UFOを目撃する
七月二十六日(火)砂原
屋上のベンチに座り将来について考えていると、視界の隅で何かが光った。空を見ると、厚い雲の切れ間から、複数の小さな光が点滅していた。
雷とは違う。雲の向こうに何か巨大な、長方形の影もある。生まれて初めて見る異様な景色に、思わずベンチから立ち上がった。
今、自分が置かれている状況。ハリウッドのSF映画に、必ずあるシーン。人類で最初に異変の兆候を目撃してしまう市民A。
要するに僕は今日、UFOを見たのだ。屋上には僕ひとりだったので、その興奮を誰かと共有することはできなかった。
空に浮かんだ雲の向こうに葉巻型の母船、その周りを豆粒位の小さな小型偵察機のようなものが飛び回っていた。子機の飛び方は独特で、ぱっと消えたかと思うと急に別のところから現れたりした。しばらく眺めていたが、飛行しているUFOの目的が分からず、僕は首をかしげた。こんな病院の上を飛んで収穫があるのか。
そこで僕は思った。結核は宇宙人からすれば特殊な病気で、研究材料に菌のサンプルが欲しいのかもしれない。もしくはこの星を侵略するために、地球人がかかっている病気の菌を片端から集めているのだろうか。
僕は結核以外には特に大きな病気もしたことがないし、若くてイケメンなので宇宙人にとっては格好の研究材料と言える。ひょっとしたら今見上げている僕の存在に気づいていて、「今度のサンプルはあいつにしよう」とか言っているのだろうか。そう考えると怖くなり、階段を駆け降りて病室へ戻った。榊さんについ今見たUFOの話をしたが信じてくれなかった。
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