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法律事務所の経営に関するアメリカのレポートがとても面白いので、抜粋和訳しました。

Clioという北米のローファーム向けコンサル会社が今年も「Legal Trends Report 2019」を発表しました。

Legal Trend Reportでは、大きく、①法律事務所の成長と衰退の原因、②クライアントが法律事務所をどのように選択しているか、という観点から分析を行い、それぞれの結論を支える様々なデータや実証実験が公開されています。

やはり内容が非常に面白く、せっかくなので多くの日本の法曹実務家、法曹を目指す方々にもシェアしたいと思い、僭越ながら要点を抜粋して和訳してみました。なお、調査対象となっているのはアメリカ市場です。
(本記事の画像引用は全てClio社による「Legal Trends Report 2019」(以下「本レポート」)からのものとなります。)

成長している法律事務所は弁護士数の増加率以上に収益と案件獲得数の上昇率が高い

本レポートでは、「成長している事務所」、「現状維持の事務所」、「衰退している事務所」を以下のように定義しています。
・成長している事務所:過去5年で収益が20%以上増加した事務所
・現状維持の事務所:過去5年で収益の増減が20%未満であった事務所
・衰退している事務所:過去5年で収益が20%以上減少した事務所

そして、「弁護士の稼働によって収益が生じる」形態である法律事務所の成長は、弁護士の数に依存すると思われがちです。しかし、調査の結果、成長している法律事務所は、弁護士数の増加はもちろん寄与していますが、それ以上に収益と案件獲得数の伸び率が非常に高いことがわかりました。

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上記のとおり、成長している事務所は、過去5年で弁護士数が32%増加している一方で、収益はそれを圧倒的に上回って122%、クライアントと案件獲得数も57%の比率で伸ばしています。
他方で、衰退している事務所は、以下の通り、弁護士数の減少比率(17%)よりも圧倒的に収益(54%減)とクライアント・案件数(約40%減)を減らしています。

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成長のキー①弁護士の稼働時間の内、請求可能時間(ビラブル)の割合

成長している事務所と衰退している事務所にとって大きく数字が異なったのが、「弁護士の稼働時間の内、請求可能時間(ビラブル)の割合」(本レポートでは”Utilization”といわれる指標です)でした。

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上記の図表のとおり、成長している事務所(水色)は過去5年でこの割合を34%近くまで上昇させている一方で、衰退している事務所(赤色)は20%近くまで低下させてしまっています。
これがどれだけインパクトを与えるかというと、たとえば弁護士が1日10時間働いているとして、成長している事務所ではそのうち3.4時間分のタイムチャージを請求できている一方で、衰退している事務所では2.1時間分のタイムチャージしか請求できません。これは1日単位だと数万円の差ですが、1年単位に換算すると600~700万の売上の違いに繋がり、数十人から数百人の弁護士がいるローファームにとっては数億円~数十億円の売上の違いに繋がります。

成長のキー②請求可能時間(ビラブル)の内、実際の請求額の割合

次に紹介されている成長のキーは、「請求可能時間(ビラブル)の内、実際の請求額の割合」です。弁護士たちがビラブルとして記録している実際の時間のうち、その満額を請求せずに少し値引き等をする(いわゆる”丸める”)ことは法律事務所ではそれほど珍しいことではないと思います。しかしここでも成長している事務所と衰退している事務所に大きな違いが生じています。

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上記の通り、成長している事務所と現状維持の事務所はビラブルのうち90%前後の金額を請求できている一方で、衰退している事務所はたった77%しか請求できません。(少し興味深いのはどの年度の調査でも、成長している事務所のほうが現状維持の事務所よりもこの比率が低いことです。ある程度の割引サービスも同時に実行しているということでしょうか。)

成長のキー③請求額の内、回収率

さらに成長のキーの3つ目として紹介されているのは、「請求額の内、回収率」です。これも如実に事務所ごとに差が出ています。

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成長している事務所と現状維持の事務所は請求額のうち90%以上の金額を回収できている一方で、衰退している事務所はたった81%しか回収できていません

逆に成長に全く関係のない要素とは…

上記のとおり3つの大きな成長のキーが判明した一方で、予想に反して、成長には特に寄与していない(成長している事務所と衰退している事務所の間に有意な差がない)要素がいくつかあります。

・取扱分野(Practice area)
・事務所規模(Firm size)
・アワリーレート

これは意外ではないでしょうか。特にアワリーレートについては、外資や大手ローファームが非常に高いアワリーレートで実務を行っているからこそ請求できる金額もあるはずで、正直これに有意な差がないというのは、結局大手でも外資でも、衰退するところはするし、減益するということなのでしょう。ちなみに、平均のアワリーレートは$260程度でした。

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ここまでをまとめると、事務所規模や取扱分野、アワリーレートにかかわらず、また弁護士の増加数よりも重要なのは、どれだけ案件、クライアントを獲得し、効率的に仕事を行い(自分の業務のうちビラブルの割合を増やす)、回収できるかが事務所の成長にとって重要であるようです。

さて、次はクライアントがどのようにして法律事務所を選んでいるのかというテーマを見ていきましょう。

クライアントは、リファーラルと同じくらい、検索を活用している

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クライアントが弁護士を探す際、59%がリファーラルを活用し、57%は自身で検索を活用すると回答しました。なお16%はその両方を利用しています。
さらに下図はその詳しい内訳を示しています。

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最も多いのは、友人や家族からのリファーラル(32%)ですが、次に多いのは、弁護士のWebサイトを検索したり(17%)オンラインの検索エンジンを活用する(17%)ことでした。やはり、オンライン空間でのポジション取りは重要なようです。
また、クライアントが事務所を探す際に重要視するのは以下のような要素でした。
・弁護士の経験と信頼できるかどうか(77%)
・取扱実績(72%)
・法的プロセスや見通しの明確な説明(70%)
・案件の費用感(66%)(←個人的には意外に低いと感じました)

さらに、クライアントのうち42%は2つ以上の事務所に問い合わせ、相見積もりを取ることがわかっています。他方で、同じ割合(42%)で、最初に問い合わせた事務所の印象がよかったらそこに決めてしまうこともわかっています。
結局、第一印象を良くしつつ、相見積もりにも勝てるようにしておくことが重要ということですね。

クライアントはタイムリーなレスポンスを求めている(最低24時間以内に返信しなければならない)

クライアントが法律事務所に求めることは以下のような回答になっています。

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何より重要なのはタイムリーなレスポンス(50%)であり、次に説明の理解のしやすさ、次の手続の明確化、全ての質問への丁寧な回答、費用感などが出てきています。

タイムリーなレスポンスに関していえば、クライアントのうち10%は1時間以内のレスポンスを期待し、24%は数時間以内のレスポンスを、45%は24時間以内のレスポンスを期待しています。つまり、8割近くのクライアントは24時間以内に返答しなければ、その期待に応えられていないことになります。

弁護士は業務遂行能力に自信がある一方で、経営能力にはそれほど自信がない

また少し違う視点になりますが、今の法律事務所は将来の成長に向けてどれだけ準備ができているのかというテーマでも分析がなされています。

法律事務所の経営を任される立場のマネージングパートナーは、その92%が弁護士としての能力に非常に自信があると考える一方で、53%だけが事務所の経営に自信があると答えました。しかも、このように答えた人たちは、MBAを修了していたり、弁護士になる前に会社経営経験があったり、大学の専攻が経営学だったりするなど、やはりアメリカならではの事情がありました。ローファームでは、法律家としては成長できても、経営スキルは学べないと考える弁護士が多いようです。

では、経営に自信を持つ弁護士とそうではない弁護士の違いは何なのでしょうか。

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上記の表はマネージングパートナーが行っている業務への回答を示しています。青色の棒グラフが経営に自信を持つと答えた弁護士で、赤色の棒グラフが経営に自信がないと答えた弁護士の回答です。

コンサルティング、オフィス管理やネットワーキング、経理、IT対応などは双方ともに同程度行っているのに対し、明らかに両者で異なるものがあります。それが、マーケティング長期の財務計画です。経営に自信があると答えた弁護士とそうではない弁護士では、この両者の対応で大きな差が出ています。

所感

少々長い記事になってしまいましたが、以上が抜粋和訳となります。
所感としては、本レポートはアメリカを対象にしていますが、日本に関してもそれほど大きく異なるものではないと感じます。
私が所属する法律事務所ZeLoも、これを踏まえて見直していかないといけないところもありましたし、他方で全く間違っていないと自信を持てたところもあります。
少なくとも、「成長」を経年変化で測る上での要素は新たにいくつか発見できました。

ぜひSNSを含め、いろいろなところで議論が発展すると嬉しく思います。

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結城東輝(とんふぃ)
図書館が無料であるように、自分の記事は無料で全ての方に開放したいと考えています(一部クラウドファンディングのリターン等を除きます)。しかし、価値のある記事だと感じてくださった方が任意でサポートをしてくださることがあり、そのような言論空間があることに頭が上がりません。