友山奏也
この物語は現実です。
この物語は実話です。
この物語はフィクションです。
驚く人は何人もいるでしょう。 困る人も何人かいるでしょう。 淋しいと思う人だって何人かはいるかもしれない。 でも、泣いてくれるのは、あなたひとりだという気がするのです。
2022.5.30 片づけなくてはいけないことが多すぎて、何もやる気がしない。これが五月病か。 6.1 まさか攻殻機動隊で泣くとは。 6.2 突然くるふくらはぎの痛みに。 6.3 六月になったので五月病は終わります。 6.6 「タコピーの原罪」。ドラえもんというより「おやすみプンプン」を思い出す。それにしても「おやすみプンプン」って「こころ」と同じくらい秀逸な題名だと思うのは私だけ? 6.7 「コタローはひとり暮らし」にはまる。主役
2021.1.19 十二国記「白金の墟 玄の月」を1年かけて読んだ。話が暗く、救いがないので間に森博嗣や短編ミステリを挟みながら、ようやく4冊読み終えた。 長年待った甲斐はなかった。
2022.5.13 攻殻機動隊2045の映画版を観て内容をおぼろげに思い出す。もう2年になるのか。しかし何度観てもバービー人形のような質感には馴染めない。ヒロインに感情移入できない!とか文句を言う人はいないのだろうけど……。 CGになってポストヒューマンの人間離れした感じはうまく出ている気がする。ガウンで出てきて踊るように銃撃をかわすまでは良かったが、全裸で連続バク転はギャグっぽかった。 5.14 森博嗣のWシリーズ8冊目。読むたびに思う。これはエッセイだ。
2022.3.7 いつもは自転車で行く蕎麦屋に徒歩で。大して変わらない。なら歩くか? 3.8 サウナで手練れ風のおじさんと対決。完敗。 3.9 久々に集中して映画を観る。「クワイエット・プレイス2」。 子役がちょっと大人になってた。3はやらなくてもいいと思うけど、たぶんやったら観ちゃう。それにしても「クローバーフィールド」の続編はいつやるのか。 3.11 俺のことをずっとバカにしていると思っていたやつが、声をかけてきて握手した。 それでいい一日
2022.3.1 明け方に夢をみるがいつも忘れてしまう。 3.2 戦争はよくないと言う多数より、戦争になれば儲かる少数の方が強い。 3.3 9ヶ月ぶりに会った知人が開口一番「太ったね」。 「コロナのせいだよ、外に出ないから」と噓をつくと、さらに「すごい太った。何その貫禄」。苦笑いでかわそうとすると突然「私離婚したんだ」 驚いて返事できずにいると「それで再婚した」。 もう何も返事できなかった。 3.4 健康診断。身長・体重測定たぶん去年と同じ人。「1年
三ヵ月後 砂原 退院して二ヶ月が過ぎた。二ヶ月も過ぎたというのに僕はまだ二週間に一度、定期検診のためこの病院に来て狸医師(担当医の本多)の顔を拝まされている。結核の薬もまだ飲まされているため、おしっこもオレンジ色のままだ。 薬をもらってすぐ帰れるならいいが、レントゲンや血液検査の結果待ちで、二時間は病院にいるはめになる。売店で買った雑誌を三回も読めば、誰だっていい加減飽きる。僕だって飽きる。それでも待たされる。 永遠とも思える時間を待たされた挙句、やっと呼ば
八月三十一日(水) 砂原 夕食を食べながら、窓の外の景色を眺めていた。夕焼けでオレンジに染まった芝生の上を、ボールをくわえた白い犬が、飼い主めがけて走っていく。 そろそろ僕も、ここを退院する頃だろうか。数日前ふらりと現れた榊さんを見て、外の世界にいることへの嫉妬と羨望を覚えた。しかし同時に、外の世界へ戻ることは、今の生活が終ることだと気づき、寂しく思った。入院当初はあれだけ疎ましく思っていた、ここでの生活を。 病室での生活はそれまでの時間の流れを断ち切ったが、代
八月三十日(火) 野田 砂原君と人間のエゴについて描いた映画の話で盛り上がった。僕は「ドッグヴィル」と「セブン」を、砂原君は「es」という映画をそれぞれ挙げて議論に望んだ。「セブン」は二人とも見ていたが、「ドッグヴィル」と「es」についてお互い見たことがなかったので、ストーリーを説明しながら感想を交互に述べた。話し終わると砂原君は「きついね」と言った。僕も同感だった。
八月二十九日(月)大沢 以前この病室に入院していたという男が検査のついでに病室に顔を見せた。砂原少年や福留さんとひとしきり話したあと、自分がいたベッドを今現在使っている俺の顔をちらりと見て、「これから仕事なんだ」と背中を向けた。男の視線に妙な感覚を覚え、彼の後を追った。 男の視線は僕ではなく、その向こう、自分がいた空間自体を見ているようだった。そして何かを思い出しているようだった。ただ単純に、入院していた時のことを思い出している感じではない。うまく言葉にできないが、
八月二十八日(日)田渕 「殿、お気を確かにお持ちくだされ」 私そっくりの顔をした男が眠っているのを、浮遊した私が見下ろしていた。私によく似た男は明らかに顔色が悪く、今にも死にそうな顔をしている。 マゲ姿の彼が着ている寝巻きには金粉が施されており、掛け布団にもきらびやかな鶴の刺繍がしてあることから、私によく似たこの男は、かなり身分の高い人間であることがうかがえた。そして彼を、老中のような男たちが数名で取り囲んでいた。 家来A「殿、しっかりしてくだされ。あなたが
八月二十七日(土)砂原 久しぶりに雨が降ったので、屋上のベンチではなく、マンガ室の汚い椅子に野田君と並んで座った。入院初日も、確か雨が降っていた。 野田君の復讐は未遂に終わった。大沢さんが現れてくれた時は本当に助かったと思った。帰りのバスの中で、野田君はかすかに笑っていた。新井という男か、それとも自分か、何かを許しているような、そんな風に見えた。 夕食後に病院を抜け出したのがばれたせいで、僕と野田君は病院に保護者を呼び出された。もう二十歳になるんだからいちいち親
八月二十六日(金)福留 私が幼い頃はクーラーなどなかったため、夏は扇風機で過ごすのが当たり前だったのだが、ここ病院では一日中クーラーがついている。機械の吐き出す冷風を浴び続けるのは体によくないのではないかと思うが、消すと隣の田渕さんがものすごい寝汗でうなされるので、我慢している。「今日はどんな夢」と聞いても教えてくれない。どうせまたイボ痔の夢だ。普段の行いが悪いから変な夢ばかり見るのだろう。私のように清廉潔白に生きろ、と言いたい。
八月二十五日(木)大沢 入院中に無事退職届が受理されたので、日曜、月曜と一泊二日の外泊許可を取り身辺整理に時間を費やした。ついでに、妻に会って食事した。見ない間にまた髪型が変わっていた。 病院には夜九時までに帰ることになっていた。これから仕事だという妻と別れたあと、一ヶ月前まで同じ病室に入院していた、森尾泉と待ち合わせして飲んだ。 適度にほろ酔いになった帰り道、なぜか隣のベッドの砂原少年と出くわした。人通りの少ない裏道で、砂原少年ともう一人(確か向かいの病室の
八月二十四日(水)田渕 私は玉座にあぐらをかいて座っていた。 左右には男女の付き人が数名立っていたが、その中には通訳の男の姿もあった。通訳は口元にいやらしい笑みを浮かべながら目配せをよこしてきたが、私は無視した。それでもまだ視線を感じたので、威厳を込めて咳払いをひとつすると、その場にいた誰もが姿勢を正し、部屋は静寂に包まれた。 ついに私は彼らの言う「運命」を受け入れてしまった。まさかこの年になって人生が劇的に変わるとは思ってもみなかった。 洗礼を受けた私は、
八月二十三日(火)砂原 昼食後の薬を飲み、Tシャツとジーンズに着替えると野田君のベッドへ向かった。本来なら服用後二時間は安静にしていなければいけないが、昼寝している間に彼がひとりで出かけてしまったらまずいと思った。 向かいの二一一号室へ入り、カーテンの上から覗くと、野田君はヘッドフォンをして雑誌を読んでいた。「砂原だけど」と顔を出すと、野田君は露骨に嫌な顔をした。 「今日、ライブの日だよね」 数日顔を合わせてないだけなのに、野田君は少し頬がこけたようだった