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#1 恋人ごっこ|ネット恋愛


時はさかのぼって、2011年。
当時20歳、わたしの世界といえば、ネットの中の小さなコミュニティ。

19歳のときに生配信を始めてから広がったこの世界。
適当に話す雑談配信がメインだった。
専門学校を中退したころで、家に引きこもり話相手がいなかったから。

何がよかったのか、そこに視聴者からコメントがついて、さらに話を広げていくといつのまにか視聴者もコメントも増えていった。
最初はラジオのようだったが、ハマりにハマってウェブカメラを買い、何も考えず顔を出す。
ただの太った芋女なのに、なぜか怖いものなしだった。

引きこもりニート、恋愛経験なし、処女、これらは配信内でいつのまにか周知され、容姿なども含めて当たり前のようにいじられていた。
ブスやデブなどと言ったコメントは日常で、「だから処女なんですよ」と反応していた覚えがある。

毎晩24時前後から朝4~5時まで、ひたすらコメントと会話した。
視聴者は男性だけでなく女性も多く、毎回楽しかった。年齢は様々、同じくらいの年齢の人もいれば一回り上の人もいた。
遠くに住む人、近くに住む人、学生、会社員、フリーター、わたしのような引きこもり、とにかくいろんな人がいた。
全国に友達ができたような気分だ。

毎日のように配信していると、視聴者も大体同じ人が観にくるようになり、スカイプを通じて自然と配信外で仲良くなっていく。
内輪で配信して、誰かが配信するとそれをみんなで見に行ったり。
スカイプIDを交換して、個人でチャット・通話をしたり、大勢での会議通話を楽しむ。一日中通話をつなげたまま過ごすくらい、ネットの世界にどっぷり浸かっていた。

そこからさらに、携帯のメールアドレスや番号を交換して、今度はネット外でリアルな親交を深めるようになった。
こうしたやりとりをした人たちとは、オフ会と称して飲みに行ったり遊びに行ったりした。初めて会うのにそんな感じがしなくて、すごく楽しかったのを今でも覚えている。
実際に会ったのは、ほとんどが同じくらいの年齢の子たち。
近くに住む男の子からは漫画ワンピースを借りた。エースが好きになった。
バイトを始めてからは、広島に住む女の子に会うため夜行バスに乗って、その子の実家に泊まった。
現在でも仲良くしてくれている人は男女ともに多くいて、SNSでつながっている。


こういった配信外のやりとりの中で、昔でいう「出会い厨」の男性は少なからずいた。今でいう「ワンチャン」を狙う者も。

わたしも、好きになった人はたくさんいた。
でも、この「好き」になった人たちは、わたしに「好き」を向けてくれていた人たちだ。
自分が異性から好かれることなんてありえないと思っているので、自分に向けられた安心できる「好き」が「好き」だった。
自己肯定感が低すぎて「かわいい」と言われれば好きになるレベルだったので、自分が誰を好きとかなんで好きなのかとか本当にわからなかった。

それでも恋はした。
初めての感情、そして失恋、恋人、初体験まで
すべてこの世界で知ることになってしまった。


・初めての恋

この記事の中盤に出てくる、3つ年上の三浦春馬似の彼だ。
当時は三浦春馬見るたび動悸するくらい似てた。
どうでもいいけど、映画「君に届け」が1番似てる。

彼は中国地方に住んでおり、仲良くなり始めたころはフリーターだった。
映画や漫画や音楽、サブカル好き。動画サイト・配信サイトにハマっていて、いろんな動画や配信を見ていたのでいろいろ教えてもらった。
松本人志が好きで、よくごっつええ感じの動画を一緒に見た。
たまたま見つけたわたしの配信をなぜか気に入ってくれて、自然にスカイプ交換。ビデオ通話したり、寝落ち通話したり、携帯でもメールして。
配信では話さない自分のことやお互いの家族の話をして、起きたらおはよう、眠る前におやすみを言って、日常の写真を送りあった。
彼は、僕の好きな髪型にして、この服が似合うと思う、かわいい、食べちゃいたい、なんて恥ずかしがらずに言う人。
そのすべてを素直に受け取ってしまうわたし。
自分はかわいいものであると勘違いして、彼に接していたと思う。

「好きだから付き合おう」「彼女になって」という会話はなかった。
わたしもあえてしなかった。気分だけでも恋人でいたかった。

彼が1泊2日で東京観光に来た際、ほかの友達と少し会ったきり、2日間わたしと行動していた。ほぼデート。実物もかっこよく見えた。
「初デートは動物園がよかったんだよね」と動物園に行き、自然に手をつないで歩いてくれた。夜は彼の泊まるホテルの部屋に行き、ベッドに座って手をつないだり頭をなでたり抱き合って。
キスをするかしないかの距離、あの時振り向いていたらしていたかもしれない。
いいや、振り向いたってしていなかっただろう。きっとそうだ。
それ以上はなにもなく、別に付き合おうとかそういう話になるわけでもなくて、終電で家に帰った。帰りの電車で思い出して身体があつくなるほどだった。
2日目も早くから待ち合わせて、中野ブロードウェイを案内した。
しょこたんが好きだった彼は、中野ブロードウェイに行きたがっていたんだったな。そのあとは原宿渋谷と歩き回り、「またね」と新幹線の改札で別れた。

そして、フラれた。告白もしてないけど。
夢のような東京デートが、数日で悪夢に変わった。
おそらくそれなりの付き合いの女性がいて、わたしはキープみたいなものだったんだと思う。見た目もよくない。選ばれなくて当然のこと。
実際に会って、やはり無しとされたのでそちらを彼女にしたということ。
彼との日常的なメールや通話、楽しかった恋人ごっこがそこで終わった。

わたしに恋愛経験がないことを知っていたから、今思えばかなり手のひらの上でで転がされていたんだろう。
メールや通話で「好き」と言うと「僕も」「好きだよ」と言ってくれていたのに、いつだか「ありがとう」と返してきたこともあった。
「僕のどこが好き?」と聞かれて「やさしいところ」と答えたら、「やさしいだけじゃだめなんだよな」とよく言われた。

わたしの知らないことを教えてくれて、連絡もマメで、わたしのほしい言葉をくれる。ずっと優しいだけじゃなくてたまに厳しいことも言ってくれる。
話せば楽しくて、面白い。彼の好きなものが、わたしの好きなものになってしまっていた。いつのまにか、彼が本当に好きだったんだ。
あ、これが「好き」っていうんだ。
涙が止まらなくて、恋が終わったんだとわかった。
本当に初めての感情だった。

彼女ができても、彼は変わらず配信を見にきていた。
まだ自分のことを好きだとわかっていたんだろう。
配信中によく「好きな人」の話をしていたのに、すっかりしなくなったので、ある時視聴者から「好きな人」とはどうなった?と聞かれた。
「彼女できて終わった」と答えると、配信に居合わせた彼はなぜか堂々と「ごめんね」とかコメントしてくる人だった。その時どんな顔したっけな。
悪趣味だよね。でも嫌いじゃなかった。

失恋から月日は流れ、配信も前ほど頻繁に行わなくなっていたころ。
久しぶりに配信をしていると「まだやってたんだね」と彼から連絡がきた。
その時は恋人はいないものの、すでにお付き合いの経験はあったので、以前より冷静に話をすることができた。さすがにもう好きじゃなかったから。
「あの時の彼女とはすぐ別れた、若かったんだよ」なんて言う。
この流れで、当時のわたしの気持ちを彼に伝えた。
「好きだったから彼女ができたと聞いてかなり泣いた」と言うと「だよね
、そうだと思った。あの時キスしてればよかったな」なんて言う。
もう彼に気持ちがないのでヘラヘラと適当に返事をして、話は終わり。
SNSを通して連絡を取っていた時期もあったけど自然となくなっていった。

最後に話したのは、彼が30歳になったころだったと思う。
「僕も30歳になりました」とおもむろに連絡がきて、スーツ姿の写真も添えられていた。もともとナルシスト的なところはあった気がする。
「今彼女はいない。もし君が30歳になったとき、お互いに誰とも付き合ってなかったら結婚しない?」なんて台詞じみたことを平気で言ってくる。
初めてちゃんと好きになった人だし、夢見がちなわたしは正直ときめいてしまっていた。でも、ありえないことだとちゃんとわかっていたし、その当時は恋人がいたので「そんな約束はやめようよ」と答えられた。
そこから連絡はないし、わたしもSNSや連絡先は消したので本当の終わり。
実際に会ったのはたった1度だけだった。

なんだかんだ、彼もわたしを引きずってくれていたのかな。
いや、きっとまだわたしが自分を好きでいてくれてると思っているんだろう。彼も、自分のことを「好き」でいてくれるわたしが、「好き」だったんだろうな。

ずっと、嫌いではなかったけど。

ちなみに、彼に教えてもらったゲーム実況者は今でも好きでよく見ている。
ジャック・オ・蘭たん、面白いです。


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