老人はイボ痔の夢をみるか?
八月九日(火)大沢
同室の田渕さんがたまに昼寝しながらうなされている。その際、かなりはっきりと寝言を言うのだが、同室の人間は慣れているらしく、誰もつっこまない。どんな夢を見ているのか本人に聞いてみると、「君は、同じような夢を見ることがあるか」と逆に質問された。
「ないですね。もともとあまり夢をみないので」
「そうか、ならいい」
「イボ痔なんですか」
僕の言葉に、田渕さんが狼狽するそぶりを見せた。「な」と言ったまま、固まっている。
「何でそのことを」
「私はイボ痔じゃないって寝言で言ってたから」
明らかに動揺した様子の田渕さんは一応「そんなことはない」と否定し、「散歩に出てくる」とそのまま病室を出て行った。