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缶ビールランキングを見上げながら。

私はビールを飲める。はじめの1杯目は「おいしい」と感じるけれど、2杯目からはおいしいと感じないことが多い。

きっと、ビールの味がたまらなく好きなのではなくて、「夜の街でビールを飲む行為」が好きなだけなので、毎日家で飲むことはない。


息子が産まれるまでは、月に数回は旦那さんや友達と夜の街に繰り出して、お酒を飲んだ。


門限が厳しかった箱入り娘として育った私は、吸い込まれそうな奥域のある黒い空の下を歩いていると、今でもちょっとだけ悪いことをしているような気分になる。

そして、ワクワクする。

親に内緒で友達とはじめてゲームセンターに入ったときとか、学校帰りにじゃがりこを買い食いしたりとか、そんな「ちょっとだけ悪いこと」ってなんだかワクワクするし、それを秘密で遂行するのは子供にとって楽しいことだ。そして、「ちょっとだけ悪いこと」を一緒に遂行した相手とは、同じ秘密を持つことでより仲良くなる。ちょっとだけ悪いことをした次の日に学校で会ったときの、目と目で会話する感じがすごく好きだった。


お酒もそう。法律で20歳までは飲んではいけないと決められていたからか、もうお酒を飲んでもいい32歳のいい大人になっても、なんとなくその「飲んではいけない」という感覚が残っているような気がする。

人それぞれだけれど、私はお酒を飲むと、ゆるむ。体温が上がる。気持ちよくなる。そして飲み方によってはフラフラになり、そして最悪の場合は吐いちゃったり。

軽い薬物みたいだなってたまに思う。やりすぎてしまうと、気持ちよくなったあとに地獄がやってくるあたりが。


大人になって、誰からも何も禁止されなくなって、全部自分で決められるようになったからといって、私は大胆なことをしたり、はっちゃけたりしないから、

もしかしたら私の今の人生の中で、唯一の「ちょっとだけ悪いこと」が、夜の街でお酒を飲むことだったのかもしれない。


いい子ちゃんすぎる。

「ちょっとだけ悪いこと」のレベルが低すぎる。というか、別に悪いことじゃない。



自分にとっての「ちょっとだけ悪いこと」をたまにしたくなるのが人間の性なんだと思う。だから私は、夜の街でお酒を飲むことが好きなのだ。

大勢の飲み会は苦手だったけれど、4人くらいまでの親しい人たちとの飲み会や、一対一で深くおしゃべりしながら飲むお酒は、異様に私を興奮させたし、異様においしく感じられた。


でも息子が産まれてからは、夜の街でお酒を飲むことはほとんどなくなった。

唯一のそれがなくなってしまったら、私はどうやって「ちょっとだけ悪いこと」をすればいいんだろう。



幼い息子が寝たあとにベランダに出て、夜の澄んだ空気を吸うのが好きになった。「ちょっとだけ悪いこと」とは感じられなかったけれど。

そしてほぼ毎週日曜日の夜ごはんは、フライパンで餃子を焼いて、冷凍の枝豆をチンして、それをつまみにして、旦那さんと一本の缶ビールを半分コして飲む、という習慣ができた。私にとっては一本を半分コして飲むくらいが「本当においしいと思って飲めるちょうどいい量」なんだと気づいた。家で飲むお酒はなぜか「ちょっとだけ悪いこと」とは感じられなかったけれど。


でも、缶ビール一本が食卓にあるだけで、なんだか「特別」な感じがした。1週間おつかれさま、来週もよろしくね、というような気持ちが自然と湧いてくる。

いつもと同じ場所で、いつもと同じダイニングテーブルで、いつもと同じ椅子に座って、いつもと同じ餃子と枝豆を、いつもと同じメンバーで食べているのに、缶ビールが一本あるだけでちょっとだけ「特別」になる。


ビールってすごい。



そして、毎週ビールを飲むようになると、ビール自体に興味が湧いてきた。

今までは「ちょっとだけ悪いこと」をする手段が「夜の街でお酒を飲む」ということだったので、正直お酒の味はどうでもよかったのだ。くわえて、私は繊細な舌を持ち合わせておらず、ビールも発泡酒も全部いっしょの味に感じるような人なのだ。


今だってその舌は変わっていない。ビールやビールに似せた発泡酒の微妙な味の違いなんてわからない。そして残念なことに、旦那さんも繊細な舌を持ち合わせていない。


お互いそのことをよく知っているのに、なぜか「ビールの飲み比べをしよう」という流れになった。私たちは心のどこかで「ビールの味がわかるなんてカッコイイ!」と憧れを抱いていたのかもしれない。実際に「缶ビールなら〇〇が好きかな」とか「〇〇は辛口だから苦手だな」みたいな会話をしている人をかっこいいなと思ったことがあった。


そう決めてからは、毎週ちがう種類のビールを買うようにした。


毎週1缶。

今、7缶が並んでいる。



1番左側にあるビールが、一応1位。
「一応」という言葉を使っているのは、正直どれもおいしいし、正直よくわからないからだ。

新しい缶ビールを飲むたびに、

「このビールは何位な気がする?」「この間飲んだビールよりもおいしい気がする?おいしくない気がする?」「1番辛いような気がする!」「1番甘いような気がする!」「なんかクセがなくてスッキリ飲める気がする!」などという会話が食卓に飛び交う。


「気がする」オンパレードだけれど、バカ舌夫婦はバカ舌夫婦なりに、真剣に考えて決めた缶ビールランキング。


このわが家の缶ビールランキングは、きっと全く参考にならないので、参考にしないでほしい。

でも、ダイニングテーブルの横にあるスチールラックの上に並ぶ「わが家の缶ビールランキング」を見上げながら、

バカ舌なりに、カッコつけて、
ビールの味を批評しながら

家族で缶ビールを飲む時間が好きだ。


ちなみに、息子はカルピス。
16年後にいっしょにビールを飲もう。
息子はビールの味がわかる男に育つ可能性だってあるので、それを切に願うばかりだ。

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