おもちゃ箱 第1話
平凡な日常
?「おもちゃのチャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ、チャチャチャおもちゃのチャチャチャ……」
どこかの暗い建物に2人の人物がいた。
?「そらにきらきらおほしさま、みんなスヤスヤねむるころ、おもちゃははこをとびだして、おどるおもちゃのチャチャチャ……」
1人は大きい木の箱を見つめながら歌を歌い、もう1人はその箱の中で泣いていた。
箱の中の人物は、服は着ていない全裸の状態だった。
?「おもちゃのチャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ、チャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ」
箱を見つめていた人物は笑顔を浮かべ、静かに蓋を閉じた。
ピピピピ……、ピピピピ……。
?「……ん」
部屋の中に目覚めし時計の音が鳴り響いた。
?「ん~……」
男は寝ぼけた目で必死に目覚まし時計のボタンを探していた。
カチッ。
ボタンを押すと音は鳴り止んだ。
?「……眠い」
男はそう言いながらも、ベッドから重たい体を起こした。
男が2階から降りると、美味しいコーヒーの香りが部屋に立ち込めていた。
?「おはよう、奏(かなで)」
?「……おはよう、姉ちゃん」
キッチンに立って目玉焼きを作っているのは男の姉、深堂かなえ(しんどう かなえ)。
もうすぐ30歳を迎えるのだが、それを感じさせないほどの美貌と感受性を持つ。
現在は精神科医として働いており、多くの患者のカウンセリングを担当している。
そして、そんな姉の弟が今目覚めたばかりの男、深堂奏(しんどう かなで)である。
大学3年生で、大学に通いながら経営学を学んでいる。
か「はい、出来たよ」
奏「ありがとう。いただきます」
深堂家の朝食は大体決まっている。
目玉焼きにフレンチトースト、そしてコーヒー。
それを姉弟2人で向かい合って食べる。
それの繰り返しだ。
かなえたちに親はいない。
3年前に事故で両親を亡くし、それ以来姉弟2人で助け合って生活している。
か「ねぇ、奏」
奏「何?」
か「お願いがあるんだけど……」
奏「……なんか嫌な予感」
か「今日の夜の家事代わってほしいの!!」
奏「……」
か「うちの院長が食事に誘ってくれてて……。敷居の高いお店だから1度で良いから行ってみたかったの!!」
奏「……」
か「…今度私が代わってあげるから、お願い!!」
そう言ってかなえは両手を合わせた。
奏「……日下さんに言いつけるぞ」
か「ひ、秀明にはちゃんと伝えてありますぅ!! それに、ちゃんと同僚の女性の人も一緒だし。院長と2人きりで行くわけじゃないから!!」
秀明とは、かなえの彼氏である日下秀明(くさか ひであき)のことである。
2人はラブラブで、奏も呆れるほどである。
奏はそんな2人が結婚してくれることを切に願っている。
奏「……分かった。代わるよ」
か「ホント!?」
奏「本当」
か「ありがとう奏!!」
かなえはそう言って満面の笑みを見せた。
奏もそれを見て微笑んだ。
のどかな朝はこうして過ぎていった。
奏は大学に講義を受けに来ていた。
?「よっ、奏」
奏は不意に声をかけられた。
奏「オッス。秀平」
声をかけてきたのは黒澤秀平(くろさわ しゅうへい)。
奏とは中学からの付き合いで、親友である。
黒「なぁ、今日暇?」
奏「なんで?」
黒「いや、実はさ。友達から合コンに誘われまして、メンバーが後1人足りないらしくて……」
奏「……」
奏はジト目で秀平を見た。
秀平はコミュニケーション力が高く、友達が多い。
その為か、女性から告白されることも少なくない。
奏「……悪いけど、俺は遠慮しとくわ」
黒「……やっぱまだ、女の人が怖いのか」
奏「……」
奏は過去のことが原因で女性恐怖症になっていた。
黒「……分かった。悪かったな」
奏「……悪い」
秀平は奏の肩を叩いた。
その後、すぐに講義の時間となった。
コンコン。
?「はい」
奏「すいません、深堂です。入ってよろしいでしょうか?」
?「どうぞ」
ガチャ。
奏「失礼します」
?「やぁ、深堂君。どうかしたのかい?」
奏「課題のレポートを持ってきました」
奏の目の前にいるのは、彼が受講している心理学の講師、時東聖陽(ときとう まさあき)である。
イケメンで人当たりもよく、周りからの人気が高い。
かつて姉が大学に在籍していたときも、かなりの人気ぶりだったという。
時「あぁ、そこに置いといてくれるかい?」
奏はレポートを置いた。
奏「またミニチュアハウス作りですか?」
時「あぁ」
聖陽は見た目に反してミニチュアハウス作りを趣味としている。
奏「今回はどんな家を作ってるんですか?」
時「今回はレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐を意識したような雰囲気の物を作りたくてね」
奏「レオナルド・ダ・ヴィンチですか……」
聖陽は毎回テーマを決めたミニチュアを作っている。
着色等も自分でしており、かなり凝った作品作りをしている。
時「かなえ君は元気かい?」
奏「はい。相も変わらず」
時「ハハ。そうかい。元気なのはいいことだよ」
聖陽はそう言って笑った。
奏は聖陽とは何かと話が合い、たまにこうして長居をすることがある。
奏にとって、この時間は楽しい時間のひとつでもあった。
昼の抗議も終わり、奏は家に帰ってきた。
奏「さて、今日は何を作ろうかな」
奏は冷蔵庫を開け、食材をいくつか取りだし調理を始めた。
その手際はまるでプロの料理人のようだった。
数分で調理を終えた奏は、リビングでテレビを見ながら静かに料理を食べていた。
テーブルにはかなえの分も用意してあり、ラップもかけてある。
そのあとは風呂に入り、歯を磨き、あっという間に寝るだけとなった。
奏「そうだ、姉ちゃんにLINE打っとこ」
奏はかなえに先に寝ること、料理はテーブルに置いてあることを伝えた。
すると、1分もしないうちに「了解」という返事が来た。
奏はそれを見てフッと笑うと、リビングの電気を消して自分の部屋に向かった。
こうして1日は過ぎていった。