働き方の教科書 / 安藤至大

日本で「働く」ということについて、働くことの意味、働く上で知っておきたい法律、経済学的な労働のモデル、これからの働き方に関する予測などをコンパクトにまとめた本。

できるだけフラットに、常識的な記述をするように注意されていることがわかる。

著者は、経済学を専攻する大学の先生。

以下、気になった点をまとめる。

(A)日本の解雇規制は本当に厳しいのか?

日本の解雇規制は厳しいということがよく言われる。

厳しい解雇規制により、労働者の流動性が阻害されて、不適な職場に労働者が固定される割合が高いため、生産性向上の阻害要因になっている。とする議論もしばしば目にする。

では、本当に日本の解雇規制は厳しいのか?そもそも解雇規制ってなんだ?という話が第3章にある。

解雇の基本的なルールはシンプルで「労働者が契約を守って労働力を提供している間は解雇できないが、労働力が提供されていない場合は解雇できる。」

無期雇用に関して、解雇とは以下の3種にわけられる。

・懲戒解雇

予め定められた懲戒事由に抵触し、労働者に仕事を任せるのが適当ではないと判断される場合に適用できる解雇

・普通解雇

病気や怪我など、何らかの理由によって労働者が労働力を提供できなくなった場合に適用できる解雇

・整理解雇

仕事がなくなり、労働者の労働が必要なくなった場合に適用できる解雇

これ以外の理由で、恣意的な理由による解雇は認められない。

上記に沿って解雇規制が厳しく解雇できない。だから、解雇規制を緩和すべきという議論を見たとき、雇用者側に恣意的な解雇を認めさせるべきという議論になるため、危険な議論という印象を持った。

(B)働き方の未来

本書の後半では、今後日本において働き方がどのように変わるのかを考察している。

前提として、今後は労働力の不足が問題になることを確実視している。

対策としては、(1)労働者の数を増やすこと、(2)労働者一人あたりの生産性を高める必要がある。

(1)に関しては以下の対策を考察している。

・高齢者の就業率を高める

・女性の就業率を高める→専業主婦(専業主夫)は減少する

・外国人労働者の受け入れは議論が起こるが、諸外国の現状なども踏まえると議論はまとまりづらい

・労働者が貴重になるため、既存の労働者を使い潰さないように保護が強化される→就業管理の徹底、業務を行っている時間を測定しづらく管理が難しいホワイトカラーには健康チェックの頻度向上

(2)に関しては以下

・公的な職業訓練や生活支援の強化

・効率的に失業者や転職希望者の労働移動を支援するための人材サービス、ハローワークなどの公的機関の役割が重視される

機械化、自動化が拡大することで、仕事が失われていく可能性も考察している。

・機械化により仕事が失われていく早さ、労働力が減少していく早さ、どちらが早いかは不明だが、著者は労働力が失われていく方が早く進行すると考えている。理由は、機械化することで別の仕事が発生することや、機械に置き換えられない仕事も多いことを挙げる。

また、社会保障についての記述も興味深かった。

・社会保障は本来国が行うべき保証だが、高度経済成長期に労働者を確保するため、企業は競って社員への保証を充実させてきた。現在、就職して受けられる保証が充実しているのはそのため。非正規など働き方が多様化してきたため、国が直接的に保証を行う重要性は高まっている。

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