ばあさんと散歩
七月十一日(月)田渕
まったくあの婆さんもしょうがない。私と散歩に行くのが楽しみのようだから、今日も午後の検温のあと公園まで行き、ベンチで二時間近くも話を聞いてやった。
入院当初、婆さんのやつれた顔を見た私は、気晴らしに散歩してみたらどうかと提案した。すると「ひとりではどうも、怖いです」と言うので、私も付き添うようになった。
散歩の際、私はなるべく女房の話をしないようにしているが、別に下心がある訳ではない。旦那に先立たれた矢先に結核になった心情を察し、黙って婆さんの話を聞いているだけだ。言うなれば老人ボランティアだ。もっともあの婆さんの方が、私より五つも年下だが。
病は気からと言う。誰が好きで入院などするものか。昔は結核と言うと死病のように思われていたが、医療の発達した現代においては、あと何ヶ月も持たないような病ではなくなったのだ。せめて気だけはしっかり持ちたいではないか。
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