読んで良かった本8月部門

スマホ時代の哲学(谷川嘉浩)
評論。
本筋は哲学の話ではあるのだが、学習や認知、「自分の頭で考える」についての枠組みの捉え方の話が非常に秀逸でわかりやすかった。
読む前と読んだ後とで自分の中の明晰さが変わるような感覚を受けた。
今年の10選に確実に入れる一冊。

「想像力を豊かにする」と聞くと、あまりに漠然とした印象を抱きますが、私たちにとっては明快でシンプルな言明です。想像力を豊かにするとは、いろいろな人たちの想像力を身につけることです。ある知識がどんな風に使われるかという想像力。自分の想像力を鍛えるには、想像力のレパートリーを、いわば、心の中にあるイディオムを増やせばいいのです。

「対面力」をつけろ!(齋藤孝)
「スマホ時代の哲学」は本質的な事柄、抽象的なものを手がかりに話を進めていくスタイルであるが、こちらは反対に具体の事例から、日常生活のコミュニケーションの一助を与えてくれる本。読みやすさと実践しやすさが光る。

議論すべきこと、確認すべきことは、相手が一旦話しきったところであらためて聞く。
流すということは、固着しないことだ。
流すことができる人は、「大人度」が高い。
論語に「子、四を絶つ。意なし。必なし。固なし。我なし」という言葉がある。
孔子には、自分の意見を押し通そうとする「意」がなく、何でもあらかじめ決めた通りにやろうとする「必」がなく、二つのことに固執する「固」がなく、利己的に我を張る「我」がない、と。
そうした柔らかな流動性が、対面力の大事な条件だ。

ライオンのおやつ(小川糸)
小説。
強引にジャンル分けするのであれば、「臨死体験」というものになるが、読後にこれだけ心に残るのは物語への引き込まれ方や表現の巧みさだと思う。

何が大事かって、今を生きている、ってことなの。自分の体で、感じること。目で見て感動したり、触ったり、匂いを感じたり、舌で味わったり。そういうことが、今のお母さんにはとーっても懐かしいわ。体がなければ、できないことがたくさんあるから。

星を掬う(町田そのこ)
小説。
優しさだけではない世界で、優しさ以外でなければ気づけないものがある。そう感じた作品。
引用の節は今月読んだ文章の中で一番心に残った。

「ひとってのは、水なのよ」
「触れあうひとで、いろもかたちも変わるの。黄にも、緑にも。熱いお湯にも、氷にも。真っ白いかき氷に熱いいちごシロップなんて、あわないでしょう。離れるなり、タイミングを計るなり、姿を変えるなり、よ」