タイトル胃腸

次の学習指導要領から、小学校で習う漢字が変わることを知っていますか?

2月14日に、文科省から次期学習指導要領案が公開されました。「案」としているのは、現在パブリックコメントを受付中だからです。案の内容については、こちらをご覧ください。パブリックコメントでの意見を踏まえて、3月中に正式な告示があると思います。

公開された次期学習指導要領案。国語では、小学校の学年別漢字配当表(教育漢字)が変わるという、大きな変更がありました(そのわりに、広く認知されていないんじゃないかと思っていますが……)。前回の配当表変更が1989年で、今回の指導要領実施が2020年からなので、31年ぶりの変更です。久々ですよね。。

まずは変更内容を紹介している報道を見てみます。

◇都道府県の漢字、小4までに=国語
 都道府県名に使う全漢字を小学4年までに学習する。小4の社会で都道府県の名称と位置を学習するのに関連付ける。小学校で学ぶ漢字として定められていない新潟の「潟」など20字を小4に追加。現在は小5で学ぶ富山の「富」など4字、小6で学ぶ宮城や茨城の「城」も小4に前倒しする。小学校6年間で学ぶ漢字数は現行より20字増の1026字になる。
(【時事通信】実社会で使う内容多く=主権者教育や災害充実―学習指導要領改定案・教科別ポイント

上の記事にもあるとおり、今回は都道府県に使う漢字を小4までに学習するという目的での変更になります。都道府県に使う漢字を小学校で習うことについては以前から報じられていたので、いくつか記事を書いていました。

「(1)」とありますが、「(2)」「(3)」もあります。

また、次期学習指導要領案の公開翌日に、新しい学年別漢字配当表を整理して次の投稿をしました。おかげさまで、多くの方が見ているようです。

次期学習指導要領の審議を追いかけていた自分にとって、今回の案で初めて知ったことは、都道府県漢字は小4までにすべて学習することと、そうなると小4で学習する漢字が多すぎるので(?)、小5・6へと移る漢字がある(どの漢字が移動になるかが、はっきりした)ことでした。


移動する漢字を眺めて、移る理由を思い浮かべる

漢字の追加、移動があるのは小4、小5、小6です。新しいラインナップを見ながら、どの漢字が変わったのかを見ていこうと思います。

と、その前に、小5・6へと移動する漢字について、ぼやんと疑問に浮かぶのは「なぜ、この漢字が移るのだろう?(この漢字は移らないでこの漢字なのだろう?)」ということです。他学年から小4へ行く漢字は「都道府県の漢字だから」という明確な理由がありますが、配当学年が現行より上になる漢字については、個々の理由は今のところ明示されていません。

ただ、次期学習指導要領の審議をしていた「教育課程部会 国語ワーキンググループ(第7回)」の資料〈「学年別漢字配当表」の取扱いについて(案)〉には、現行の学年別漢字配当表にある漢字が各学年に配当される際の根拠(観点)が示されています。

1.現行の「学年別漢字配当表」は、常用漢字の中から、以下の観点から漢字を選び、各学年に配当したものである。
【現行の学年配当の観点】
① 当該学年の児童の日常生活及び学校生活に必要な用語を表記する漢字であること。その際、国民としての将来の社会生活に必要な用語を表記する漢字についても考慮すること。
② 当該学年の国語科及び他教科等において必要な学習用語を表記する漢字であること。
③ 当該学年の児童にとって従来の習得率及び定着率からみて無理のない漢字であること。
④ 漢字の字形及び字義について、次の事項を考慮すること。
ア)漢字の構成上基本的なものであること。
イ)意味上の対応関係からみて適切な漢字であること。

今回の小5・6へ移動する漢字の選考基準も、このような観点だったと推測できるので、これを踏まえながらラインナップを見ていきたいと思います。

まず、新小4漢字です。漢字表は、公開された「学年別漢字配当表」案を切り出し、こちらで移動となった漢字を色囲みする加工をしています。

小5から小4へ(4字):賀・群・徳・富
小6から小4へ(1字):城
中学から小4へ(20字):茨・媛・岡・潟・岐・熊・香・佐・埼・崎・滋・鹿・縄・井・沖・栃・奈・梨・阪・阜

小4から小5へ(21字):囲・紀・喜・救・型・航・告・殺・士・史・象・賞・貯・停・堂・得・毒・費・粉・脈・歴
小4から小6へ(2字):胃・腸

小4漢字は、200字から202字になりました。現行の200字ですら全学年の中で最も多い漢字数(3年も200字)だったのに、さらに2字増えることになります。田島優『現代漢字の世界』(朝倉書店)をもとに学年別漢字配当表で定められた漢字数の変化をまとめてみましたが、1958年~1976年までは小4は205字学習していたようなので、過去最も多い学習漢字数ではないようです。

新しく小4配当になった漢字は、全て都道府県の名前で使う漢字です。学年別漢字配当表は、それに提示されている漢字の形を学習上の「標準」として定めていますが、「茨」の字形は常用漢字表の「通用字体」と異なっているようです。

続いて、新小5漢字です。

小4から小5へ(21字):囲・紀・喜・救・型・航・告・殺・士・史・象・賞・貯・停・堂・得・毒・費・粉・脈・歴
小5から小4へ(4字):賀・群・徳・富

小5から小6へ(9字):恩・券・承・舌・銭・退・敵・俵・預

小5漢字は、185字から193字になりました。小4から小5へやってきた漢字の、その変更理由を考えてみると、

…「井」を小4で扱うことで、「井」を漢字の構成要素として持つ「囲」をずらした?
…「紀行文」「○○世紀」などの言葉は小5学習のほうが良いと判断した?
…中学年で扱う「気持ち」の語彙として必要だと思うが、あまり語が作れないから移動?
…「求」が小4配当なので、その構成要素を持つ「救」をずらした?
…「典型的」「型紙」などの言葉は小5学習のほうが良いと判断した?
…「航海」「航路」などの言葉は小5学習のほうが良いと判断した?
…よく使われる言葉が、小5配当の「報」と組み合わせた「報告」なので小5に?
…「殺風景」「息を殺す」などの言葉は小5学習のほうが良いと判断した?
…よく使われる言葉が、小5配当の「武」と組み合わせた「武士」なので小5に?
…「歴史」という言葉は小4ではまだ早いので小5に?(社会科の「歴史」は小6で学習)
…よく使われる言葉が、小5配当の「現」と組み合わせた「現象」なので小5に?
…よく使われる言葉が、小5配当の「状」と組み合わせた「賞状」なので小5に?
…お金に関わる「かい(貝)」の言葉は小5に多くあるため移動?
…よく使われる言葉が、小5配当の「留」と組み合わせた「停留(所)」なので小5に?
…「堂々」など小4では使える言葉が少なく、「講堂」の「講」は小5なので、小5のほうが学習しやすいと判断?
…小5配当の「損」と対になる漢字なので小5に?
…「気の毒」などの言葉は小5学習のほうが良いと判断した?
…お金に関わる「かい(貝)」の言葉は小5に多くあるため移動?
…家庭科は小5からの学習のため、料理に使われやすいこの漢字を小5に?
…体に関わる「にくづき」の言葉は「胃腸」が小6になるため、同じようにこちらも移動?
…「歴史」という言葉は小4ではまだ早いので小5に?

……長いですか? すみません。。ちなみに、学年別漢字配当表の配当漢字移動は今回で3回目ですが、全3回とも移動対象になっているのは「得」だけです。学習時期が定まらない、流浪の漢字ですね。

最後に、小6漢字です。

小4から小6へ(2字):胃・腸
小5から小6へ(9字):恩・券・承・舌・銭・退・敵・俵・預

小6から小4へ(1字):城

小6漢字は、181字から191字になりました。小4・5から小6へやってきた漢字の、その変更理由を考えてみると、

…体に関わる「にくづき(月)」の言葉は小6に多くあるため移動?
…体に関わる「にくづき(月)」の言葉は小6に多くあるため移動?
…「因」が小5配当なので、その構成要素を持つ「恩」をずらした?
…小6配当の「巻」と同時期の学習にすることで、両者の区別をつけさせることを狙っての移動?
…敬語の学習は主に小6で行うので、小6に?
…体に関わる言葉は小6に多くあるため移動?
…金属に関わる「かねへん(金)」の言葉は小6に多くあるため移動?
退…「辞退」「引退」などの言葉は小6学習のほうが良いと判断した?
…「敵意」「敵視」などの言葉は小6学習のほうが良いと判断した?
…「たわら」はあまり日常に見かけなくなったと判断して小6へ?
…小6配当の「頂」と同時期の学習にすることで、両者の区別をつけさせることを狙っての移動?

「胃」「腸」が2学年上の学習になりますね。移動漢字は小4⇒小5での「殺」「毒」、小5⇒小6での「退」「敵」と、ネガティブな言葉、文章で使用される漢字が目立つなという印象です。

もちろん、この変更理由は私のなんとなくの予想なので、詳しいところはわかりません。この理由で移動対象なら、同じ観点でほかの漢字も移動になるはずだろう、というのは出てくるだろうと思います。むしろ、移動しない漢字の「移動すべきではない理由」が強く、比較的移動しても構わなそうだから移動したという側面もあるのかなと感じています。可能であれば、移動漢字の根拠を明示してもらいたいですね。

まだ確定ではないですが、新学年別漢字配当表が公開されました。教材づくりはこれからです。今のうちに、何ができるかな……。

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