マツダCX-8試乗記

第1章 はじめに
最近のクルマに疎い当方は、実はマツダのスカイアクティブと言うものにマトモに触れたことがない。低圧縮ディーゼルエンジンもモーターファンイラストレイティッドの技術情報しか知らない。
そりゃマズイだろうと言うことで、マツダが狙ってる方向性の確認をしたく、ならば極力新しいCX-8を見ておこうと思った。

その前にクルマの成り立ちを再確認する。

昔、マツダは大人数ムーバーとして、長らくボンゴが君臨していた。1966年に発売されたボンゴはキャブオーバー型バンの先駆者であった。
その後キャブオーバー型バンの衝突安全性が不安視されたことから、日産がバネットコーチからバネットセレナに移行したのと同様に前輪を前に出したボンゴフレンディを登場させる。天井がガバッと開いてテントになるオートフリートップという飛び道具で一躍有名になったモデルだ。
ボンゴフレンディがディスコンとなり暫くして、ビアンテと言うアクセラベースのミニバンが登場した。実はビアンテの見所は試作車を作らずに量産した所で、この経験が後の昨今のマツダのモデルベース開発手法、そして常識外れだらけで実現不可能とも言われたスカイアクティブシリーズ各車の開発につながっていると理解している。

コレとは別に、大型ミニバンとしてMPVと言うモデルもあった。初代MPVは北米向けにルーチェのプラットフォームを利用したFRレイアウトにV6エンジンを搭載した高級ミニバンとしてなかなか上手いモデルであった。普通のヒンジドアで乗用車的なのも好感が持てた。
その後2代目MPVはFFレイアウトにスライドドアとなり、3代目はアテンザ他と同様のプラットフォームでターボモデルもあるスポーティなイメージのミニバンとなった。

北米ではMPVの後継としてCX-9が展開されている。
現行は2代目で、全長が5メーターを超え、全幅は1970mmの大型SUVである。エンジンは2.5L直4ガソリンターボモデルのみ。価格は32,000ドルから45,000ドルのレンジ。

ボンゴ系乗用ワゴンもMPV系もディスコンとなり、皆マツダの大人数ムーバーを忘れかけていた今年、CX-8が登場した。

第2章 CX-8とは
さて、CX-8だ。
CX-8はCX-9の縮小版であるようだ。ホイールベースは同一ながら全長と全幅を少しツメて若干取り回ししやすくしている。

エンジンは当初2.2Lターボディーゼルエンジンのみの設定だったが、最近CX-9と共通の2.5Lガソリンターボ、および2.5Lガソリンエンジンが追加された。
価格はなかなか戦略的で、2.5Lガソリンのベースモデルは300万を切っている。ディーゼルの中間モデルでも370万円ほど。

この立派な体躯を考えれば随分と安く感じる。

ベースモデルはCX-5とバッティングし、エクストレイルやフォレスターまで取り込むつもりか。CX-5の売れ行きが少々心配になる。

この体躯なら、日本車で競合車を探すのは難しい。
ひとまず価格も大きさも少し下のCX-5、エクストレイル、フォレスターと、出たばかりのCR-V、そして北米のCX-9らと車体サイズを比べてみる。(三列シートがあるモデルはそちらを選択 フォレスター以外は全て2WD CX-8と5はディーゼルモデル)
CX-8 CX-5 エクストレイル フォレスター CR-V CX-9
全長mm 4,900 4,545 4,690 4,625 4,605 5,065
全幅mm 1,840 1,840 1,820 1,815 1,855 1,970
全高mm 1,730 1,690 1,740 1,715 1,680 1,715
ホイールベースmm 2,930 2,700 2,705 2,670 2,660 2,930
車重kg 1,840 1,630 1,530 1,530 1,590 1,912

一見してCX-8は無茶苦茶長い事がわかる。
この大きさのSUVと言えば、ランクル200やBMW X5クラスだ。
さすがにCX-5や他車を検討してる方は気後れするレベルだろう。また、車重も200kg以上重い。果たして長くて重いCX-8はマトモに走るのだろうか。

第3章 静的評価
さて、クルマを見てみる。
グレードはXDプロアクティブというディーゼルの中間グレード、2WDだ。7人乗り。他に2列目がキャプテンシートの6人乗りもあるが、そちらは未チェック。

運転席から見てみる。恒例の右ハンドルの仕立てから。
ペダルオフセットは皆無。さすがマツダが売りにしている事もあり、完璧だ。素晴らしい。
しかも、アクセルペダルはオルガン式を採用している。オルガン式だとスペースを食う為、小手先でのごまかしができない。オルガン式採用でオフセット無しはなかなか見た事がない。
(実はウチの自家用車もアクセルペダルはオルガン式でオフセット皆無という珍しいドイツ車だ。)

シートは電動。テレスコ、チルトもある。
シートはイニシャル位置はリクライニング立てて、シート高さも高めのようだ。
シート座面はクッション厚めのストロークが多い感じ。サイドサポートは強くないが、肩甲骨はそれなりにサポートしそうだ。
腰の部分はもう少し押して欲しい気もする。短時間の試乗の為疲労度不明だが、右ハンドルオフセットが無い分楽ではある。

2列目、リアシートも見てみる。
結構広い。視界も良好だ。
本来右ハンドルの仕立てを良くすると後席以降にしわ寄せがくるが、クルマが大きい事もありさほどデメリットになっていない。
座面角度、トルソも適切。
シートはスライドできるので、三列目シートを使わないなら、広々と使える。
2列目シートにはオートエアコンのコントロールパネルも完備されており、ショーファー用途でもいいかもしれない。

特筆できるのは、2列目シートのリクライニングだ。リクライニングは三列目シートへのアクセス時に前に倒せるが、その後の復帰の際は最も立てた状態にロックされる。ここが初期値で適切な位置だ。
もしリクライニングを後ろに倒す場合、ここから更に力を掛けないと倒れない。なので、気にしなければ常に初期位置に戻る。コレはなかなかいい。

3列目のシートを使っても、荷物室は存在する。意外に荷物が積めそうだ。残念ながら3列目シートはチェックし損ねたが、意外に座れるらしい。

当方なら通常は3列目シートを倒すだろう。3列目シートを倒すと、フラットな荷室となる。荷室用のトノカバーは付いてないので、オプションで付ける必要がある。

内装の質感も上々。全グレード通してソフトパッド合成皮革にステッチが入る。このグレードはドアのレリーフにアルミヘアラインパネルが入る。ほほぉ、なかなか良い。
上級グレードは本杢目のレリーフが入るらしい。トヨタはクラウンやアルファードの上級モデルでも木目調の印刷パネルと言う事を考えれば、なかなか奢ってる。

第4章 実走評価
さて、走り出す。
装着タイヤはトーヨープロクセス、サイズは225/55R19。下級グレードは17インチになる。
エコタイヤの類いでは無く、クセのない普通のタイヤをチョイスしてるのに好感が持てる。

エンジンをかけた。静かだ。
アイドリングではディーゼルを全く意識しない、そのくらい静かだ。

ステアリングはひとまず軽くスムーズだ。

車道に出て加速する。なるほど、普通に速い。
この回転フィールは私の知るディーゼルではない。昔のディーゼルのような「回転重いが低速トルクで押す」ではない。
軽くシューっと回る。もはやシルキーと言っていい。レスポンスも良い。

ただ、オートマのシフトスケジュールは少々せわしない。アクセルペダルを少し踏むだけで変速して、回転数が3千回転辺りまで上げ、上のギヤへ変速。コレを繰り返してる。3速と4速が離れてるからか。そんなに変速しなくてもいいのだが。

その際のタコメーターの表示はなんとなくフェイクっぽい。こんなにキレイにエンジン回転数は反応しないだろう。タコメーターチューンで変速のキレと加速感を盛ってるのだろうか。

イジワルな言い方すると、そんなに躍度って奴を演出したいのか?

また、走り出しの1速から2速に変速する際、軽いシフトショックを感じる。昔JATOCO製4速オートマでよく感じた、後ろから蹴っ飛ばされる感じ。あの頃よりはマシだが、未だにある事に驚いた。
発進時のトルコンの滑りによるトルク増幅効果がアウトプットする前に変速してギクシャクするのだとは思うが、低速トルクがあるディーゼルなんだから、通常は1速なんて使わず、2速発進にすればいいのに。
ガソリンとディーゼルでオートマのギヤ比は全く共通だが、もしかして制御も共通なのか?
または、低圧縮な構造上、冷間時の始動とアイドリングが苦しいスカイアクティブDの為、マージン確保の為の1速発進なのだろうか。

何人かの評論家がマツダのディーゼル車でマニュアルを推す理由がわかる気がする。この感じ、私はマニュアル設定があるならそちらを選択したくなる。マニュアルだからスポーティ、なんて話ではない。

と小言を書いたが、まぁ走り出してしまえばそこまで気にはならない。

変速過多でも気にならないのは、エンジンマウントがまずまず優秀なのだろう。
車体への振動を消すためにはエンジンマウントは緩くする事が多いが、そうすると加減速や変速時にエンジンがバタバタ動いてしまう。
CX-8はそんな感じは無く、加減速のリズムも良い。
その分、アイドリングの振動は少しだけ感じる。個人的にはドライバビリティを優先したこの設定は良いと思う。

あとで足回りに手を突っ込んでパンプラバーの長さを確認したが、どうも長めのパンプラバーのようで、早めに当ててる感じ。即ち足は結構硬めにしてるようだ。

ボディの剛性感も手伝って、クルマが随分軽く感じる。大柄なボディを感じさせないのはなかなか秀逸だ。
また、振動のリズムも悪くない。シートのクッションが厚めのせいか、硬めの足にボディが揺すられてもさほど気にならない。

ロードノイズは低音がほんの少し出ている。
コレはタイヤからだろう。室内空間が広いボディの為、ここは仕方ないか。もしかすると、コレを消すとディーゼルエンジン音が目立つのでワザと残してるようにも思った。
もちろん、絶対的には静かな部類だ。

ステアリングのアシストは強めでタイヤの状況がわかるようなものではないが、フィールは一定でひとまずは良いだろう。電動パワステはコラムアシストの比較的廉価な方式だが、嫌な制御は無さそうだ。

ステアリングのギヤ比も特に速くはしてない模様。ラックもきちんとマウントされてるようだが、できればもう少しアシストが弱いといい。

唯一車体の重さを感じるのはブレーキか。前輪は320mmの立派なブレーキローターが付いていて、踏み始めの制動力の立ち上がりはリニアでいいのだが、停止寸前で少しだけ踏力を増やす必要があった。

それにしても少し加速してみてもディーゼルらしい音は少ない。回転フィールも軽い。
正直、ちょっと欲しくなった。

視界もまずまず良好。
Aピラーは意外に太く邪魔になりそうだが、ドライバーの視界にはあまり入らず、気にはならない。
ボディの先端は見えないので、フォレスターよりは劣るか。

同乗していただいた女性セールスのお姉さんが優秀だった事もあるかもしれない。グレード別の細かい差も良くご存知で、クルマの特色からマツダのディーゼルはどこが優れてるのかもご説明いただいた。
いや、意外と売ってるクルマをキチンと説明出来る方ってなかなかいないんですよ、ホント。いいお店だ。

ちなみにガソリン車の試乗車はまだ配備されていないとの事。このディーゼルのフィーリングだと、ガソリンターボモデルは不要ではないかと思った。

第5章 総括
CX-8は以下の面で秀逸なクルマであった。
・右ハンドルの仕立て、ドライビングポジション
・ディーゼルらしくなく静かで速いエンジン
・見た目を裏切る車体の軽い動き

やはり右ハンドルの仕立ては白眉だろう。日本販売モデルのグローバルモデル統合の流れから、今後右ハンドルの仕立ては劣化していく可能性があるが、マツダはそのグローバルモデルでキチンと右ハンドルを仕立てているのは立派だ。もちろんその分この体躯となっているわけだが。

走らせた感じ、ボディの大きさを感じないのも良い。後ろに長い車体を引き連れてる感がなく、ソリッドな感じがするのは素晴らしいと思う。
予算さえ許せばCX-5ではなくCX-8がベストなのでは、と思った。

気になったのはオートマだ。もちろん変速レスポンス(フェイクっぽいタコメーター表示を除いて)も悪く無いし、2速以上の変速ショックも少ないのだが、なんだか多段オートマが欲しい感のシフトスケジュールだ。
6速しか無いのだから、街中は割り切って2〜5速だけ使い、軽い加速なら変速しなければ良いのに。低速トルクがあるディーゼルなのだし。
しかし、まるで7速や8速オートマ搭載のダウンサイジングターボ車のようなシフトスケジュールなのである。
CX-5やアテンザにマニュアルを設定してるのはマツダの良心かも知れない。
悪いが私は「スポーティーだから」などと言うくだらない理由だけでマニュアルを選択することはない。マニュアルの方が運転が楽なクルマなら、マニュアルを選択するだけだ。

何より、心動かされたのは、最上級Lパッケージのナッパレザーシートだ。ディープレッドと言うこげ茶が選べる。しかも、前席はベンチレーション(シートクーラー)が付き、後席シートヒーター付きの高級仕様である。価格はディーゼルモデルで420万円だが、この価格でこの装備この内装色は世界中探してもなかなか無い。


コレは正直欲しくなった。

もちろんマツダも赤字覚悟のバーゲンで売ってるわけではない。細かいコストの差し引きで成り立っている。例えばコラムアシストの電動パワステはこのクラスでは珍しい。普通は高級なラックアシストだろう。ゴルフなんかは更に高級なダブルピニオン式だ。
しかし、決してそれらに劣っているわけではない。
オートマのギヤ比はガソリンとディーゼルでファイナル含め全く共通だ。本来なら最高出力発生回転数や許容回転数が低いディーゼルはギヤ比を高くする必要があり、ガソリンとディーゼルを作り分けるはずだ。

マツダはBMWのようなプレミアムメーカーを目指すらしい。今回久々のマツダ車でその気概を感じた。
申し訳ないがオプション込みのBMWの3シリーズディーゼルを600万で買うくらいなら、218dグランツアラーを500万で買うくらいなら、圧倒的にCX-8だろう。クルマの価値と価格が合わない。

ビーエムなんぞすっ飛ばして良いクルマを作っていただきたい。そう思った。

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