目やにが楽しみだった朝
昔、目やにが不思議だった。
寝て起きたらいきなり発生している白いカスは、
幼い私にとって面白いサプライズだった。
毎朝目やにをとって眺めるのが楽しみだった。
まだ年が1の位だったある日、起きたら目の前が白くぼやけて何も見えなかった。
一瞬何のことかわからなかった。
ひょっとして目が見えなくなったのかと、戸惑いと恐怖を感じながら、
よろよろと寝室の窓に手をかけて立ち上がった。
かゆみを感じた目をこすると、沢山の目やにがまつげと絡まり合い、視界を邪魔している事がわかった。
わたしはとてもうれしかった。
こんなにも目やにが発生するなんて。
いつも以上に目やにを回収できる。
私は目をこするたび、ぽろぽろとはがれ落ちる目やにに高揚しながら、
洗濯物をしている母についでに心配されようと、
「目が見えへん」とか大き目の声で言ったりした。
目やにが多くなるというのは、目の病気の症状にあるらしい。
幸いその時は何かの病気でもなく、ただの「めやにが多い日」だった。
それから10年以上たつけれど、これ以上の目やに体験をしたことがない。
それどころか、昔よりずっと目やにができる量が減ったと思う。
朝起きるのがつらい。
そんな今こそ、目やにを楽しみにするのも手なのかもしれない。
朝、目がしらに溜まるそれを指でキュッとはがしてティッシュに取る。
今日は、大量だ!とか、今日は少しウエッティね♪とか、
なんと今日は粉だわ!とか、目やにで一喜一憂する20代女性。
起きれないよりずっといいかもしれない。
こんな年になるまでにどこかで置いてきた、色々な感情を、
たまには自分から迎えにいくのもいいのかなと思う。
私達がしょうもないと切り捨てた沢山のものの中に、
あの時の輝きが実はまだ眠っているのかもしれない。
なんかかっこ悪いけれど、あのキラキラを今は少し思い出したいと思ってしまう。
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