運にまかせて薬を投与する?!
今日は残念なニュースをご紹介します。
聖マリアンナ医科大学の精神科で研究に不正があったようです。
治療薬2種類で認知機能の改善度を比較する目的の研究で、患者に飲んでもらう薬を無作為に選んでいなかった
本当にひどい話です。
しかし、この「無作為に選んでいなかった」という意味合いは、きっと分かりにくいと思うので解説します。
普通、病気になって薬をもらいに行くと、医者が色々と考えて薬を処方してくれますよね。
もちろん、色々な医者がいるでしょうが、何も考えず、くじ引きで処方する薬を決める医者は、普通はいません。
しかし、例外があります。
あえて適当に、運を天に任せて、処方する場合があるのです。
そんな馬鹿なと思うかもしれませんが、本当です。
どんな場合かというと、薬の効果を確かめる調査研究の場合です。
薬の効果を確かめようと思った時、薬を出された人と出されなかた人で病状の経過を比べると分かります。
薬を出された人が、薬を出されなかった人よりも病気の具合いが良くなれば、その薬が効いた、病気に対して効果があったということです。
逆に、薬を出された人と、薬を出されなかった人の差がなければ、薬の効果は否定されます。
つまり、この両者の差を見て薬の効果を判定するということなんです。
しかし、残念ながら、研究で不正する人もいます。
良くあるのは、実際よりも薬の効果を良く見せようとする不正です。
これは、どういった患者さんに薬を投与するか、意図的に選ぶとできます。
例えば、病気が軽い人にだけ薬を投与することにします。
逆に、病気が重い人には薬を出しません。
こうすると、どうなるか分かりますか?
この状態で、薬の効果を比べると、薬の効果が弱くても、強い効果があるように錯覚させることができます。
薬を出された人は、病気が軽い人なので、薬の効果が弱くても良くなります。
しかし、薬を出されなかった人は、そもそも病気が深刻なのに、薬も出ないわけですから、病気は悪くなるでしょう。
これで、薬を出された人と出されなかった人の病気の経過を比べると、薬の効果が弱くても、大きな差が出てしまいます。
全く効果の無い薬でも、うまくやれば効果があるように見せかけることもできます。
このように、誰に薬を出すかを意図的に選んでしまうと結果が狂うんですね。
それを防ぐために、薬を出す人、出さない人をランダムに振り分けるという方法をとります。
本当に、くじ引きのように、運に任せて処方するわけです。
実際は、くじ引きじゃなくてコンピューターを使ってランダムに選んでもらうことが多いですが、とにかく意図的には選ばないんです。
こうすれば、薬の効果を大きく見せるなんて不正はできません。
このようにランダムに処方することを、専門用語で無作為化と言います。
私が先日紹介した(下記参照)、うつ病の患者さんにルラシドンという薬を投与するという研究でも、ランダムに患者さんを選ぶという無作為化が行われています。
聖マリアンナの研究も、この無作為化でやる予定でした。
しかし、内緒で無作為化を止めて、意図的に選ぶ方法に変えてしまったのです。
これでは、先ほどいったように結果が狂います。
薬の効果を実際よりも強く見せたりできてしまうのです。
こういう不正は医療の発展を阻害し、たくさんの人を困らせます。
しかし、不正する人はどこにでもいるものです。
不正を防ぐには、監視の目を強めるしかないんでしょうね。