おもちゃ箱 第55話

奏「姉ちゃん、日下さんが来たよ~」

日「よっ」

か「秀明!? 仕事は?」

日「ちょっと色々と伝えたいことがあってさ。寄ってみたんだ」

 秀明は聖陽の様子等について教えるために深堂家にやってきた。

日「時東は素直に自供してるよ。今までの犯行についても、奏君を狙った理由もね」

か「…」

奏「姉ちゃん……」

 かなえにとって聖陽はカウンセラーを目指すきっかけになった人物、恩師のような存在だった。

 そんな人物が連続殺人犯と知ったときのショックは相当なものだっただろう。

か「……大丈夫。理由はどうあれ、先生がやったことは許されることじゃない。ちゃんと罪は償わないと」

かなえはそう言って微笑んだ。

日「……」


奏「あの、日下さん」

日「ん?」

奏「先生は何で安藤満を利用したんでしょうか?」

日「どうやら安藤は、時東に一度取材をしたことがあるようなんだ。『壮絶な過去を持つ高学歴な人たち』っていう題材でね。安藤に会ったとき、時東は自分に似た感覚を持ったんだろう。事件を起こしていくうちに安藤の存在を知って、利用することを考えたんだと思う」

奏「……」

日「安藤もまさか殺されるとは思ってなかったんだろう。『自分が事件の犯人だ』と言って色々と事件について話したら、何の疑いもなく家に招き入れたらしい」

奏「そうですか……」

彩「立派な経歴があって、お金があって。そんな人が犯罪なんて……」

か「どんなに立派な経歴があっても、どんなにお金を持ってても、心に闇を抱えている人はいるものです。まぁ、犯罪に走るかどうかは別問題ですけど」

奏「……前に先生に言われたことがある。『人は孤独から解放されたとき、より人のことが分かるようになる。悲しい気持ち、嬉しい気持ち、そんな人の悩みや辛さを理解できるようになる。君が周りから信頼されるのは、そういう孤独を知っているからだ。もし悩んでいる人がいたら、話を聞いてあげると良い。君ならきっと人の力になれるはずだよ』って」

か「……」

奏「先生は自ら孤独になることを選んだ。過去と向き合うこともせず。もし、先生にも俺みたいに心配してくれる人がいたら……」

か「奏……」

奏「今回のことで、俺は恵まれてるなぁって実感したんだ。俺には心配してくれる人がたくさんいるんだなぁって」

奏はそう言って笑った。

皆はそんな奏を見て微笑んだ。


プルルル……。

日「もしもし。どうした?」

どうやら部下からの電話のようだ。

日「何だって!? ……うん……うん……分かった。直ぐに戻る」

 電話を切った秀明は焦ったような表情をしていた。

日「……嶋野亜依子の行方が分からなくなった」

奏「えっ!?」

か「今ハワイにいるんじゃ……」

日「時東を捕まえる前日の日には、視察を終えて戻ってきてるはずだったらしい。だが、秘書の携帯に『あと1日だけ滞在することになった。明日の予定を何とかズラしておいてくれ』とメールが送られてきたらしいんだ。だが、翌日になっても帰ってくることはなかった。問題になるのを避けるために自分達で探し始めたんだがどうやっても見つからなくて、警察に捜索届を出したみたいなんだ」

か「篠塚さんのところには?」

日「……会社の人間は篠塚の存在を知らないんだ。彼女は篠塚のことを会社に隠していたらしい。だから、篠塚のところには連絡していない」

か「どこ行ったんだろう?」

奏「……まさか」

日「奏君?」

奏「時東先生、言ってたんです。『最初はあの2人を殺すつもりだった』って。けど俺が事件に絡んだことで『計画を変更した』って。そのあと、俺が予想以上に早く真相に気付いたことで、『また計画を変更した』そう言ってました。その計画の変更っていうのが、再び2人を殺すことに変更したってことだとしたら……」

日「それじゃあ、嶋野亜依子は……」

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