午前中に買い物に出かけ、息子は昼頃に食事をして仕事に行ったが、私は結局1日中うつらうつらしていたようだ。
くたびれて帰ったせいうちくんも昼寝に入り、2人で交互にたまに目を覚ましながら、結局、起き出してきたのが22時過ぎ。
やはり2人ともとても疲れていたのだと知る。

寝ている間中、時々宴会の現場から中華料理の写真や酔っ払ったGくんのおなかに落書きした写真やコメントが送られてきていた。
三谷幸喜×クリスティの「黒井戸殺し」のクライマックスを観ているタイミングで届いたのは3人が酔っ払って長老宅のリビングでそれぞれに倒れている現場写真。
送付者は長老だが、彼も凄惨な現場に写っているので、撮影者は現在居候中の娘さん2号と思われる。
撮影後、「風邪ひくよ」と父親を起こし、写真を見た父親本人が面白がって投降後、ベッドに行ったものと推理する。

こっちの居候息子も午前2時半を過ぎて自転車で帰宅。
芝居の稽古後、下北沢のパフォーマンスパブを回って帰って来たようだ。
毎日けっこう疲れているらしく、話す時間はほとんどない。
普通に同居してる家族はこんなものなのかな。

24年9月22日

今日もほぼ1日せいうちくんとぐだぐだ寝ていた。
よほど疲れがたまっていたものとみえる。
息子も夜中に自転車でせっせと帰ってくるので、みんなしてくたびれている。
最低限の食事を用意しておいてくれるせいうちくんに大感謝だ。

山田芳裕の「へうげもの」全25巻を感動のうちに読み終えたせいうちくんは、「せっかくだからほぼ同時代の大和和紀の「イシュタルの娘~小野於通伝~」全16巻を、と強く勧めたにもかかわらず、ずっと話題になっていた末次由紀の「ちはやふる」全50巻を読み始めたようだ。
「うっ、うっ、いい話だなぁ」としょっぱなから泣き出しているので困惑して「今、何巻?」と聞いたら「1巻」。
そんなに泣ける要素があっただろうか。
どうも、姉にいじめられている妹を見て私に感情移入してくれたらしい。
まだまだ先は長いぞ、50巻あるぞ。おまけに続編も始まってるぞ。楽しんで。


読み進むうちに、
「これって息子の通った高校じゃないかなぁ。都立高なのに食堂があるし、かるた部強かったし」と言い出し、しまいに、
「顧問の先生が僕らも息子のライブでお話しさせてもらった演劇部顧問のC先生そっくり」と言い出す。
取材としてあちこちのかるた部のある高校を訪ねて歩いただろうから、要素が入っていても不思議はないね。

三谷幸喜×クリスティの「オリエント急行殺人事件」第一夜前後編、第二夜前後編あわせて4本の録画を観て、「やはり野村萬斎のポワロ、『須黒』のキャラが強烈で素晴らしい」と興奮し合う。
続きの「黒井戸殺し」は明日観よう。

24年9月23日

三連休も最終日なので、昼夜逆転してるのを日常に戻さなくてはならない。
しかしやはり寝たのは4時になってしまった。

お互い1日中寝たり本やマンガを読んだりドラマや映画を観るだけでは少し退屈だと思い始めている。
さて、老後はどうやって過ごそうか。
せいうちくんはとりあえず散歩に行き、1時間半ぐらいして帰ってきた。
「楽しかったよ。最後はブックオフに寄った」
年金生活になったら古本買うのも控えなきゃいけないんじゃなかったっけ?


私は図書館で借りた上野千鶴子の「女ぎらい~ニッポンのミソジニー~」を読んでいる。
せいうちくんは彼女があまり好きでなく、「そもそも社会学者と言っていいのか。特に最近はただのエッセイストになってないだろうか」という意見だ。

「自称」社会学者ではなく、きちんと論文出して認められたのだろうし、社会学や精神医学の本は統計とかがたくさん出てきて素人さんには読みにくい。
エッセイだろうがマンガだろうが、「フェミニズム」や「ジェンダー」、また「毒親」について読みやすい著作を書いて世にその考え方や名称を定着させてくれる人は大歓迎だ。
(上野千鶴子と「毒親」は何の関係もない。ただの私の願望)
「問題がある」ことに多くの人が気づいてくれること、少なくとも「聞いたことはある」と思ってくれるのが第一歩だと思うからだ。

「上野千鶴子は被害者意識が強すぎるし、『おひとりさまのすすめ』を書きながら実は結婚していたと聞くよ」とせいうちくんが言っても、不平等を正す時にまず被害者と加害者がいることを設定するのは避けられないし、女性が1人で食事したり旅行したりが奇異の目で見られていた(一人旅の女性が泊まると宿側が自殺の心配をする、というのは20年ほど前にはよく見られた描写だ)のが、かなり当たり前の風景になってきたのは上野千鶴子の功績がでかいと思う。
結婚してようがしてまいが、女性が1人で行動する自由はあるし、最後は1人になるかもしれないから、「ひとりでも好きなように行動できる」女性像を確立させてくれた啓蒙活動は意味があると思う。

「男はみんな潜在的に加害者だ」と言われると男性は極論だと思うかもしれないが、女性の側では「そうそう」とうなずく経験も多いんじゃないだろうか。
少なくともOL時代(表現が古いw)、特に月曜の朝などに会社マインドに切り替えながら今日の仕事の段取りとかを脳内で組み立てている時にお尻をもぞもぞ触られたりするのは本当に不快だった。
歩いていてナンパされたことのない(友人曰く、「あなたみたいに目的地に向かってまっしぐらに突進している女性に声をかける男はいない」)私でも、通勤電車内での痴漢には何度も何度も遭遇している。
1人暮らしの頃、コインランドリーから下着を抜かれたこともある。
どうして男は女に余計な負担をかけるのか!(主語が大きすぎるのは覚悟の上)

実家でも母親に「たまにはパパにおっぱい見せてあげなさい」と異常な要求をされ、姉がそれに応えて素っ裸でリビングを歩いていた中高時代で、高校通学バスの中で初めて「手を握る」痴漢に遭い、もっとさかのぼれば小学生の頃、バスの最後部の席でイチモツを出していた変態男を見た(当時は何が起こっているのかをよくわからなかったが、闇雲に不快だった)私としては、「まったく、男ってやつぁ!」と思わざるを得ない。

なので、OL1年生の時に初めて大学1年生のせいうちくんに会った頃には持論として「たまには穴のある身にもなってみろ」と男性に言い放つようになっていた。
せいうちくんは今でもその時のことを鮮烈に覚えており、
「素敵なお姉さんだなぁ、と思った」としみじみと振り返っている。

セクハラパワハラという言葉ができて、物事は名前がついてやっとコトが始まる、と考える私はそれなりに満足している。
弱いものを暴力や言論で虐げることにも「DV」「モラハラ」と名前がつき、対応が考えられるようになった。
子供に対する虐待も殴るとか怒鳴るとか以外に「ネグレクト」や「教育虐待」も言葉になってきている。
「ミステリと言う勿れ」の久能整(くのう・ととのう)くんも言っている。
「子供の心は乾く前のコンクリートのようなもので、何かを落とせば跡が残ります」
そもそも流し込まれるコンクリートにしっかり母の欠片を大量に埋め込まれた私は、どう考え、どう生きたらいいのかいまだにわからずにいる。
コンクリ塊から「母の成分」を抜き取る作業は膨大な時間がかかる。
また、ドクター言うところの「胎盤をべりべりとはがすような出血や痛みが伴う」ので、作業は遅々として進まない。
せいうちくんのためにこんなマンガも買っちゃうよ。
「実際の被害者である娘さんより、母親とおんなじ顔して笑ってる息子が、僕の立場に似てると思う」とのコメントだった。

話を日常に戻せば、三谷幸喜×クリスティの「黒井戸殺し」二夜前後編を観終わった。
大泉洋のキャラがいい。
「大泉洋 vs. 安田顕」で極端に後者を贔屓して「水曜どうでしょう」から大泉を買っているGくんと激しく対立しているせいうちくんでさえ、
「この役は大泉で光っている」と認めるほどだ。

興味がわいて、原作のクリスティ「アクロイド殺人事件」を読み返したが、なるほど、ポワロが犯人の告白をしばらく伏せておく理由がイギリスなら「名誉の問題」で済むが、日本に置き換えてみると「余命の短い人を傷つけずに死なせるため」になるんだね。
ここの解釈の違いはとても面白いと思った。
お国柄のせいか、時代のせいなのか。

本格的に涼しいので夜は水餃子。
夏の間は封印されていたが、逆に寒い時期には飽きるまで毎日食べることも多いメニューだ。
「中国人は基本、こうなんだと思う」とせいうちくんが言うのを信じて。

24年9月24日

せいうちくんにとっては夢のような三連休が終わり、テレワークとは言え仕事が始まる。
しかしもう、会議に出る以外に主要な仕事は自分のペースでやればいいわけだから、なぜ8時からの会議なら6時じゃなくて7時半まで寝ていないのか、理解できない。
そう進言したので、ちょっと考えてみるそうだ。

息子は今日から浅草の「箱入り(演劇を上演する、その舞台を使っての稽古)」に入るそうで、遠すぎて自転車では帰れないのと午前中から行われるのでさすがに皆さんくたびれて夜中まではやらないらしく、23時半頃帰ってきた。
作り置きの煮物とかカレーとかいろいろ食べて、シャワー浴びてすぐ眠ってしまった。
それでも寝る寸前までタブレットを見ているので、
「今、何読んでるの?」と聞くと、
「シグルイだよ」って。
そうか、山口貴由か。
たった今は「劇光仮面」を連載中だと思うが、「シグルイ」はまだ読んでないなぁ。
全15巻、クリスティの流行が一段落したら読んでみよう。

24年9月25日

今日はせいうちくん出社。
息子はまた浅草へ。
舞台稽古に入ったせいか、昂っているというか、演劇の熱を感じる。
暑苦しいほどだ。

私は通院日なので、今週頭から涼しいのをありがたく思いながら自転車で出かける。
出がけにAppleさんのサポートとiPad Pro 13の修理についてチャットをしていたので少し出るのが遅れ、焦る。
14時半の予約だが、14時に行くとたいてい誰もいなくてゆっくり話を聞いてもらえる。
初診の患者さんや時間のかかる患者さんを入れる枠にしているように見える。
しかし、タッチの差で私より早く受付に診察券を出した男性は3分ほどで出てきた。
現状確認と薬の継続のみと思われる時間内だ。
一応1人10~15分の枠になっているが、出遅れると30分待つことが多いのに。
そして私は、他人を30分待たせてしまう患者である。

疲れと夏バテで不調であること、息子が居候しているので気を遣うこと、せいうちくんの仕事について等を話す。
あと、最近時々、夢で父と母、姉と4人でいるシチュエーションがあり、しかもわりと平和裏に、なので、これまでそういうことはなかった、母に罵られ、姉にいじめられ、父は滅多に夢には出てこなくて、出てくるとしたら父単体であったことを思うと、何らかの整理がつき始めているのかもしれない、とも話した。
気がつくと自分についてとか人との関係をあれこれ考えて、常に頭の中が思考や言葉でいっぱいになりぐるぐるしていたものが、ここ半年ぐらい「ぼんやり」を初めて体験したりしている、とも。
コロナ罹患で頭が悪くなっただけ、もしくは単なる加齢のせいかも、と付け加えてはおいたが、あまり悪い状態ではないらしい。

ドクターが言うには、
「あなたが気を遣ってても息子がゴロゴロできているなら、いい親子関係が築けているってこと。確かに息子の将来は危なっかしくて不安だろうけど、あなたたち夫婦は息子の幸福を一番に考えているようだから、今の状態でいいと思う」そうだ。

「でも、ダンナさんはホントに頼りになるんだかならないんだか、僕にも読めない」と言うので、先日も換気扇の下で一服しながら2人でゆっくりお茶を飲んでおしゃべりしていたのに、急に後ろの引き出しから爪楊枝を取り出して、キッチン台の隙間の汚れをつーっと取り始めたのでちょっと怒った話をする。
「ごめんね、僕はとっても注意力散漫で、すぐに他のことが気になり始めちゃうんだ」と言い訳していた、と言ったら、ドクターは天を仰いで、
「そういう人なんだよねー、あの人は。会社で30年以上おんなじ部署で仕事してるのに、なんでそんなに集中できないんだろうね。やっぱりADHDの気があるね」と嘆いていた。
「でも、常に緊張している私からすると、あの『のんびり』と『勝手気まま』はうらやましいし、真似るべき宝です。お手本にして、『ぼんやり』を会得しつつあります」と言ったら、
「そこはいいよね。夫婦がうまく欠点と長所をかみ合わせられるってのは、ぶっちゃけて言えば『割れ鍋に綴じ蓋』ってことで、それこそ大事なんだよ」と言ってもらえた。

それでも現在絶好調なわけではないと思ってくれたのか、
「3週間後に来るとして」と終了にかかったので、
「2週間でお願いします。薬は先生が適当と思う量で」と言うと、
「薬は…うん、24日に来るものとして4週間分出しておくから。とにかく生きてまた顔見せて」と処方箋書いてくれた。

席を立つ寸前に大事なことを聞き始めるのは患者としては悪い癖だ。
「根本的なところに戻ってしまって申し訳ないんですが、私は本当に病気なんでしょうか?常に『詐病による疾病利得』について考えてしまうんです」と聞いてしまった。
何度となくしている質問なのに。

ドクターは「まだそんなこと言ってんの?」って顔になり、
「病気ですよ。そうでなきゃ、なんでそんなに苦しんでるの。しかも子供の頃から症状出てるぐらいなのに。疾病利得って、いったい何の得があるの。薬のんで身体壊して、考え込んで悩んでてさ」と言う。
「でも、『憂鬱だ、眠れない、食欲がない』と言えば向精神薬はもらえるって聞きますよ。利得については、何にもしないで夫の稼ぎで生きているという得を目一杯しています」
「何もしていなくないんだよ。あなたの夫は、あなたがいることでどれほど人生で助けられているか。あの人こそ、あなたの存在がなかったら今のように仕事をするどころか、引きこもるか犯罪を犯すか、どうかなってますよ。ダンナ自身もそう言ってるんでしょ?どうしてそのへんは信じられなくて、『自分が無価値だ』ってとこだけ固く信じてるのかなぁ」と溜息つかれてしまった。

母は亡くなってるし、姉とは会ってないから直接はもう言われてないけど、せいうちくんが私を崇め、愛して大切にするのを彼女らは頭からバカにしていた。
「あんな子がいいなんて、変わった人だねー」と言うのが、私と結婚する人に対する彼女らの変わらぬ意見である。
前の夫は「あの人も宇宙人。宇宙人同士で、お似合い」と陰口を叩かれていた。

せいうちくんを「優しいねー」と一見ほめるような言葉も、裏に「尻に敷かれてる」「自分の意見がない」と侮っている雰囲気を上手に表現していたと思う。
オトナになった息子が、「お母さんの実家でのお父さんの扱いは、何と言うか、軽かった」と看破するほどだ。
息子の結婚式で同じテーブルになった甥にその話をしたら、
「ああ、そうなんですね。今、わかりました。何か違和感はあったんですけど、僕には父親がいないから、父親ってのはそういう扱いを受けるものなのかと。でも、そう聞いていっぺんに腑に落ちました」と、真理にたどり着いてすっきりした人間の顔になっていたのも同じ理由だろう。

義妹は真正面から「寝て暮らせていいですね」「娘さんは施設に預けて旅行とか、いい身分ですね」と言うし、義母とはもう20年ぐらい会ってないと思うんだが、せいうちくんが何か言うと「うさこさんに言わされてるの?!」「うさこさんもあなたも昔のことをぐちゃぐちゃと言い続けて!」(娘が障害児になるかもの見通しで生まれてきた時に「助けてほしい」と頼んだのに断られて、恨んでるんでしょう、って最近彼女が言い始めて、それは事実と違うから「そうじゃないでしょ。お母さんがうさこの実家に電話して、『こんな時だけ助けてほしいって急に言われても、お産は女性の側の親の責任だし、お金なんてないから何もできない』って言ったんだよ。誰も、何も頼んでないよ」とせいうちくんは言いたいだけなんだが)と私が文句言ってるみたいに言われるのはしんどい。
いまや、私を責めるのは実の母や姉ではなく、義家族になってる気がする。
せいうちくんをコントロールしていると思われるのは、むしろ名誉なことなのか?
「迷惑かけてる」の天秤が傾くばかりなんだが。

「だから、そんなこと考えてるヒマにきちんと自分の中の敵と戦ってください。死ぬことを考えるのがイヤじゃないってところで、もう普通じゃないんだから。夜中に飛び降りたくなってマンションの階段をぺたぺた上がっていく足音を想像するだけで、僕なんかぞっとしますよ。ダンナさんが異常に寝つきがいいのが心配だ」とドクター。
「でも、結果的に一度も死んでないですよ。『死にたいぐらいつらい』とアピールしてるだけじゃないでしょうか」
「普通の人はもっと別のやり方でアピールするの。とにかく生きてて」
「はい、頑張ります」
やっとドクターを解放してあげて待合室に戻ったら、3人ほどの患者さんが待っていた。
迷惑かけるね。

アプリで薬局に処方箋を送ったら、いつもは電波が悪くて建物の外に出てからでないと送れないのに、棒が4本立っていてすんなり送れた。
思わず窓口のおねーさんに「何か、Wi-Fi変わるとかしましたか?」と聞いてしまった。
「ええ、別に?」と怪訝そうだったので、こちらのプロバイダを変えたせいかもしれない。
いつもはあまり飛んでなくてすぐ圏外になるが、強い場所もあるのか、楽天。

帰り道でせいうちくんが時々行ってくれる、昔のマンションの近くの八百屋に寄った。
マンションの横も通ったが、さすが築20年、ずいぶん古びてきた。
売れてくれてよかったなぁ。
八百屋のおばちゃんは、私を見て、「あら!」と言い、そのまま両脇を見て「あれ?」と言う。
「おねーさん、1人で来たの?おにーさんは?」
この八百屋の素晴らしいところは商品が安くて大きくて新鮮なだけでなく、お客を決して「おばちゃん」と呼ばない点だと思う。
通い詰めたら、いつか「おばーちゃん」に変わるのか、それとも永遠に「おねーさん」なのか。

息子にも好評だった「がめ煮」をまたせいうちくんにつくってもらおうと、牛蒡やこんにゃくを買ったが、肝心の「里芋」が売り切れであった。
「涼しくなったから、またおにーさんと来てね!」と言うおばちゃんに別れを告げ、例によって道を間違えながら、現在の家の近くのスーパーで里芋を買う。
ついでに豚ひき肉と餃子の皮も買ったので、涼しいのが続いたらまた水餃子を作ってもらおう。

せいうちくんが帰ってきて、夜の娯楽は三谷幸喜×クリスティ、最後の「死との約束」。
これは松坂慶子が出てくるので、せいうちくんのお気に入り。
威張りくさった高圧的な母親で、しまいに殺されてしまうのに、いいのか。

原作のポワロ最後の事件「カーテン」を読もうと思ったが、舞台が始まりであるスタイルズ荘なので、まず「スタイルズ荘の怪事件」を読む。
クリスティ初期の「スタイル荘」と終わり近くの「カーテン」では日本ごはんの訳者もフォントも文字の大きさも全部違う。
特に続けて読んだ場合、「カーテン」でいきなりスカスカになってこれは確かに苦手な人は苦手だろう。(せいうちくんは小さくて古風な明朝体、できれば活版印刷の凹みがあるほどの本が好きだそうだ)

その後、山口貴由の「シグルイ」を読みつつ、たまたま未読の新谷かおる「クリスティ・ハイテンション」全7巻と「クリスティ・ロンドンマッシブ」全5巻を読み始めたら、なんとシャーロック・ホームズの姪(母親がシャーロックの実妹のようで、「伯父さま」と呼んでいる)が主人公の設定だった。

面白かったので次になぜかタイトル買いしたフリーマントルの小説「シャーロック・ホームズの息子」上下巻を読み始めたら、モリアーティ教授との死闘で滝つぼに落ちて行方不明になっている間にねんごろになった女性との間の息子が、伯父のマイクロフトを後見人としてケンブリッジとソルボンヌを飛び級で首席卒業し、ドイツとロシアが険悪な荒れたヨーロッパ情勢の中、アメリカにスパイ活動をしに行く、というコムツカシイ話だった。
ホームズの血筋はみんな優秀、って設定はちょっと平凡すぎるかも。

せいうちくんに「フリーマントルって、どういう小説ジャンルの人?」と聞いたら、
「地政学小説かなぁ」との答えだったので、
「ホームズの息子がスパイになるっていう半ば二次創作みたいな娯楽小説も書いてるよ。いかんせん、私には国際関係は難しくて頭に入りにくく、ひたすらヨーロッパ貴族の生活習慣とか当時の風習が面白いだけ」と言っておいた。
設定は面白そうに聞いていたが、彼がこれを読むことはまずあるまい。
自分が読み終えられるかも大いに怪しい。

息子は浅草の芝居が本番に入ったようで、月曜までの5日興業が始まった。
ADではあるが、監督のその日の気分では役者として舞台に上がることもある。
前に観に行った時は、舞台上の見慣れたうちのママチャリをスタンドかけたまま必死に漕いでいたり最終シーンのモブに入っていたりしたので、驚いた。
もう演劇の方を見に行くことはなく、本業のコントライブ、しかも下北沢より遠いとパスしちゃうんだが、彼は彼の世界で頑張ってる。
今夜は浅草近くに住んでるコントグループのメンバーの家に泊めてもらうので帰らないそうだ。
「同棲してるけどね」と聞いてびっくりし、
「コントとかやってる同業者?」とせいうちくんが思わず尋ねたら、
「いや、ファンの人」。
私の中ではほぼ「芸能界の人」認定だ。
私「スキャンダルにならないといいけど」
息子「どんな?」
私「他のファンに刺されるとか」
息子(冷静に)「まだそこまでじゃない」
いつかはそうなるかもしれないのか!
大学時代からよく知っていて、お母さんとせいうちくんがLINE友であるあの男子がねぇ。

24年9月26日

「今日は水餃子とぶっかけそうめんとどっちがいい?」と聞かれて、やや暑いので「ぶっかけそうめん」にしてもらった。
小ねぎも買っておいたのだが、せいうちくんはしっかり前回買ったのを刻んでタッパーに入れ、冷凍していたので不要だった。
今や「冷蔵庫の地図」はせいうちくんの方が私の10倍把握している。


山口貴由の「シグルイ」を読んでしまったので、ちょうど最新14巻が届いてるねこクラゲの「薬屋のひとりごと」を最初から読み返した。
なぜこんなに面白いのだろう。
中華っぽい宮廷モノだからか、美形の宦官が実は宦官ではなく皇帝の弟だったりするからだろうか。
次に読んでみたのは先の山口貴由の「衛府の七忍」全10巻。
息子と、今は「劇光仮面」という作品を描いている、と話したら、
「なんで『月光仮面』?古いね」と言うので、
「いや、『劇』光仮面。特撮の怪人スーツ着るのが好きな人たちの話」てな会話を交わした直後に読み始めたんだが、おっと、これも装甲型の鎧を瞬着したりする話であったか。
途中まで読んでほっといたので、すっかり忘れていた。
特撮が好きな人、なのだろう、作者は。

せいうちくんは突然眠れなくなったと言って朝方5時まで調べ物をしていた。
仕事なのか家庭の用事なのか趣味なのか、全く知らない。
どうやって今朝8時半からのリモート会議に起きられたのかもわからない。
9時頃に「証券会社の見習いとして数字を打ち込む作業の練習バイトをしている。同じフロアに入っているコンビニの店員を悪質クレーマーから救ったら、お礼に千円入金して取引を始める、と言われた」ところまでせいうちくんに話したが、昼頃起きた時にみていた夢はその続きで、遅刻しそうで駅まで母親に車で送ってくれと頼み(現実には決してしなかったことだ。あの人、時間が気ままなんだもの)、「バイト2日目に遅刻したらすごく怒られる。まずコンビニの人の契約から始めなきゃ」とちゃんと話がつながっていた。
これはもはや特技かもしれない。
父がトイレに入っているので「早く出て!」と叫び、姉がシャワーを使っているけど「洗面所、使うね」と声をかけたり、普通に機能している家庭になっていた。
うーん、不思議だ。

すっかり目が覚めて思うことは、もう(というか、ずっとだが)会社や仕事に遅刻する心配もなければ失敗して叱られることもないんだ、と心から安堵する。
それにしても、昔勤めていた会社にまだ籍があるかしら、と総務部あたりをうろうろしたり仕事してるふりをすれば社員として素知らぬ顔でもぐりこめるんじゃないかって類の夢はよくみるが、全く新しい会社、しかも業種違いで全然知らない世界で仕事しようとしてる夢は初めてだ。
65歳にして、何かが覚醒?いや、もう遅い。
ドクターにも「好きなことだけしてください」と言われ、遅刻するとしたら美容院とか病院の予約だけって生活は楽だなぁ。

24年9月27日

そんな風に始まった1日。
息子は出かけ、せいうちくんはお仕事してる。
2人とも不思議な時間に寝ているので、これからどうなるのかわからない。

夜には一応、水餃子を食べながら、観始めた「ジョーン・ヒクソン版のミス・マープル」を続ける予定だが、昨日いきなり「予告殺人」を観てしまって、しかもこれは前に日本人キャストで絶対に観た!と思う。
沢村一樹が刑事やってる日本版クリスティシリーズのどれかだろうか。
せいうちくんは大地真央が主人公を演じていた、と主張する。
しかしあれにはミス・マープルにあたる探偵さんは出てこなかった気がするよ。沢村一樹が仕切ってた。

せいうちくんは本当はポワロのシリーズが観たいらしい。
HDの中身を観てくれるのは助かるが、それで消してしまうわけでもないので、結局増え続けるデータの山。
5年以上たつから、そろそろ外付けHDの1号機あたりは寿命が来るぞ。
かろうじて「カーテン」だけ観たけど、私は原作読んじゃったばっかりだから、少しも驚けなかった。
ただ、偉大なポワロの老境と死には胸を揺さぶられた。
「誰にでも起こることです、モナミ」と言われるヘイスティング氏は最初の頃よりずっとカッコよくなっていた。
年取った方が魅力的なキャラもいるんだね。

キッチンでのんびりタバコ吸いながらノートPCで彼が見ているのは、私も毎週お世話になってる「魔理沙と霊夢の『ゆっくりしていってね』」シリーズ。
しかし、呪術廻戦ではなさそう。息子の大好きな「遊戯王」だそうだ。
「母さんもよく呪術廻戦の考察見てるんだけど、この人、ずっといろんなアニメやマンガの解説してるの?」
「いや、こういうソフトがあって、好きに動画やセリフを入れればこの2人が勝手にやってくれるんだよ。いろんな人が使ってるから、たぶん別人」
そういうものなのか!

私「今でも『遊戯王』流行ってんの?」
息子「いや、これは僕の趣味なだけ」
私「昔、よくカード買ってたねぇ。300円とか500円出して何枚か入ってて、レアカードが出ると大騒ぎだった」
息子「150円だよ」
私「そうか。予防注射に行きたがらない時にそれで釣ったよ。『射ちに行けたらカードひとつ、泣かなかったら2つ買ってあげる』って言ったら、『笑ってたら?』って訊かれて、『そりゃスゴイから、3つだね!』ってなって、注射針が刺さる時にんまり笑ったんで、お医者さんが『ど、どうしたの?!』って気持ち悪がってたよ」
息子「あったねぇ、そんなこと!なつかしいね」
私「アイスか遊戯王カードで解決しない問題はない、って感じだったよ」
息子「そうかー、そんな頃があったねぇ(しみじみ)」
私も懐かしいよ。

「遊戯王のED、いつ聴いてもいいなぁ。癒される」と言う彼と、
「父さんがいまだに『赤毛のアン』の裏歌が好き、みたいなもの?」
「たぶんおんなじ」って会話をしまいに行ってらっしゃいして、今夜は帰らないんだ。のんびりするなぁ。

キャラバンで1人車中泊に出た初日に釘踏んでタイヤがパンクし、ロードサービスを呼ばざるを得なかったGくんに、懸案だったオールシーズンタイヤの件を定例ZOOM会で聞いてみよう。
何しろ我々も、彼が戻って来たあと6日ぐらいの2人車中泊旅を計画しているので、タイヤがどうなるのかは重要な問題。

Gくんが予定より数日早く帰るって言うのは、我々の便宜を考えてタイヤを購入して交換するためかな?
実は親切なGくんは、「数日早めに帰る」と公開したことで「タイヤはちゃんとしてやるから」のニュアンスを出したつもりが、鈍感で直截なせいうちくんに正面から「交換しておいてね~」と言われて、黙ってしようと思っていた親切をあからさまにされ、「あんたのそういう無神経なとこがヤなんだよ」とへそを曲げてしまった可能性あり。
世の中には善行を心がけるが「よっ、善行してるね!」と声をかけられるのが大嫌いな人もいるからね。
Gくん、無神経な我々を赦し給え。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?