#56 声に不安がある人こそ聞いてほしい!プロが考える個性の伸ばし方
今回のテーマは、私にとっての声です。
2001年からフジテレビでアナウンサーをやっていました。アナウンサーになるまで自分の声に対する意識ってさほどありませんでした。アナウンサーになってから「いい声だね」とか言われるようになって、そういうものなのかな、という感覚なぐらい全くもって意識がありませんでした。
ただ、アナウンサーになってから腹式呼吸を習得して、この影響は大きかったのではないかと思っています。
腹式呼吸になると、基本的に声の質が変わって、より遠くへ届くようになるんですね。加えて滑舌練習もすると、元々あった声質というのもありますけれども、聞き取りやすい声になっていく。これは当然訓練が必要です。
2ヶ月かけて腹式呼吸の練習と滑舌練習をして、その後、現場でどんどん鍛えられていく。そしてオンエアを見た先輩から、ここはこうした方がいいよと直していただく。そうすることによって、どんどん質が上がっていきます。
アナウンサーだっていろんな声の人がいる
アナウンサーやっているとき「実は声に自信がないんだよね」という人と出会ったことがありました。コンプレックスに近いものを抱いてると。例えば声が高すぎると思っている。もしくは、ちょっと濁ってる気がする、とか。ただ僕思うのですが、アナウンサーだっていろんな声の人たちがたくさんいるわけです。
今、報道番組の制作責任者をやっていますが、ナレーションを取るときに、アナウンサーにお願いしますよね。すると、この人こういうナレーションなんだっていう発見があったり、これはちょっと向いてなかったな、などと思うことがあります。それは当然なんです。例えばバラエティーでナレーションを撮っている人たちいますよね。明るくポップな感じだとします。では、その人の声が皇室特番に向いてるかと言ったら、ちょっとさすがに厳しい。
できることはできるけれど、やっぱりどうしてもテンションやカラーが引きずられてしまうんです。だからこそ、いろんな声質の人がいる、そのバリエーションが多ければ多いほど、いろんな番組に合うわけです。
だから、どんな声質があっても僕はいいと思っていて、むしろそれは、個性なんです。より際立つ個性だと捉えてほしい。その声で嫌な思いする人もいないと思うんですよね。
個性的すぎる俳優のナレーションで号泣
高校生の時に見たドキュメンタリーがいまだに忘れられません。もう、かれこれ20数年前のことです。魚のシャケは皆さんご存知の通り、自分が生まれ育った川に戻ってきて卵を産みます。
海まで行って、長い長い旅をして、そして、生まれ育った川に戻ってきて、そこで卵を産んで生涯を終える。
なんてことのないドキュメンタリーのように思いますが、このナレーションをしていたのが、なんと田中邦衛さんだったんです。10代の方はさすがにわからないかな。「北の国から」というドラマがありまして、フジテレビで長年放送していた大ヒットドラマなんですが、その主人公を演じていたうちの1人です。
田中邦衛さんは、独特の喋りかたがあります。この田中邦衛さんが、個性的なトーンのそのままで、シャケのドキュメンタリーのナレーションするわけです。
普通に考えたら、まずそもそも聞き取りづらいし、独特すぎる。どうなるのか…衝撃でした。このドキュメンタリー、まず初めの第一声が田中邦衛さんのあのままの声で「私はシャケ…」これで始まるんです。
シャケになりきってナレーションをしていくんです。シャケの目線で、彼がナレーションをしていく。そして海へと行く戻ってくる。もう体ボロボロです。ボロボロになりながら戻ってきて、卵を産んで生涯を閉じる。この全てを田中邦衛さんがあのテンションであの声でナレーションする。
高校生だった僕、号泣でした。
嗚咽です。もう感動しすぎて、涙が枯れるんじゃないか、というぐらい泣きました。
田中邦衛さんの声は独特すぎて、個性の極みだと思っています。それを逆に生かし、役柄を演じてきました。
なので、声というものは本当に使いよう。もし自分の声で、ちょっと気に入らないな、という点があったとしたら、それはむしろ個性なんです。あなただけのオリジナル。なんならこの世界に一つしかない個性、そのぐらい自信を持ってもらいたいななんて思ってます。
(voicy 2022年7月19日配信)