山登りの記録について:記録と時間
浦松佐美太郎の『たった一人の山』を読んだ。
たまたま通りがかった古本屋で投げ売りされているのを見つけてきまぐれに買ったのだが(それも110円!)、大当たりだった。
文章が美しく、年末年始の暇も相まって1週間とかからずに読み終えた。
この本は筆者の山への考え方や思い出を記したものなのだが、昭和初期の登山がいかに挑戦であったか、ともすると「修行的」であったかを垣間見ることができる一冊だった。
また、謙虚で飾り気のない筆致が本当によい。自然で純朴。すっぴん。そのまま。
美しいアルプスの雪景色の中を歩いていたかと思うと、仲間が岩場で転落して血だらけになってたりするし、雷雲が近づくとピッケルが「ジジジ…」と鳴るという「なんそれ」な現象が説明もなくポッと出てくる。
仲間と自分の腰をロープでくくりつけて切り立った崖を渡る時について、
「ここで一方が落ちれば、止まれるわけがない。片方が手を滑らせたら、もう片方も一緒に落ちるだけだ」と回想してたりする。
「それでええんか…!?」と一人でツッコんでいた。
最近はこうして登山記を読むだけでも楽しい。
僕にとって登山は珍しく長く続けられている趣味で、もうそろそろ10年になる。最初は会社のメンバーとの交流くらいの感覚で始めたが、今では一人でも登るようになった。
もとから旅行が好きだったが、道路や交通機関を利用して移動する性質上、街から街へ移動するのが基本になっていた。
が、登山を知って「山」というフィールドがあり、そこには信仰や平地と異なる文化があることを学べたのは大きな収穫だった。
ここ最近は自分でも山行のあらましを記録としてまとめるようにしている。
地理の理解も乏しく、駄文も相まって自分以外に楽しめる人もないが、いつか異国の山に登った思い出をあーだこーだ書きたいものだ。
ちなみに、この本。前の持主がマメな人だったのだろう奥付に購入日と読み終えた日が記してあった。
初版が1975年4月で、発売から2ヶ月程度で購入しており、それを1ヶ月かからずに読み終えている。半世紀も前に行われたごく個人的な知的な活動とその記録が見られたのは、僕にとっては本の内容と同じくらい感動的だった。
記録する、というのは良い。
それだけで過去と未来をつなぎ合わせられる。