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2024-09-09: 最近読んだ本

とにかく身辺忙しく、精神・身体ともにかなり参った8月であった。
常に体調を崩し、もはやSoftware Engineerと漫画家を兼業することが体力的・精神的に難しく、ここをキャパシティの分水嶺と定め専業化することにした。

退職した、と簡単に書けるが、相応の逡巡や検討を加えた上での判断であり、これについてはまた別の記述に詳細を譲る。


織田一朗『時計の科学』

最近時計に関心がある。
今まで無かったか、というとそんなこともないのだが。

5年以上前、LM7先生に中野のジャックロードへ連れて行ってもらった。
当時は高級時計についてまったく知識がなく、その値段に面食らった記憶がある。

本書はXでSCA自先生が紹介されていた一冊で、時計史を技術的側面から紹介している。ブルーバックスなので、内容の温度感も適度で良かった。

余談だが、近日知人の結婚式に参加することになり、礼服に合わせられるような腕時計を1本も持っていないことに気づいた。
SEIKOコラボモデルのSZSB006を買おうかなぁと思っていた矢先、Web通販はSOLD OUTしてしまった。近所の店頭にはまだあるだろうか?
後悔先に立たずである。

金銭的に余裕が出来たら、TUDORのブラックベイを買いたいと思っている。

みの『戦いの音楽史』

YouTuber・みのによる音楽通史。
氏のチャンネルは時々視聴しており、本書もその延長で購入した。

アカデミックな内容を期待せず、現代音楽を大づかみしたい場合に最適な内容だと思う。
この手の本は「XXに言及されていない」「内容に偏りがある」「専門家が書いていない」「専門家の仕事を参照していない」といった批判を受けるものだが、モチベーションがある人は、本書を足がかりにより専門的な本を読めば良いだろう。

花井裕也ら『画像生成AIと著作権について知っておきたい50の質問』

イラストレーター、Software Engineer、弁護士による画像生成AIを巡る事実確認と整理。

画像生成AIに関する質問について、事実ベースで回答していく体裁の本書は、「画像生成AIってなんで問題視されてるの? よく炎上してる気がするけど、専門的なことはよく分からない……」という方の疑問にミートする内容になっている。

1年ほど前に刊行された書籍であるため、記載している内容が一部古くなっている可能性があるが、基本的には2024年秋現在読んでもアクチュアルな内容である。
画像生成AI推進派、規制派といった個人の利害・派閥性から距離を置いた慎重な内容である点がとくに素晴らしい。

森山至貴『LGBTを読みとく』

森山の仕事を知ったきっかけは、上記の対談記事であった。

私はセクシュアリティに関する現代の議論について、正直なところほとんど無知である。専門教育を受けていないし、私自身も自己のセクシュアリティに対して真剣に考えたことがあまりない。いわんや他者についても、である。

とはいえ、昨今SNSなど利用していれば、日々セクシュアリティやセクシャルマイノリティについての話題や報道が視界に入る。
これらを深く理解し、他者(あるいは私自身)に対して無自覚に暴力的な態度を取らないためにも、地道に勉強をしていこうと思っている。

参考文献も多く紹介されており、初学者におすすめ。

フェイクドキュメンタリーQ『フェイクドキュメンタリーQ』

原稿の厳しい期間中、YouTubeで公開されているフェイクドキュメンタリーQを楽しく視聴した。

私は今まであまり、テレビ東京のプロデューサー・大森時生が手掛けた番組を熱心に視聴してこなかった。
おそらく、「テレビ番組」をハックした体裁であるラディカルな大森の仕事について、そもそも「テレビ番組」自体に興味を失っている私はどこか関心が持てなかったのだと思う。

他方、フェイクドキュメンタリーQはファウンド・フッテージ的な、断片的映像の集積である。
自ら「フェイク」を謳うとおり、本映像連作は無論創作物であるが、ゆえに「どれだけガチっぽい映像を作れるか」というゲームを(開き直って)始めているところに新しさがある。

なんか変な映像、気味の悪いもの、生理的に嫌なもの。違和感。
本書はそんなフラグメントに、映像作品からは認められなかった新情報を載せ、考察を促してくれる。
蛇足だと考える人もいるだろうが、私は楽しめた。

中村達也『THE SUIT』

スーツが欲しい。
正確には、スーツを仕立てたい。

スーツで仕事をしていたのは5年以上前である。吊るしのスーツを適当に着ていた。
正直、スーツを着ないとアンダードレスになるような場所には縁がないのだが、稀にハレの場に参加する用事が発生し、頭を悩ませる。

そもそもスーツってなんだ。クラシコ?
スーツのことを考えると、いつも脳内に会ったことのない白洲次郎の顔がよぎる。「おい、それじゃアンダードレスだ。場違いだよ」と、英国仕込のダンディズムでピシャリとやられる妄想。

一着くらい、まともなスーツは持っておきたいものだ。

筒井康隆『文学部唯野教授のサブ・テキスト』

唯野教授を読んだのは学生時代である。
正直、私は筒井の著作をほとんど読んでいない。唯野教授と家族八景くらいなものだ。

唯野教授を楽しく読めた人にはおすすめ。
逆に、未読の方はまず本書の前に唯野教授を読むことをおすすめします。

山田太一『その時あの時の今』

脚本家・山田太一のテレビドラマ制作を振り返る一冊。

私は山田のエッセイが好きだ。
なぜ好きなのかと聞かれるとうまく答えられないが、いちいち、あっいいなと思わせてくれる。
別に山田の人柄が偲ばれるとまでは言わないが、この考え方や語り口は好きだな、という感じ。

廣松渉・小林敏明『哲学者廣松渉の告白的回想録』

廣松の晩年に、哲学者の小林がテープを回して廣松から自伝的回想を聞き取った1冊。

廣松が平易な言葉で自らを語った文章は多くないため、非常に貴重な内容である。

私はなんとなく、廣松はスマートな経歴の人物だと勝手に思い込んでいた。
ところが、以外にも(?)彼はいささか不良な少年時代を送り、ストレートにエリート街道を歩いてきたタイプではないのである。
一歩道が違えば、大学教授でなくプロの左翼活動家になっていたかもしれない。
廣松にはそういう危うさがある。

個人としての廣松渉に興味がある人がどれだけいるか知らないが、才人の意外な一面に驚かされる読書であった。

POPEYE特別編集『本と映画の終わらない話。』

書店で衝動的に購入。
結構な分量であり、なかなか読書が進まなかったが、やっと読み終わった。

POPEYEのこういう特集本は、ついつい手に取ってしまう。

鶴見俊輔『鶴見俊輔対談集 未来におきたいものは』

鶴見俊輔の対談本は数多い。
対談相手に奈良美智や大江健三郎を見つけ、オオッと思った次第。

小田実らとのベ平連活動で有名な鶴見だが、正直何をした人なのか私はよく知らなかった。主要な仕事を知らないのである。
専門がなんだかわからないし、いわゆる「戦後知識人」というくくりでぼんやりと把握している。

それにしても、16歳でハーバードに入学し日本語を忘れ、ラッセルやクワイン、カルナップなんかの講義を受けていて……とんでもない人物であることには間違いない。

手塚治虫『手塚治虫エッセイ集 5』

手塚のエッセイ第五巻。
いったいこれだけの文章をいつ書いていたのか? あらためて異常に感じる。

本書では映画のみならず音楽について紙幅が割かれ、とくにチャイコフスキーやモーツァルトへの愛好を示している。
歌謡曲オンチを自認する手塚は、もっぱらクラシックの人だったそうで、なんとなく「らしい」感じがするなと独り合点するなど。

音楽を聞きながら仕事をしていたという記載から、『ブラックジャック』で手術中にクラシックを聞いていた医者の話を思い出した。
あれは手塚自身であったのだな。

中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』

中尾は昭和の植物学者である。
アニメ監督の宮崎駿が、たびたび中尾の著作に言及しており、本書も『出発点』だかで触れられていたように思う。

本書は中尾が文献調査やフィールドワークを経て整理した、世界の栽培植物と農耕文化についての小論だ。
農学部の学生にとっては基本のキと言える著作かもしれない(門外漢なので伝聞による推察だが)。とはいえ、一般向けの書籍であるから、専門知識がなくても十分読める。平易な文体も嬉しい。



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