2023-11-29: 下北沢バックグラウンドストーリー
上伊那ぼたん43話が公開されました。
舞台は下北沢。
ところで、私は東京の渋谷・新宿以西、つまり中野区・世田谷区・杉並区近辺に土地勘がまったく働きません。
京王井の頭線ってのに乗れば着くんでしょと高を括って読書をしていたら、終点・吉祥寺駅に着いてしまいました。
というか、吉祥寺 == 下北沢とさえ思っていました。
吉祥寺も下北沢も初見じゃないのに。
無論、吉祥寺 != 下北沢です。あやうく取材失敗し、ヤケクソで東京吉祥学苑の臨時教員に応募するところでした(このネタ、今通じるのでしょうか……)。
不案内で、都会のことはよくわからないのです……。
取材当時、下北沢では『ぼっち・ざ・ろっく!』カレーフェスが盛況で、街は活気に溢れおおいに賑わっておりました。
下北沢といえば、私の妻がファンである「Rojiura Curry SAMURAI.」下北沢店をはじめ、カレー店がひしめき合う街として神保町の好敵手たり得ています。
私も、大いに舌鼓を打ちたいところでしたが、なにぶんタイトなスケジュールを切り裂いての差し込み取材、涙を呑んでカレーはSkipいたしました。
下北沢の「本屋B&B」さんが、店舗内でビールを飲みながら本が選べるという愉しい書店であることは、かねてより知っておりました。
Takram・Minimalとのトリプルネームチョコレートにも、文学×チョコというコンテクストを感じ、ぜひ『上伊那』で扱わせていただきたいと思っていました。
ところが、『上伊那』作中のバレンタイン時期が2023年の秋冬にもつれ込み、当然ながら当該チョコレートも完売と相成っておりました。
販売中の商品ならいざ知らず、終売した商品を漫画に登場させることをお許しくださった、関係各位の皆様には本当に感謝しております……。
ありがとうございました。
当然、このチョコレートは私も賞味したのですが、あえてザラザラとさせた口当たり、しっかりと存在するやさしい生姜の風味など、他所ではちょっと味わえない、無類の一枚となっていました。
ミニマルのパッケージは存在感があり、作中のようなプレゼントにもうってつけかと思います。
43話について「今回は、ほのぼのとした回だったね」と早速ご感想を頂戴しておりますが、ある面から光を当てることで、やにわに緊張感が漲る回でもあると思います。
郡上先輩はきっとチョコレートをジンランに贈るのでしょうが、そのチョコレートは元々、ぼたんがいぶきに贈ろうとしていたと考えられます。
郡上先輩は、以前の彼女であれば(作中時間で言えば、数ヶ月前ですが)彼女もまた、いぶきにチョコを贈ろうとしたのではないか。
郡上先輩がいぶきにチョコを贈らなくなった(贈れなくなった)理由の1つはジンランであり、もう1つはおそらく、ぼたんその人であると、私は思います。
そんなぼたんからチョコレートを譲り受け、それをジンランに贈与するという構図。人手を渡り歩くチョコレートの旅を支えるのは、彼女らの感情と関係性なのです。これを想像すると、ちょっとゾクッとしませんか?
「故郷と旅路」をイメージした本チョコレートは、まさに今回の話になくてはならない存在でした。
私はこのために、非常にこのチョコレートに固執し、関係者の方々のお手を煩わせてしまいました。
惜しむらくは、このチョコレートを読者の方々に賞味いただける時期に、43話を公開できなかったことです。とても反省しております。
プロット段階では、ぼたんと郡上先輩はそれぞれ本を買って、お互いに紹介するという案もありました。
ぼたんはヴァージル・アブロー『複雑なタイトルをここに』、郡上先輩は柄谷行人『哲学の起源』を選ぶ予定でしたが、これらは実際に私がB&Bでお酒を飲みながら選んだ本です。
ちゃんと二人の思考をイメージして選びました。
B&Bで本を見ていると、「本を探す」というよりも「本の方から飛び込んでくる」という感動があります。
こんな本があるのか! と、「事故的」な未知との出会いが楽しめますので、ぜひ下北沢にお立ち寄りの際はカレーのお供に、一冊お求めくださいね。
本来、公開したばかりの自作について解題めいたことをするものではないですが、今回はどうかご容赦ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?