不採用のお知らせ:人間の癒やし方

力不足で採用されなかった企業にしても、あれは良い面接だったなと記憶している会社はある。

ぼくにとって、それはとある大手IT企業のM&A部門の面接だった。

20代のぼくはベンチャー企業をなんとなく渡り歩いてきた感じのキャリアで、そろそろ大きな会社に行って個人的な「信用度」を上げたいと思っていた時期だった。

そんな中、大手企業ながら20人くらいの部署で中小企業をM&Aして、本体の経営にうまく接続するPMIという職務に空きが出たそうだ。

これぞまさに自分の少人数組織の経験も活かせるし、大企業の看板を背負えるしと、勢い勇んで履歴書を提出した。

書類はエージェントの協力もあって通過し、最初は人事との面接だった。

出てきたのはぼくより2つくらいの上の女性で、大きいフレームのメガネをして、丸顔に白い肌が印象的な人だった。
どこか冷めた目がこちらを尋ねるように見つめていた。
美人というわけでもなかったが、知的で魅力的な人だった。

よくある面接の流れの通りに自分のキャリアと、自分なら御社に貢献できます、と一息に話した記憶がある。彼女は適度な相槌を打ちながらぼくの話を受け止め、時々PCに何かを打ち込んだ。

一通り話をきいたら、それじゃ今度は私から、と切り替えて「当社は〜」と、今度は彼女が話しはじめた。

会社の概要や部署のメンバーの構成などを経て、いよいよ「今回の仕事の話なんですが」と僕が担当する業務についての話が始まったときだった。

彼女は不意に「うーん」と顎に手を置いて「ギャンブルってどう思う?」と質問した。

「いい趣味だとおもいますよ」と、僕は反射的に答えた。

彼女はそれを聞いて微笑み、「よかった」とこぼした。
面接というよりも、一人の女性としての答えを聞いたようだった。

そのまま「わたしは救いがあっていいと思うの。仮にギャンブルが好きだとしても、それが満たされないままになるよりは、「方法」が社会にあったほうが良いと思ってるんです」と続けた。

ぼくは「そうですね」と深く同意した。

それから今回の仕事が「M&Aした公営ギャンブル事業者に対するオペレーションの整理」だと教えてもらった。

なるほど上の話は、人事として自分たちの事業を正当化するための詭弁で口にしたのかもしれない。
ただ、詭弁でもこの考え方はとても素敵だと思ったし、実際ぼくは未だにこうして憶えている。

憶えている、というよりもこれは僕の大切な考えの一つになった。
誰しも「耐え忍ぶ」よりは、どこかで発散する機会があった方が良い。
しかも、それは願わくば社会に公認されながらある方が良い。

世の中には意外とそうでないものが多い。
ここで並べることも憚られてしまうことばかりだが、それ故に「彼らはどうやって救われるのか」という問いはなくならない。

その後何度か面接したが、結局その企業は僕を必要としなかった。
人材エージェントを通して不採用の報告をもらったときは悲しかった。

できれば、あの人事の人に、いつか本音を聞いてみたいと思った。
もう名前すら覚えていないから、たぶんそれは叶わないだろうけれど。

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