おもちゃ箱 第51話
対峙
<奏 side>
俺たちはやっと駅に到着した。
時間は深夜を迎えており、街は暗闇に包まれていた。
俺は手配していたタクシーの元へ急いだ。
タクシーの前に着くと、俺は一旦立ち止まった。
奏「……皆」
黒「どうした?」
奏「ここからは俺一人で行くよ」
黒「はぁ!?」
絵「何言ってるんですか、先輩!?」
2人は驚いた表情をしていた。
美琴ちゃんも同じだった。
奏「この事件は俺が解決しなきゃいけない。先生もそれを望んでる」
黒「いや、そうかもしれないけど……」
奏「大丈夫。日下さんには既に連絡してあるし、もしもの時は考えがあるから」
絵「でも……」
奏「……俺を信じてくれないか」
黒、絵「……」
俺は2人の目を真っ直ぐ見た。
黒「……分かった」
絵「黒澤先輩!?」
黒「奏……死ぬなよ?」
奏「勿論さ」
絵「……気を付けてくださいね?」
奏「あぁ。2人とも、ありがとう」
俺の言葉に2人は笑顔で答えた。
次に俺は美琴ちゃんの方を見た。
彼女は未だに不安そうな表情をしていた。
俺は彼女に近づいた。
奏「……必ず戻ってくるよ」
俺は彼女の頭に手を置いた。
雪「……コクッ」
彼女は静かに頷いた。
不安な表情に変わりはなかったが、それでも十分気持ちは伝わったと思う。
奏「じゃあ、行ってきます」
俺はそう言うと、タクシーに乗り込んだ。
タクシーは静かに動き出した。
奏「(先生……居てくれたらいいんだけど)」
俺は自分の推理が当たっていることを願った。
しばらく走ると、目的地の近くに到着した。
奏「あ、すいません。ここで下ろしてください」
あまり近づくと、気付かれてしまう可能性がある。
俺は運転手にお金を渡すと、お釣りも貰わずに急いで目的地へ向かった。
目的地へ着くと、すぐに先生を発見した。
先生は窓を開け、空を見上げていた。
こちらにはまだ気付いていないようだ。
俺はできるだけ足音を立てないようにビルの中へ入った。
エレベーターは動いていないようだった。
奏「階段しかないか……」
疲れきった体を奮い立たせ、一歩一歩階段を上っていく。
周りは薄暗く、手すりに捕まらなければ足を踏み外しそうなほどだった。
階段を照らす蛍光灯は着いたり消えたりを繰り返し、それがまた恐怖心を煽った。
上る度に、心臓の動きが早くなる。
奏「(これで、全て終わらせる。…)」
そう決意し、俺は休むことなく階段を上る。
5分ほどかけて階段を上りきると、俺は目的地である部屋の前で立ち止まった。
この部屋以外、電気は点いておらず人の気配も感じられなかった。
奏「……フゥ」
俺は息を吐くと、ドアノブに手をかけた。
ガチャ。
ドアノブを回し、ゆっくりとトアを開ける。
時「やぁ」
そこには、穏やかな表情を浮かべた時東先生がいた。
<奏 side end>
奏「時東先生……」
時「おや? 警察と一緒に来たわけではなさそうだね?」
聖陽は落ち着いた表情でそう言った。
ガチャ。
奏「(全然慌てた様子がない。これも予想してたってことなのか?)俺一人で来ました。どうしても先生と話がしたかったので」
奏は緊張を顔に出さないように努めながら、ゆっくりとドアを閉めた。
時「……にしても、よく私がここにいると分かったね?」
奏「ずっと気になってたんです。先生の研究室にはミニチュアハウスがたくさん置かれていました。けど、思ってたより数が少ないなぁって。前に姉ちゃんから聞いたことがあったんです。『私が大学に入った頃から部屋にはたくさんミニチュアが置かれてた』って。家の中には置いてなかったみたいだし、日下さんの話では地下室にミニチュアは置かれていなかった。そこで考えたんです。もしかしたら、どっかにミニチュアを置くための倉庫みたいなのがあるんじゃないかって」
時「……」
奏「先生のことだから、人が利用しているコンテナとかは避けているはず。ミニチュアを置けて尚且つ警察から身を隠せる場所。そこに先生がいるんじゃないかって。そこで日下さんと知り合いの記者の方に調べてくれるように頼んだんです。……まさかこんなビルにいるとは思わなかったです」
奏は新幹線にいる間、秀明だけでなく重雄にも聖陽のことを頼んでいた。
元記者である重雄なら、そういった場所に詳しいと思ったからだ。
重雄は記者時代の伝手を使って、聖陽が所有しているこのビルを突き止めたのだ。
奏「(警察よりも早く突き止めるとは思わなかったけど)」
奏は重雄の人脈の広さに驚いていた。
時「……本当に驚いたよ。まさか君がこんなに頭が良かったとは。やはり君を選んで良かったよ」
奏「……どうしてこんなことしたんですか? やはり亜依子さんのためですか」
時「……私は今まで完璧を求めた親に育てられ、様々なことを我慢させられてきた。両親が死んでからも、中々その呪縛から抜けられずにいた。そんな私を変えてくれたのが亜依子だった。初めて彼女を見たとき、私の中で何かが弾けた。今まで味わったことのない感覚に襲われたんだ。彼女に会うのが楽しくて、毎日が幸せだった」
奏「……」
時「だが、そう思っていたのは私だけだった。彼女はずっと他の男を見てた。私と結婚したのは寂しさを紛らわすためだった。私の中であの2人に対する殺意が湧いた。……最初はあいつらを殺そうとも考えた。全ての犯行を篠塚の仕業と見せかけ、自殺に見せかけてあの2人を殺すつもりだった。しかし、犯行を重ねる内に君のことを考えるようになってね。計画を変更したんだ」
奏「?」
時「覚えているかい? 私と初めて会った日のことを」