健康な入院生活
七月十二日(火)榊
「あと二十八日」。
福留さんのベッド脇には、自作の日めくりカレンダーが掛かっている。退院の日を決めるのはもちろん医者だが、なまじ元気なため、法定伝染病である結核の「最低三ヶ月の入院」を指折り数えずにはいられないらしい。
僕は福留さんよりも一週間遅れてここに来た。先輩患者である福留さんは、毎朝カレンダーをめくりながら、「絶対先に退院してやる」と息巻いているが、会社の健康診断で「結核の疑いあり」と言われるまで自覚症状もなかった僕より、大量の喀血で夜中に救急車で運ばれた福留さんの方が、どう考えても重症だろう。
入院してからというもの、規則正しい生活を送っているため、以前の便秘が嘘のようだ。福留さんがまた一枚、日めくりを破っているのを横目に、お腹をさすりながらトイレに向かう。どうせ破るなら、その紙でクソでも拭けよ、おむつを履くようになる前に。とは思うだけで口にはしない。
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