【N°2】おひとり様物語 1/谷川史子
漫画紹介2冊目です。
ほんとは作家別にやろうかな…と思っていたのですが、
私が飽きそうなんでやめました!
今回ご紹介するのは、女性の心の動きを描かせたら右に出るものはいない!
大ベテラン谷川史子先生の連作『おひとり様物語』第1巻です。
読み切りの名手だけあって、読み切りが連なったオムニバスなのですが、ゆるーく話どうしが繋がったりして読み続ける楽しさも大いにあります。
タイトルの如く色んな「おひとり様」が主人公として描かれるのですが、
この定義がいい意味でゆるくて素敵なんです。
今、パートナーがいない人という狭義のおひとり様じゃなくて、
瞬間的に「ひとり」になったり、週末おひとり様だったり…。
谷川先生らしくふんわりと色んな人を包み込んでくれます。
せっかくなのでこの作品は各話ずつあらすじとイチオシ台詞、紹介しますね。
長くなりますが丁寧に紹介したい作品なので。
第1話
山波久里子は書店で働く28歳。
彼氏は現状いないものの、毎日に不満はなく自分の好きな時に好きなことをするおひとり様生活を満喫していた。
しかし同僚の年下の女の子に、ひとりでゴハンは「孤独っぽい」と言われたことが妙に引っかかって…。
毎日は楽しい それは本当
けれどアヤちゃんの言葉にこんなにもゆれるのは
どこかで自分はさみしい人間だと思っているのではないか
おひとり様って、皆が皆寂しくて恋人がほしいわけじゃないですよね。
ひとりだから楽しい、を幸せに楽しんでる人もいるわけで。
でもそんな人だって、たまにさみしい、て口に出してもいいと思うんです。
初っ端からそんな優しい受け入れをもらった気がする第1話です。
終わり方も素敵なんですよ。
第2話
21歳の佐々木未和は、同じサークルの彼氏に尽くしまくって結婚も考えていたのに、突然別れを告げられ一週間前からおひとり様に。
一人では何も出来ない未和は友人に泣きつき悲しみに暮れる毎日を送っていたが…。
あんたはカレシのために尽くした尽くしたっていうけど
ほんとはそう思えることが楽しかったからじゃん?
もっと人の気持ち考えな
自分のことばっか押しつけないで
まずひとりで立ちな
谷川作品の登場人物ってちゃんと欠点があって、そこが可愛かったりするんだけどそのままで何となく許容されるんじゃなく、
ちゃんと本人が自分を見つめ直す時間があるんですよね。
そこが厳しくて優しくて好きです。
第3話
吉田悠希は恋人と同棲しているものの、生活時間帯が合わず実質おひとり様みたいな毎日。
すれ違い生活だが仲は良く、彼氏のことを信頼している。
ところが女友達に脅されてからというものの、彼の携帯電話が気になってしまい…。
なのに
いつのまにか 私
いっしょに暮らしている そのことに あぐらをかいて
あの頃みたいに しんちゃんのこと
知ろうとしていなかったんじゃないだろうか
自分の思う自分と、自分から見た相手。
知らない面が必ずあるはずなのに、ふとそのことに気づくと不安になりますね。
露悪的になりがちないわゆる「女っぽい」行動をこんなに可愛らしく描いてくれるのか!となぜか嬉しくなりました。
本当に好きな台詞は、かなりのネタバレというか、この話の白眉なので、書きませんでした。
ぜひ読んで確かめてほしいです。
第4話
小宮山佳寿は彼氏と遠距離恋愛中の平日限定おひとり様。
遠恋中とはいえ趣味のマラソンやサークル活動などそれなりに毎日忙しくすごしている。
ある日クールな佳寿の言動が彼を不安にさせてしまい…。
へこんでんだからへこませてくれたっていいじゃん
男だってな
まともな言葉でハッパかけられるより
甘やかされて 受けとめられたい時もあんだよ
2話で未和ちゃんを叱ってくれたお友達の佳寿ちゃんの話です。
遠恋ですれ違うカップル…てのはありがちですが、
そこは谷川史子先生、じめっとさせずに、でもきちんと2人が向き合っていてこのカップルが好きになります。
2話での佳寿ちゃんの様子と絡めて読むとまた、いい…!
第5話
白石百合子は実家暮らしの31歳OL。
そろそろ頃合かと考えお見合いをし、結婚が決まる。
しかしそんな時、諦めかけていた夢への扉が目の前に現れて…。
結婚しなければと思った
ただ安定を望み 独立心も
愛人でいるタフさもない私のような女は
たぶん結婚をしたほうがいい
自分がかわいいなら 子供っぽい夢にはさよならして
現実の私を 歩き始めなくては
百合子さん、多分普通なら僻まれちゃうような、完璧すぎて取っ付きにくい雰囲気の人なんです。
それが百合子さんサイドからこうして物語を見ると、ものすごくチャーミングな結構おもしろい人なんですよね。
でももう少女じゃない、31年生きてきたなりの重みのようなものもあり…。
読み切りなのにこの厚さか!というような、百合子さんの31年が感じとれる物語です。
第6話
佐藤多江は28歳物書き。
いつもの様に朝起きてテレビをつけて、母校の甲子園準決勝進出を知った彼女は、勢いで東京から甲子園へ。
日常を抜け出した夢みたいな時間に、同級生と再会して…。
逆転ホームランは
やっぱりそうそう出るもんじゃないよね
でも うれしい
大人になるって悪くない
ドラマチックなのに、日常、というか現実からけして足が離れない真摯さが良いです。
たった一日で、これまで積上げてきた人生がガラッと変わることなんてそうそうないですからね。
でも、積上げてきたからこそ得られる特別な一日もあって。
これまでがちょっと報われるような、短くてまぶしいお話です。
第7話
桃井織歌29歳。
少女漫画家だが自分はすっかり恋はご無沙汰で、いつのまにか過去の経験を引っ張り出して書くようになっている。
好きな仕事をして満足して生活しているのに、周りからは女の幸せが欠けていると指摘されてしまい…。
10代じゃなくてよかった
揺れずにちゃんと仕事ができる
こんな自分はきらいじゃないな
やりたい仕事を がんばれる
寝てなくて おフロ入ってないけど
しあわせだ
桃井さん少女漫画家なのに本人は冬ならノーブラ上等なざっくりした性格で、大変友達になりたいタイプです。
そんな好き放題やってるように見える人も、そりゃ周りに色々言われたら考える夜もあるよなあと。
こういう人を見てると、改めて人の生き方に口出すなんてできないなと思います。
外の世界の定規で測れない、家の中の彼女の輝きを見逃してますからね。
第8話
小森雛子は27歳のOLで、気づけば3年もおひとり様。
幸せな結婚と家庭に人一倍憧れる雛子は、積極的に出会いを求めて同僚とデートしてみるが…。
でも
私も そういうのがいい
そういうケッコンがいい
この雛子さん、下手したらバカにされそうなキャラ設定なのに全然そんな気にならない、健気で可愛らしいんですよ。
マウント取ったりとかギトギトの女子じゃなくて、窓辺の乙女みたいな、でも鼻につかない感じで。
あと、上の台詞を雛子に言わせる同僚の女性がとーってもいいです!!
彼女たちの会話はほんとに読んでほしいです。
まとめ
こんな人にお勧め
・長期連載は苦手、でもすぐに終わるのは物足りない
・ふと自分の毎日について考えてしまう(広義の)おひとり様
・読了後は爽やかな気持ちになる漫画が好き
私は寝る前とかにさくっと一話だけ読んだりします。
そういう分割補給ができるのがオムニバスのいいところですよね。
それにしても一冊ごとのボリュームがすごいので私はこれを続けられるのでしょうか。
既刊は一気に書きたいと思ってるのですが…がんばります。
作品名:おひとり様物語 ①
著者:谷川史子
出版元:講談社(ワイドKC Kiss)
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