タヌキの散歩?
公園で子供たちが「タヌキが散歩してるのを見た!」と、大はしゃぎで帰ってきたのよと、友達が教えてくれた。
「尻尾がフサフサしたタヌキが散歩してたんだって」
彼女には保育園に通う子供がいる。
その子たちの保育園では、天気がいい日、お揃いの帽子を被り、みんなで手をつないで公園を散歩している。
猫を散歩させていると、保育園児たちの軍団によくぶつかる。
その度に園児たちは、思いつく動物の名前を叫ぶ。
「タヌキ!」
「ニャンニャン」
「ワンワン」
「ラスカル!」
なぜかアライグマはアライグマではなく、ラスカルになっている。
今時の子供も、アライグマ・ラスカルは知っているらしい。
親の影響なのだろうか?
「アライグマじゃないの?って聞いたら、ラスカルみたいな顔じゃなかったっていうのよね」
目の回りが黒くないし、タレ目ではなかったというのだ。
「顔がシュッとしてて、ラスカルみたいに可愛いくなかったって」
アライグマより、タヌキの方が顔はワイルドなのは確かだ。
「毛がタヌキ色でね」
「タヌキ色って?」と聞きかえすと
彼女は「グレーっぽくて、アライグマみたいな明るい茶色じゃなかったらしいの」
タヌキ色・・・
グレーと茶色と黒が混じったような色だろうか。
キツネ色なら想像がつくが、タヌキ色?
すると彼女が「たぶんこんな色」と指差したのは、私が抱えていた我が家の猫。
「それがフサフサの長い尻尾をピンと立てて、ゆっくり歩いてたって」
タヌキは尻尾が短くて、フサフサして長いのはアライグマの方だ。
「タヌキって、尻尾が短くなかったっけ」と言うと
「そんなことないでしょう」と彼女。
いや尻尾の長さは、この際、どうでもいい。
タヌキの散歩って見てみたいわ。ワンちゃんみたいに散歩してたんだってよ」
彼女は、猫をじっと見た。
「そうそう、きっとこんな感じよね」
彼女は不思議な生き物を見ているように、目をぱちぱちさせた。
見つめられて居心地が悪くなった猫は、私の腕からするりと下りると、散歩へと歩き出した。
「えっ?」と、彼女がちょこっと首を傾げた。
フサフサの尻尾を立てて悠々と歩く猫のタヌキ色の毛並みが、夕陽に当って光っていた。