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2024-04-07: 兼業漫画家を10年あまりやってみて思うこと


はじめに

私は今年で社会人生活10年目を迎える。
しかし、学生時代から商業漫画家として活動してきたため、兼業漫画家としての活動期間はそれを上回る(学生と漫画家との二足の草鞋を、兼業漫画家と呼びうるのか、いささか怪しくも感じるが)。

兼業漫画家がこの世にどれだけいるのか私は知らないが、「兼業で漫画家をする」ことについてのアウトプットをあまり目にしない気がするので、雑に吐き出してみようと思う。

もちろん全ては私の主観であり、兼業漫画家や漫画家全体を代表・代弁するものではないのであしからず。

What:兼業漫画家とはなにか

漫画家について

昨今、漫画家の活動形式は2通りに大別できると思う。

1つは、任意の組織やプラットフォームに所属する担当(編集)者と作品を制作・発表する形式。ここでは仮にリクエスト型と呼ぶ。
出版社が発行する商業誌や公開するWeb媒体で連載されている作品は、基本的にリクエスト型だ。
作家がメディアからリクエストを受け、作品をレスポンスする。

もう1つは、作家主導で企画・制作する形式。ここでは仮にプッシュ型と呼ぶ。
いわゆる自費出版や同人活動がプッシュ型に該当し、近年はSNSやKindle上での作家自身による作品発表も含められるだろう。

金銭的報酬を得ることを目的としない漫画活動も(程度の差こそあれど)当然存在し、私自身も趣味としてコミットしているが、本稿では金銭的報酬を得る漫画活動を中心に記述する。

兼業で漫画を描く

兼業漫画家とは、2つ以上の職種に従事しており、そのうちの1つが漫画家である人のことだ。

たとえば、日中は企業勤めをして、帰宅後や休日に漫画を制作し雑誌に連載しているような作家を指す。

Why:なぜ兼業で漫画を描くのか

まんが道を志しながら、専業漫画家でなく兼業の道を選ぶ理由は作家の数だけ存在する。

ここでは、想定されるいくつかの動機について紹介したい。

生活基盤の堅牢化

経済上のリスクヘッジ
漫画家の多くはサラリーを受け取る組織人でなく、フリーランスである。
漫画家に限らず、フリーランスの収益は不安定で将来は不透明であるから、漫画家以外に(相対的に)安定的収入が望める兼業・副業先を確保しておく。

ただちに専業化できるほどの収益が見込めない

自身の生活を維持するために必要な想定年収を、専業漫画家として稼ぎ切れないと判断した場合、兼業する必要性が生じる。

自身が期待する現在の生活レベルや家族構成、生涯設計が判断材料になるだろう。
いずれ専業化するための貯蓄目的、専業化までの助走期間として職責の低い仕事や負荷の低い仕事を選択する場合もあると思われる。

複数の職種を楽しみたい

個人的に、兼業の醍醐味はここにあると思う。
異なる職種で兼業をすると、あたかも2人、3人分の複数的な人生を歩んでいるかのような錯覚にしばしば陥る。

忙しないこと請け合いだが、私たちの人生はたった一度きりなのだから、挑戦してみる価値はあるだろう。

How:どのように兼業漫画家を開始・継続するのか

ここからは、兼業漫画家としてやっていく具体的な方策について考えていこう。
結局は各人のスキルやメンタル、モチベーション次第であるが、多少のガイドラインを示すことを目標としたい。

漫画家以外にどんな仕事を選ぶべきか

繰り返すが、人生は一度きりなのだから、やりたい仕事をすべきだと思う。
ただ、従事する職業によっては兼業漫画家が不可能であったり、非常に難易度が上がる。逆も然りである。

副業が禁止されている職種や組織ではそもそも表立った兼業活動は不可能であり、組織の意向や規則に反して強行した場合は高いリスクを伴う。

身体的拘束時間が長い仕事も兼業には不利である。
たとえば、勤務時間や残業が長い仕事や、通勤時間が長い仕事は、漫画の作業に充てられる時間が短く、相対的に不利である。

逆に、職場が家から近かったり、リモートワークや自宅稼働が多い仕事・職場は兼業に向いている。通勤時間を最小化することは肝要である。

兼業漫画家のPros/Cons

収入基盤の堅牢化などメリットもあれば、当然デメリットも想定される。

Pros

  • 収入基盤が安定する

    • 上記で示したように、毎月固定収入がある兼業を抱えている兼業作家の収入は安定する。

    • 収入が安定することで、「いかなる漫画を描いてでも、漫画で生計を立てなければいけない」という前提から開放され、活動の自由度向上も期待できる。

  • 複数の職種、ひいては人生を楽しめる

    • 上記で示したように、たとえばあなたは漫画家とソフトウェアエンジニア双方の人生を経験し、それぞれのコミュニティの中で活動できる。

    • その複数性そのものがあなたの個性であり、武器になる。誰も容易にあなたの真似はできない。

    • あなたは新しい自動車のエンジンを設計しながら、自作のアニメ化にも関わることができる。

  • 社会経験・人生経験を積める

    • クリエイターには経験商売の側面がある。

    • 貴志祐介先生が生命保険会社勤務経験をもとに『黒い家』を書き、横山秀夫先生が新聞社勤務経験をもとに『クライマーズ・ハイ』を書いたように。特定ジャンルの執筆において経験を活かした執筆ができるかもしれない。

    • 人間は組織を構成する生き物である以上、それを描く漫画においても組織経験は有意義に作用しうるだろう。

Cons

  • リソースの奪い合いが生じる

    • 複数の種類が異なる仕事において、身体的・精神的なリソースの分配が求められる。

    • たとえば、あなたは画力向上のための練習時間と、高度な技術の資格取得を目的とした勉強時間とを確保し、それぞれで結果を出す必要がある。

    • 金曜の深夜、同僚たちが労働後のビールを楽しんでいるとき、あなたは締切から逆算した残り時間を意識しながら一心不乱に作画を行わなければならない。

  • 専業のプレイヤーたちにしがみつき、闘う必要がある

    • あなた以外の同僚は、土日に机にかじりついて漫画など描かず、専門的で高度な技術の習得や勉強・アウトプットを行っている。

    • 掲載誌において、あなた以外の作家は、持ちうる全ての時間を自作に注ぎ込んでいる。あなたがオフィスでRFPを読み込んだり、同僚とホワイトボードに向き合っている時間で、多くの漫画家は自作のクオリティアップに努めている。

  • マルチタスクとプロジェクトマネジメント能力が要求される

    • リクエスト型の漫画は基本的にあらかじめ締切が設定されており、これは作家の都合や作品の内容で柔軟に変更し得ない

    • 締切直前であっても、あなたは会社に出勤し、重要な会議の準備をしたり、技術的な課題に向き合ったり、顧客とタフなネゴシエーションを行う必要がある。

  • 誰もあなたの状況を理解・共感できない

    • 医者をしながら漫画連載を闘うあなたの身体的・精神的疲労を理解し具体的に共感できる人はとても少ない。

    • デザイナーをしながら漫画連載を闘うあなたの身体的・精神的疲労を理解し具体的に共感できる人はとても少ない。

    • あなたはあなた固有の状況を抱えており、それと格闘するあなた独自の方法を発見する必要がある

おわりに

なんだか目新しさに欠ける、当たり前のことばかり書いてしまった。

私は兼業漫画家をすべきとも、避けるべきとも思わないが、もし「兼業で漫画家ってできないのかな」と問われれば、「可能です」と答えるだろう。

ただし、相応の対価を支払う必要はあるし、兼業を可能とする状況を努力して自らの側に引き寄せなければならない。
そして、やっぱり色々と、色んな人にご迷惑をおかけしつつ、ギリギリやっていくしかないのである。銀の弾丸はありません。

「うちはこんなふうにやってるよー」という兼業漫画家の方がいらっしゃれば、ぜひ教えて下さいね。

くれぐれもご無理なさらず、ご安全に。

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