「桜井政博のゲーム作るには」をだれよりも活用してゲーム作った
先日、「スゴイツヨイトウフ」というゲームをリリースしました。スゴイツヨイトウフとは、とうふになって飛んだり跳ねたりしながら大冒険を繰り広げるアクションゲームです。
そして本作を制作していた2年間、「桜井政博のゲーム作るには」チャンネルをめちゃくちゃ参考にしました。本記事では、動画全編を通してとくに強く感じたメッセージや、その内容をどのように実際のゲーム制作に活かしたか、といった内容について触れていこうと思います。
とくに強く感じられたこと
手ごたえをぐっと出す
入力や試行に対してのフィードバックはわかりやすく、おおげさに返すことをかなり徹底しているように感じられました。なによりも先にヒットストップの話をしているし、エフェクトやモーションもすべて強烈に手応えを感じさせるものになっているように感じます。
とにかくテンポよく
「とにかくお客さんをムダに待たせないで!」というメッセージは、チャンネル内でとくに何度も繰り替えされたように感じられました。「プレゼンはスピード」「遅延を撲滅してほしい」「とにかくゲームさせてみて!」など。というか「遅さは罪」とまで言い切っていますね。
とにかくやれ!!
仕事の姿勢や意思決定に関わる話はおおまかに「とにかくやれ、すぐにやれ、大事なことはさっさと決めてしまえ」ということだとうけとりました。やれ!!
実践したこと
企画書の書き方をまねしてみる
「スゴイツヨイトウフ」はGYAAR Studio インディーゲームコンテストにて入賞させていただき、資金や開発環境などの援助をいただきながら制作しました。
コンテストでは企画書とゲームデモの提出が必須だったのですが、じぶんは大体思いつきでものを作るため企画書を書いたことはありませんでした。
そこでまずは、「企画書の書き方」で紹介されたやり方を徹底的にまねしてみました。動画で紹介されていた概要+画像+詳細、といったフォーマットを踏襲しましたが、これは単に書きやすいだけでなく、プレゼンの際にもテンポよくゲームの概要を説明でき、とてもありがたかったです。
とうふを感じる手ごたえ
ボタン長押しでタメ、レバーで方向を入力し、ボタンを離すととうふがぶっとぶ!というのが「スゴイツヨイトウフ」の基礎アクションです。きわめてシンプルなアクションゲームであるがゆえに、仕様カテゴリで紹介されたヒットストップや画面揺らしといった実践的なテクニックが非常に役立ちました。
また、「ほめてやれ!」の回を見て、ゴール時や敵を倒した時にほめてくれるようにしたのですが、これは思ったよりもよいものでした。少しわざとらしいのでは?と思ったりもしたものの、ポジティブな行動に対してはいちいち大げさにホメるくらいでよいのかもしれません。
そしてこれはとうふという題材ならではなのですが、単純な触りごこちにもかなりこだわりました。具体的には豆腐が物理でぷるぷると揺れるとか、コントローラーの振動フィードバックをするとかです。振動にこだわっているゲームっていいよね。
1時間でクリアできてよいとする
開発中盤くらいまでは、もっとムズい裏面やらなにやらを入れる予定だったのですが……最終的にはいっぽん道で隠し要素も収集要素もなく、おおよそ1時間で遊びきれてしまう思い切った作りになりました。
そもそも、「大作ゲームのついでに遊ぶとうふ的ポジションのゲーム」というコンセプトで作り始めているため、大作のようにサービス精神旺盛に作っていてはいつまで経ってもゲームが完成しないわけです。
そんなわけで、発売を数ヵ月前にして「このゲームは1時間でクリアして満足するものでよい!」という決心がつき、とうふ体験に寄与しないあらゆるムダを切る決心がつきました。それを決めたらなんとなく気持ちもラクになった気がします。
ミスしても即座にリトライできたり、1ステージがわりかし短めだったりするのはこういったいきさつもあります。(ほんとはステージ作るのが面倒だからこういう仕様になっただけということもある)
他にはフルチャージじゃないと敵を倒せないとか、残機を工場で手作りするとか、豆腐料理のレシピを各ステージで集めるとか……いろいろ余計なことを考えていたのですが、全部テンポを優先してボツになりました。そのぶん、触り心地、ムービー、とうふの質感など力を入れるべき点にはしっかり集中できたかと思われます。
ゲーム性は捨てる
チャンネル内で深く解説される「ゲーム性」という概念がありますが、これについては一切考えるのをやめました。
筆者はハイパーカジュアルと呼ばれるジャンルのゲームを制作していたことがあり、その経験を通して「手触りとテンポ感さえ徹底すれば深いゲーム性はなくともそれなりに楽しめる」と考えていました。「ゲーム性を上げると、一般性が下がる」の回にも通じるものがあると思います。
そういったわけで「リスクやリターンについて考えるのはもっと何十時間と遊ぶゲームをつくるときだけでよい!触って楽しいだけのゲームがひとつくらいあってもいいじゃないか!」と声に出し、複雑なことはやらないときっぱり割り切っていきました。
木綿、絹、高野
ゲーム性を捨てた……と言いつつ、じつはこの仕様がいちばんそれに近いものを持っていたかもしれません。
ゲーム開始時に3種のとうふを選ぶことができます。当初は「安定性の木綿」 or 「ピーキーだが早い絹」という2択にする予定だったのですが、イベント等で試遊などを重ねると「キャッチーなモチーフのわりにゲーム性がシビアすぎ、子供やゲーム初心者が心折れてしまう」という問題が浮き彫りに。
そこで「完全なアクションゲーム初心者でもとりあえず触れるモードがあるとよいかもしれないな」と思い至り、「固いから完全無敵の高野豆腐」が参戦しました。乾燥食品なので消費期限(タイムリミット)もナシ!
また、とくにとうふを選ぶことによるメリット/デメリット等は設けていません。絹も木綿も高野も等しくとうふだし、ここも触って楽しければなんでもヨシと割り切りました。
じつはもっとガッツリキャラメイクから始める構想までしていたのですが、抽象化するうちにこのような仕様になりました。わりとその場のノリで生まれた仕様だったにも関わらず、
キャラの挙動そのものを分けることで同じレベルを何度も楽しめる
事前に作っていた油揚げ変身の実装を流用して低コストで実装可能
モチーフ的に納得感があり、幅広いプレイ層をカバーできる難易度選択
「豆腐のゲーム」に対する真摯さを開幕から示すことができる
という複数の問題を解決できるような、かなりゲームのコンセプトに向かったよい仕様になったように思われます。(ちなみにとうふごとの個性付けには「パラメーターで個性付けを」の回を参考にしています)
音楽にこだわる
これははじめからこだわっていたポイントでもありました。だってみんなゲーム音楽好きですよね?年末にスポティファイがおすすめしてくる「今年最も聞いた音楽」ランキングには絶対TobyFoxがいますよね?
音楽には、ゲーム体験をより鮮烈な記憶として残す力があると考えています。ゲーム本体がとうふだとすれば、音楽は調味料だと言えるでしょう。とうふを食べきっても調味料は残るように、音楽は単体でもゲーム本来の文脈を離れるほどに強い力を持つのです。
そういうわけで、永松亮氏にすべての楽曲を制作して頂いたオリジナルサウンドトラックも発売中です。とうふを聴け!
即断即決
基本的にはひとり開発なのですが、パブリッシャーと組んでゲームを作る以上はリリースや広報などで多くの判断を要します。開発終盤には、もうとにかくあらゆる判断ごとを高速でやることを意識しました。Slackを読んだ瞬間に返信する!切るところは切る!
これに関してはコツ「絶対的な判断軸を企画開始時から常に持ち続ける」という意識があるとあらゆる判断がしやすくなるように感じられました。振り返ってみると、「とにかく豆腐!」「迷ったらシンプルかつ力強い方で」という方針があったかも。「スゴイツヨイトウフ」ってタイトルそのまんまですね。
こんなこと書いちゃいるけど、実際にどれだけうまくできたかはわかりません。なんなら開発序盤は半年ぐらい何も決められずに泥沼化した時期もあったし……
ゲーム作った
リリース
そういったわけで、「スゴイツヨイトウフ」はおよそ2年の開発を経て、偶然にも「桜井政博のゲーム作るには」チャンネルの更新終了と並走する形で発売を迎えました。
いかんせん一人で作っているので限界もあり、ゲームとして拙い点は山ほどあるのですが……幸いにも、Steamではいまのところ高評価を頂けております。こだわったポイントやテンポ感をそのままほめてもらえることも多く嬉しい限りです!
おわりに
本ゲームは「桜井政博のゲーム作るには」チャンネルのみに留まらず、「カービィ」の持つゲーム性、「新パルテナ」の天界漫才、小学生の頃に「スマブラ拳!!」のリアルタイム更新を追った記憶、広報ムービーの見せ方出し方など、とにかく氏の作品や、偉大なビデオゲームの数々に多大なる影響を強く受けて制作されております。
というか、影響を受けすぎて隠しきれていないところも山ほどありますが……たぶんマリオやカービィを遊んでも豆腐にはなれないので、このゲーム特有の体験はある程度作れていることと信じています。
改めて、貴重なゲーム開発ノウハウを動画として残していただいた桜井政博氏に多大なる感謝を述べさせていただきます。「スゴイツヨイトウフ」の面白さは間違いなく底上げされました!
【おまけ】流石にマネしすぎのコーナー