我が家の光ギガネットワーク導入顛末記
2021年8月9日我が家のネットワークが1Gbps の光回線に置き換わった。今までは、イッツコムのケーブルモデム回線で、下り(ダウンロード)160Mbps、上り(アップロード)12Mbpsだったが、宅内配線機器の都合で下りは100Mbpsが限界だった。実質的には下りで約10倍、上りで約100倍のスピードアップを果たした。
話は16年前に遡る
そもそも、16年前に家を新築したときは NTTの光回線を入れていた。戸建ての契約で上りも下りも100 Mbpsの『フレッツ光』だった。
イッツコムのケーブルテレビも新築のときから入っていたが、テレビのみの契約だった。 数年前、ケーブルテレビと一緒に固定電話とケーブルモデムのブロードバンド回線を契約すると、ブルーレイ付きのハードディスクレコーダーと一体化したセットトップボックスも一緒にレンタルできることに気がつき、こちらに切り替えた。
月々1万円以下でこれらがセットで使える。おまけにブルーレイの調子が悪くなって書き込みができなくなると、無料でセットトップボックスを交換してもらえた。ハードディスクレコーダーの光ディスク部分は昔から定期的に壊れて、自分でベアドライブに換装したこともあった。その手間を考えると結構リーズナブルなサービスだった。
ケーブルモデムの弱点
しかしこの乗り換えには盲点があった。イッツコムのケーブルモデム・ネットワークは、下りこそ160 Mbps と高速だが、前述のように上りが12 Mbps 程度とあまり早くないのだ。実効速度はGoogleのスピード計測サイトで下り90Mbps、上り9Mbps程度だった。
普段は あまり大きなファイルをアップロードすることがないので気にならなかったが、たまに大きな動画ファイルをアップロードするときに、時間がかかりすぎてウンザリすることがあった。
iPhoneからAndroidに乗り換えたときに音楽サービスを無料の Google Play Music に換えた。この際、Mac の iTunes の音楽ライブラリを、Googleのクラウドにアップロードして同期する必要があり、10GB近い巨大なファイル群をアップロードするのに何日もかかった。しかも、何度も転送プログラムががハングアップして再起動しなければならなかった(ハングアップの理由はメモリ不足だったが)。
Google ドライブや OneDrive を導入ときやサービスのアップデートがあったときも、やはり同期に時間がかかって、いつまでもバックグラウンド処理が終わらなかったりした。
そうだ、光回線にしよう!
そのため、他の回線サービスのへの乗換えを検討した。直近ではドコモ光(ドコモ版のフレッツ光)に乗り換えようかと思っていたが、そのためにはイッツコムから借りているセットトップボックス(≒ブルーレイ付きハードディスクレコーダー)を返却し、自前で購入しなければならない点で、なかなか奥さんの理解が得られなかった。
イッツコムも光回線サービスを始めていたのは知っていた。ただ、ホームページで見る限り、光回線サービスで使用できるセットトップボックスには、ハードディスクのみでブルーレイがなかった。録画した番組をブルーレイに移動して残しておくという時代ではないということだろうか。 なので、少し時間をおいて、頃合いを見計らってドコモ光への乗り換えを再度奥さんに提案するつもりだった。
そんなある日、イッツコムから光回線への乗り換えの勧誘電話がかかってきた。その電話によると、光回線に乗り換えても、現在のブルーレイ付きのセットトップボックスをそのまま利用し続けられるという。固定電話とケーブルテレビもすべてそのままで、上下1Gbpsの光回線に、月々わずかな上乗せで乗り換えられるという。この電話で決めてくれれば、工事料金は、2万2000円のところを1万2000円に割引きしてくれるという。よくある営業のクロージングテクニックだが、まあ有り難かった。
長期的なコストを考えれば、 Amazonでブルーレイ付きハードディスクレコーダーを買って、ドコモ光に乗り換えた方がお得なのだが、奥さんの心理的には、イニシャルコストが安いイッツコムの光回線の方がハードルが低い。というわけで、この話に乗ることにした。
問題は宅内LANの速度
工事に対しては気楽に考えていた。NTTの光ケーブルをそのまま使えるのではないかと思ったのだ。 逆に宅内の配線の方が問題だった。自分の記憶の中では、16年前に配線したLAN 環境は100 Mbps 用のもので、ギガビット通信の恩恵を受けるには、LAN ケーブルやハブをギガビット対応のものに替えなければならないと思ったのだ。
新築時は階段下の機械室から1Fの仕事部屋や2FのリビングへLANケーブルを配線するのが大変だった。
光ファイバやケーブルテレビの同軸ケーブルは階段下の機械室に引き込まれている。そこから壁の中を各部屋に向かってCD管という塩ビ製の管が通っており、その中をテレビの同軸ケーブルやLANケーブル、電話線が通っていた。このCD管の中にLANケーブルを通すのが大変だった。
直径2センチ近くある CD管だったので、LANケーブルを押し込んで行けば、自然と中を通り抜けていくだろうと考えていた。実際にやってみると、LANケーブルは数十センチメートル入るともう先には進まなかった。何時間も試行錯誤したあげく、諦めて新築時の電気工事をしてくれた電気屋さんにお願いして、LANケーブルを仕事部屋とリビングに通してもらった 。
後で知ったのだが、こういった配線工事をするには、専用の工具が必要だったのだだ。宅内配線のCD管は仕事場とリビングだけでなく、寝室や子供部屋にも設置してあっていつか必要になったら自分で配管しようと考えていた。
実際には、すぐに無線LANの全盛時代が来て、2階のリビングに Wi-Fiルーターの『AirMac Express』を1台設置すれば、狭い我が家ではほとんど問題がなかった。なのでこの宅内配線問題は、10年以上も僕の中では塩漬けにされていた。
調査工事で判ったこと
工事前の事前調査と説明のために、イッツコムの職員が我が家を訪れて、機械室やリビングルームを下見して、その上で説明してくれた。それによるとNTTとイッツコムで使用する光ファイバーケーブルの種類が違うらしい。ならば、NTTの光ファイバー引き抜いて、そこにイッツコムの光ファイバーを敷いてしまえば良いと思うのだが、どうもそれはやりたくないらしい。
結局、イッツコムのテレビ用の同軸ケーブルと同じCD管に、新しい光ファイバーケーブルを通せるか、調査工事を行うことになった。もし通せなければ、外壁に沿って光ファイバーケーブル配線させる可能性もあるという。白い壁の上を黒い線が這うことになり、外観に影響があるという。その場合はキャンセルもできるというので、まずは調査工事をしてもらうことになった。
10日ほどのちに、調査工事が行われた。 猛烈に暑い日差しの中やってきた二人は驚いたことに長袖長ズボンでまるまると着膨れていた。家の中で、分厚い上着も脱がずに早速作業に入る。彼らと一緒にいると、ずっとウィーンという高周波の音が聞こえる。
最初は、何かの機器を動かしてるのかと思ったが、その音の発生源は彼らの上着だった。よく見ると、腰に近い背中の辺りにファンがついている。噂に聞く空調付きの上着というやつだ。「 その上着は実際に涼しいのですか」と聞いてみると、もはや真夏の作業でこの上着なしにはいられないというくらいに重宝しているそうだ。
機械室を担当した一人は、直径1メートルくらいの輪になったケーブルの束を抱えていた。そのケーブルのはしっこをCD管に差し込み、どんどんとケーブルを押し込んでいく。これが、新築時に僕が持っていなくて苦労した、配線工事用のケーブルだ。
直径5ミリぐらいの柔らかい金属製のケーブルでしっかりと弾力があって、直角に曲がったCD管の中もするすると通って行く。ほどなくして、配管ケーブルは我が家の2階の外壁の角にある電柱に近い配線の引き込み口に登場した。2階のベランダで待っていたもう一人が、その配管ケーブルの頭にテスト用の細い紐を縛り付ける。トランシーバーで連絡を取って、機械室の側が今度はケーブルを巻き取っていく。ほどなくテスト用の細い紐が、機械室に届いた。これで調査工事は成功に終わった。
その後、本番工事が8月9日に決定し、僕はAmazonで、30mの配線工事用ケーブル(通線ケーブル)と、1Gbps対応のTP LINK製の安い小型ハブ、それに10Gbpsにも対応できるという「カテゴリー6A」のLANケーブルを2メートルを2本、3メートルを1本注文した。まずは1Fの仕事部屋でギガビットイーサネットの恩恵を完全に受けられるようにするためだ。
光回線に乗り換えた結果
本番工事の当日、約束通り午前9時に現れた工事スタッフは、新しい新しい光回線用のケーブルを引き込み、既存のケーブルモデムを撤去して、 専用の光回線用終端を設置した。この終端から、テレビ用の同軸ケーブルと、専用ルーターに繋ぐ光ファイバケーブルが出ている。
専用ルーターは、SYNCLAYERの『SGP200W』という製品だ(https://www.synclayer.co.jp/product/pdf/02_SGP200W_B.pdf)。
固定電話用のTAも兼ねていて、1GbpsのLANポートを3つと、IEEE802.11n(2.4GHz)や802.11ac/Wi-Fi5(5GHz)に対応した無線LANの機能を備えている。最新のWi-Fi6には残念ながら対応していないが、現状のAirMac Expreessが802.11n止まりなので、ac対応でも十分に有り難い。
機械室からリビングに敷かれたテレビ用の同軸ケーブルは、末端を取り替えて、BSへの分波を行ってくれた。これまでイッツコムのサービスではBSを見るためには、いったんセットトップボックスを通さねばならず、テレビに内蔵されているBSチューナーを使うことはできなかった。
今回の光サービスから、通常のBSの電波も同軸に流れてくるようになったため、テレビのBSチャンネルもそのまま使えるようになった。この工事は1箇所だけ工事費に含まれていて、分波する部屋を増やしたい場合は追加料金が必要になる。仕事部屋でもNASNEでテレビを見ているが、BSを見る機会はほとんどないので、追加の工事は頼まなかった。
すべての工事が完了して、SGP200Wに宅内LANの大元のLANケーブルを挿すと、いままで昇り90MBps、下り9Mbps程度だった速度が、上下ともに90Mbps前後になった。下りが早くならないのは、織り込み済みだ。
Before
ケーブルモデム時代の機械室の壁面。上の黒い箱から同軸ケーブルと電話線が出ていて、同軸ケーブルはテレビ用とケーブルモデム用に右の分波器で分岐されている。テレビ用はそのまま、リビングや仕事部屋、寝室用のCD管に。
床の右端の黒い箱がケーブルモデム。そこから左側のもうひとつの黒い箱=IOデータのWi-Fiルータ(Wi-Fiは使わず単なるルータ代わり)に繋がっている。
After
中央の白い箱が光ファイバーの終端機器。結局光ファイバーはNTTの光ファイバーと同じCD管を使って通してました。終端からでた同軸ケーブルで右側の長四角の機器を通して、リビングと仕事部屋のテレビに。終端からさらに光ファイバーが伸びて、Wi-FiルータのSGP200Wそこから。電話用の線が上の黒いターミナルアダプタ(NECのAterm)に入って、そこから電話線に繋がっています。床に転がるモデムとルーターがなくなって、機械室の中もスッキリ。SGP200Wは、当初床に置いていたのですが、Wi-Fiの電波の到達距離や品質を考慮して箱の上に置いています。木製の壁と扉に囲まれていますが、2Fまで電波はちゃんと届きました。
速度のボトルネックはお前だったのか
今までのケーブルモデムは、LANポートがひとつしかなく、DHCP機能もなかったので、IOデータの無線LANルータを、ルータ代わりに使っていた。もはや、無線LAN機能のないルータなど売っていなかったからだ。しかし、今回のSGP200WはDHCPもあるし、LANポートも3つある。IOデータの無線LANルーターは不要なので取り去ってみた。
すると、驚いたことに有線で繋いだiMacの速度が下り900Mbps〜1.1Gbps、昇りも900Mbps前後出てしまった、何回か繰り返すと多少のブレはあるが、かなり安定し900Mbps前後の数字が出る。あれ? 16年前に配線したのは100Mbps対応の設備ではなかったのか?
そこで、仕事部屋の狭い棚の荷物を全部取りだして奥にあるハブを見てみたところ、当時の配線に使ったLANケーブルの箱も出てきた。100メートルのを買って自分で適切な長さに切ってジャックを付けていたのだ。そのケーブルの箱には「エンハンスドカテゴリー5」と書いてある。これは1000BASE-TX対応のケーブルだった。ハブもACアダプタでは無く電源を内蔵した16ポートのしっかりした1000BASE-TX対応のスイッチングハブだった。
よくよく思い出して見ると、16年前、「将来に備えて」と1Gbpsに対応できるLANケーブルとハブを設置したのだった…。
試しに、元からあるスイッチングハブを今回Amazonで買ったTP LINKの5ポート小型ハブに差し替えてみたが、有意な速度差は無かった。さらにカテゴリー6AのLANケーブルで、SGP200WとiMacを直結してみたが、せいぜい100Mbpsの差があるかどうかだった。100Mbpsは、小さくない数字ではあるが、10%前後の効率アップのために、何時間もかけて配線のやり直し工事をするほどの気力がなかった。
幻に終わった宅内配線工事(安堵)
結局、配線用ケーブルは封を切らずにそのまま返品することにした。封を開けてしまったTP LINKの5ポートハブやカテゴリー6AのLANケーブルは、とりあえず手元に置いておくことにした。16年間ずっと黙々と働き続けてきたスイッチングハブは、もういつ故障してもおかしくない。その際のバックアップが必要だからだ。
ちなみに、IEEE802.11ac(通称WiFi5)で繋いだノートPCやスマホは、上下ともに400Mbps〜500Mbpsだった。
面白いのは、会社から貸与されているエプソンの第10世代Core i7/16MBのノートよりも、同じく第10世代Core i5の私物のSurface Pro 7の方が100Mbpsくらい速度が上なことだ。アンテナの問題なのだろうか?
それにしても、16年前の自分は、今の自分とは別人である。今の自分は、仕事の内容がだいぶビジネスサイドに寄っていることもあって、ちょっとマニアックな一般ユーザーに過ぎないが、16年前の自分にはITのプロとしての自負があったし、お金も余裕があった。
前年までアスキーで専門誌の編集長をしていた気概、新進気鋭のライブドアに転職して、時代の先端を行くクチコミグルメサービスを全部ひとりで作成し運営していた誇り。そういった気持ちと、可処分所得に余裕があったことから、少し贅沢な設備投資をしていたのだと思う。
もしくは、自分は単純に年をとって、手間をかける楽しみよりも効率を優先するようになっただけかもしれないが。
16年前の自分の先見性に感謝しつつ、仕事で良い結果を出せるよう工夫をさらに重ねることにした。