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娘と散り際の夜桜の下で

首相が緊急事態宣言についての記者会見をしているとき、私は外にいた。娘とじっくり話すために。

仕事を終えると、待ち構えていた5歳の上の子(娘)から遊びの要求をされた。

娘の言いなりで、歌うだとか、折り紙を交換するだとかを行う。今度はビデオを撮るから超おもしろく踊ってほしいとのことだったので、一回だけだぞと伝えたうえで超おもしろく踊った(娘は子供用のカメラを持っている)。

すると娘は、もう一回踊ってほしいと言ってきた。

一回だけと言っただろうと断る。しかし、娘は何度も「もう一回だけ!」と言ってくる。何度も何度も。

そこで、一回だけ踊るから、今度から「もう一回」は言わないと約束するか? と迫る。今をとるかこれからをとるかの二者択一にして事態が硬直するのを防ごうとする一手だ。

しかし娘にはその手は有効ではない。踊ってほしいし、約束できないと言ってくる。一歩も譲らない。

事態は急を要する。妻が下の子のご飯を食べさせるのだが、上の子がうるさくては集中できないので、なだめるために外へ連れ出すことにしたのだ。

娘と手をつなぎながら坂道を下る。まだ強情さを残している娘に、「ほら、今日は月が丸いな」や「もう桜散っちゃったね」と話しかける。娘も少し話にのってくる。

近くの広場に腰を下ろすと、私は目下の問題の前に、これからのことを伝え始めた。

「今日、緊急事態宣言というのが出たんだよ。ウイルスにかからないようにするために、ほとんどおうちにいなさいねっていうお願いなんだ。だから、明日からしばらく保育園に行かずに、みんなでおうちにいることになるよ。でも、パパはお家でお仕事があるから、あんまり遊べないんだ」

娘は、娘なりに得た知識を披露し、この状況を理解しているとアピールする。

私はさらに続ける。

「保育園で遊べなくなるから、君はあんまり心落ち着かないと思う。同じように、パパやママも初めてのことだから、落ち着かないのはみんなそうなんだよ。それでイライラしたりクヨクヨすることもあるかもしれないけれど、無理せずなんとかやっていこうね」

どこかでしっかりと伝えなければならないことを、この場で言うことができた。自分でも、よく話すことができたなと思った。

…娘は反応せず、「さっきのビデオの話はどうなったの? 踊ってよ」と話を戻してきた。

「あのね、だから、お互いにあんまり怒らないようにしよう。後で踊るから、もう『もう一回』って言わないかい?」

「言う」

「じゃあ、さっき話したみんなイライラすることもあるよっていうのはわかったかな?」

「わからない」

「そうか。。。じゃあ、パパがそんなことを話したということだけ覚えていればいいよ……。寒いから帰ろうか」

娘は少しも引き下がらなかった。帰宅後、超おもしろい踊りをして娘を喜ばせ、ビデオを見せてクールダウンさせた。

娘の心に何か残ったのかどうかは、私にはわからない。首相の会見はしっかりみていないので、寝静まったらみておこう……。

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