夜明け
もしかしたら最後の更新になるかもしれないし、ならないかもしれない。
最近、少しずつ心が穏やかな時が増えてきているので、その話をしたいと思う。
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風の穏やかな朝、岸辺に波が静かに打ちつけるのを聴いているように、心が静かな時がでてくるようになった。
かつて、主様は、波打ち際で溺れていた私を舟に乗せてくれたと表現したことがあったけれど、私はひとつの答を見つけつつある。
主様は、趣味のことを、まるで素人だった私に教えてくれた。
並んで無心に作業をしていく。
風の音が、鳥の声が、私の心に日を差していくようで、青空の記憶がいつまでも残っていた。
心が静かになる瞬間。
未来が怖くなくなっていたことに、私はふと我に返って気づく。
その感覚は、主様と一緒の時だけではなく、一人で行動している時にも変わらずあったりして、そのことを思うと自分を信じる気持ちが湧いてくる。
暗い夜の街の記憶は思い出としておさまって、最後の1行を大切に読み終わった本のように、パタンと閉じて、本棚にしまっておけるような日も増えてきた。
胸の奥にあいた深い黒い穴に小石が投げ込まれるような孤独の感覚が、消えている時がある。
それから逃げる為に必死になった日々が少しずつ薄らいでいく。
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そんな静かな日々が大荒れの荒天になることもあり、そういう時は昔の心の古傷にそっくりそのまま乗っ取られてしまう現象が起きているらしい。
主様は、落ち着け、と言ってくれる。
私は自分でも落ち着けるようにと練習している。
そして、少しずつ、目の前のことに取り組める時間が増えてきている。
いつか、沢山ある辛い記憶が本の中におさまって、強風で煽られてもまた棚の中に戻せるように、自分の心の中が整理できたらいいなと思う。
少しずつでいいから、焦らなくていいから、そう思う。
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海の夜明けは水面からやってくる。
渡る風の匂いが変わり、藍の空にやわらかな光が満ちて白い空はやがて世界に様々な色を連れてくる。
自分の心はまだ夜明け前の静けさの中にあるのかもしれない。
それでも、たしかな目標を持って歩いていける時がある。
きっと乗り越えていける。
もしかしたら旅はとうに終わっていて、今の自分は次の旅を始めているのかもしれない。
未来にも過去にも怯えないでいられたな、とふと気づく時、私はここに書くことを失うのかもしれないし、新しい何かを生み出せるようになるのかもしれない。
子供の頃無心でノートの端に文章を綴っていたあの頃の夢の続きが、白い空の向こうに広がっている気がするのだ。