よみがえる悪夢

 八月十日(水)野田

 一週間前、高校時代の友人から、奴を駅前のライブハウスで見た、というメールが来たとき、僕の思考は停止した。そして、しばらく経って動きだした頭の中は、どす黒いものでいっぱいになった。

 奴らのせいで忌まわしいものになった高二の一年間。自分にとって一番大切な領域に、よりによってあのクソ野郎が入って来たことが許せなかった。バンドをやっている僕らをバカにし続け、のけ者にしていたくせに。なんでお前がそんなところでバイトなんかしているんだ。

 新井和人。鏡を見るたびに思い出す、僕の右目に傷をつけた男の名前。進学クラスの連中とへらへら笑いながら、自分の仲間にならない者を徹底的に排除しようとした男。なぜか目をつけられた僕や僕のバンド仲間は、屈辱的なあだ名で呼ばれ、閉鎖された教室で一年間バカにされ続けることになった。担任教師も新井たちの利口なやり方に気づきもせず、もしくは気づいていながら黙認し続けた。

 一年の時の成績がよく、進路担当の教師に勧められるがまま進学クラスに入ったのが自分がバカだった。付属校なのにエスカレーター式に進まず、もっと偏差値のいい大学を受験しようという、中途半端に賢くてプライドが高いクソ溜めみたいな所に。

 一年から既に「進学クラス」だった奴らには、途中参加で、バンドに夢中で、自分たちのグループには入ろうとしない僕らは気に入らなかったのだろう。同じバンド仲間だった僕達三人は、クソ溜めで不毛な一年間を過ごすことになった。

 右のまぶたに入った二センチほどの線。鏡を見るたび思い出す、あの男につけられた傷。

 復讐だ。メールを何度も読みながら、やがてそれは決意に変わっていった。復讐するんだ。お前にも傷をつけてやる。鏡を見るたびに一生思い出すような傷を。

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