おもちゃ箱 第54話
その後
事件解決から3日後。
かなえは家の中でコーヒーを飲んでいた。
隣には雪永親子が同じようにコーヒーを飲んでいる。
あの事件後、かなえたちは多くの記者たちに取材を申し込まれた。
職場に迷惑をかけてはいけないと、彩月は有給を取り、かなえは療養という名目で事態が落ち着くまで家で過ごすことにした。
奏の通っている大学では「講師が連続殺人犯」という記事が出回り、毎日事実確認と対応に追われている。
大学は長期休講という形を取り、生徒たちが取材に応じないようにした。
そんなこともあり、奏は毎日のようにかなえたちにコーヒーを振る舞っている。
黒『そっちの様子はどうよ?』
奏「うん。朝方記者の人が何人か家の前にいたんだけど、姉ちゃんが全部追っ払ってくれて。今のところは何もないよ」
奏は秀平と電話をしていた。
秀平は今、絵里加と一緒に重雄の家に来ていた。
事件の際にお世話になったお礼に、重雄の家の掃除に来ていたのだ。
だが、絵里加は重雄が集めた取材の資料に興味津々で、それに機嫌を良くした重雄が取材内容について語り始めてしまい、2人ともすっかり掃除のことを忘れているようだった。
かれこれ2時間話し込んでいるそうだ。
黒『そうか。落ち着いたら旅行行こうぜ。さっき絵里加と電話で話しててさ。普段行けないような場所に行ってみたいなぁって』
奏「旅行か……」
黒『もちろん。かなえさんや美琴ちゃんも一緒に』
奏「……うん。良いかもね」
奏はそう言って微笑んだ。
黒『……なぁ、奏』
奏「ん?」
黒『美琴ちゃんに伝えなくて良いのか? お前の気持ち』
奏「……今はまだ。もう少し落ち着いてからにしようと思う」
黒『……そっか。俺さ、絵里加に告白しようと思う』
奏「……ふ~ん」
黒『ふ~んって……。反応薄くね?』
奏「だってほら、前から好きだって言うのは分かってたからさ。秀平にしては随分時間かかったなぁって。多分絵里加にも似たようなこと言われると思うよ」
黒『……マジで?』
奏「マジで。……大丈夫、きっと上手くいくから。頑張れ」
黒『……おう』
絵『黒澤先輩!! 掃除再開しますよ!!』
尾『小僧!! なにサボってんだ!!』
黒『あ、はい!! 今行きます!! ……ったく、自分たちがサボり出したんだろっての』
奏「ハハッ……」
黒『じゃあ、またな』
奏「……うん。また」
秀平はそう言って電話を切った。
絵「先輩!! 早くしないと日が暮れちゃいますよ~!!」
絵里加は笑顔で手を振っている。
そんな絵里加を見て秀平は笑顔を浮かべた。
黒「……ふぅ」
秀平は息を吐いた。
黒「(帰り道に告白しよう)」
秀平は覚悟を決めて絵里加たちのもとへ歩き出した。
彼女との明るい未来に向かって。