見出し画像

自由診療精神科クリニックの闇、TMS編

過日、共同通信がTMS(経頭蓋磁気刺激治療)を施行するあるクリニックについての否定的な記事を掲載し大きな話題となりました。TMSはうつ病に対して一定条件下で保険適用ともなる新しい治療法として注目されているのになぜ否定的な記事が出たのか、そしてこの記事が出たことが今まで野放しで無法地帯であった精神科自由診療ビジネスにとってどんな意味のあることなのか、つらつらと語ってみようと思いますのでこれが様々な圧力で消される前に読んでもらえたらと思います。

そもそも先日の報道記事を読んでない方や記事が長くてよくわからなかったという方のために記事の内容を超短的にまとめると

・TMSが発達障害に効果があると謳う病院があるが精神神経学会の声明と違うぞ

・不安に漬け込み高額ローンを組まされるぞ

というあたりが注意喚起の主となっていました。

元々こういった自由診療クリニックが「精神科」と名乗り破茶滅茶やり出した段階から我々精神科医は多くの被害者を見てきました。

こういったクリニックは疾患を心配するあまり正常な判断ができない患者さんやその家族の弱みに漬け込むセールストークで自費何十万円の契約をさせます。しかし良くならない患者さんがお金を払いつづけられなくなり搾り取れなくなれば放り出しますので、そういった患者さん達は悪くなった状態で保険診療の病院に受診します。そして病気の中ローンという借金まで背負い、より悪くなった状態で一般的な治療が開始となるわけです。

そういったことを我々一精神科医がずっと批判的に呟いてきていても、芸能人を用いたステルスマーケティング、患者から巻き上げた金で打つ広告、メディアのスポンサーをすることで批判的な記事や番組を作らせない仕組みにかき消されてきたわけです。

今日はそんなTMSについて、そもそもTMSとはいったい何なのか。そして今何が問題になっているのかサクッと話をしていきます。

そもそもTMSとは・・・

今まで中等症以上のうつ病は薬を使って治療をされることが多く、逆に言えば他の選択肢はそう多くありませんでした。でも世の中にはどうしても薬を飲みたくないという人も当然いて、それも一つの権利なわけです。ECT(電気痙攣療法)という治療もあるにはあるわけですが麻酔を使って電気ショックをかけるため大掛かりになりますし、そのために入院をすること自体が生活に大きく影響を及ぼしてしまうというデメリットもあり重症例以外で行われることはそう多くありませんでした。

さてそんな中、ECTほど大掛かりではないけれど磁気を用い脳に電気的な刺激をすることで治療するTMSが登場しました。様々な条件があり保険診療の対象となる人は限られますがきちんとした病院できちんとした診断のもとプロトコールに則って施行されれば一定の効果があるということで愛知県内でも実際に導入している病院がいくつかあります。

ただ先に述べたように保険診療の対象となるためには様々な条件があり、過去に抗うつ薬の治療を受けていて薬物治療で効果が不十分な人などの一部が対象となるため、「そもそも薬物治療を受けたくない!」という人のニーズには対応できないという問題がありました。

私個人としてはうつ病に関して、ガイドラインに則った薬物治療を行うことは決して悪いことではないと考えていますので多くの場合はその治療を選択しますが、当然薬に忌避的な患者さんがいることも理解はできます。そういった人のために自由診療でTMSを行うクリニックという選択肢が存在すること自体を悪だと断じることができません。
ただ、病気で悩んでいる人は本当にしんどい中、藁にもすがる思いで少しでも早く良くなる治療について調べます。なかなか良くならないしんどさの中、思考が抑制され、長く悩んで追い込まれている時に「従来の治療とは異なる最新の治療」が如何にもそれらしいパッケージで示されれば何十回何十万コースでも試してしまいたくなる気持ちは専門家でなくても容易に想像できるでしょう。だからこそ医療に携わる人間は良識のもと正しい効果や副作用の説明をする必要があるのです。

当然TMSの機械はなんでも直し誰にでも効く魔法のマシンではありません。そこまで含め正しい説明、正しい判断能力のもと患者さんが理解し契約し自由診療が行われればそれは一つのビジネスであり批判はできません。しかし、実際はそういった良識のかけらもない施設が多くあり、そもそもガイドラインに則った治療を提案せず、TMS以外の選択肢を与えられないケースも多くあります。あとで述べますが、こういったクリニックにはそもそもきちん修練した精神科医がおらず正しい診断も正しい治療法も知らず、契約をとることしか考えていないことすら多くあるのです。それでも、もしその患者さんがうつ病であるならば、場合によっては効果が出ることもあるでしょう。

それ以上の問題なのが今回記事でも取り上げられたうつ病以外の疾患への使用です。

何せTMSは高い機械ですからクリニックとしては多くの患者さんに使ってもらわなければなりません。しかしうつ病の患者さんだけでは利益が出るほどは患者数が集まらない。そこで経営者たちは考えます、他の疾患にも使えば良いのではないかと。

TMSはECTなどと比べるとハードルが低くライトに見えるかもしれませんが脳に刺激を与えるものです。本来、薬物の使用に関してもそうですが、発達途上の子供達の脳に対する介入は大人以上に慎重になる必要があります。保険診療ではそもそもうつ病の大人にしか使うなという条件付きなわけですが、今回の記事のように「発達障害にも効く」という触れ込みでターゲットとされるのは児童とその保護者です。

自身のことには堅実にお金を使う親御さんも、子供のこととなると財布の紐は緩くなります。特に小さい子の子育て中は発達のことに関してつい他の子と比べ、歩き出しが遅いのではないか、喋り出しが遅いのではないか、これがこの子の一生に影響するのではないかと様々な不安が次々襲ってきます。そんな中ネットで調べてみると、早く調べたほうが良い、早期治療が肝心といった不安を煽るクリニックの広告がバンバン出てきます。

そういった親の心に漬け込んで受診をさせてしまえば彼らのフィールドです。診断をつけ不安を煽りこの子の一生が変わるなら数十万なんて安いものだと誤認させます。昔から発達障害に関しては民間療法など多くのエセ医学詐欺師たちが跳梁跋扈していますがまさか病院がそんなことをするとは誰も思いません。

さらに問題となるのはここでなされる診断がそもそも的確であるのかという点です。これらのクリニックの医師向け求人募集を見ると多くはたいそうな給料で経験不問で医師を募集しています。つまり昨日まで外科医であろうと皮膚科医であろうと今日から精神科医として就職ができてしまうわけですが、当然精神科経験のない医師に精神科の疾患の正しい診断はできません。

実際あるクリニックのホームページを見てみると、医師の過去の勤務先については書かれていても働いていた科は書かれていません。試しにその医師の名前で調べると出るわ出るわ、違う科での勤務歴がわんさか出てきます。ただこれは精神科自由診療に限った話ではなく、美容外科などでも非常に良くある医療界全体の闇の話なのでまた別の機会に述べましょう。。

さて、では精神科の勤務歴がない医師が働いてどう発達障害と診断するのでしょうか。脳波が発達障害の診断基準に含まれていないと言うことは声が枯れるほどTwitterで述べてきましたので他に最近多くのおかしなクリニックで使われている手法を一つ述べましょう。

発達障害とは診断しない、できない、そもそも診断する能力のない医者でも簡単に患者さんを満足させ治療に繋げる魔法の方法、それは発達障害を疑って受診した患者さんほとんどに「グレーゾーン」と伝えることです。
本来グレーゾーンというのは診断できない医者が言い訳に使う言葉ではなく、診断閾値には至らないが困っている人たちを掬い上げるための言葉だと思うのですが、近年急速にメディアなどでも用いられるようになりキャッチーな内容の本も多く出たことから、一時期のHSP並に悪用され始めています。そもそも知的障害に関しては現状診断が数値で区切られることが多く境界がわかりやすくはっきりします。なので誰かがどこからどこまでをグレーと呼ぶかさえ定めてしまえばグレーゾーンという定義がはっきりします。

しかし、発達障害に関しては数字でバシッと切れるものではなく、そもそもがグラデーションですからどこをグレーゾーンと呼ぶかははっきりさせようがないわけです。そこを逆手に取って「みんなをグレーにしてしまおうビジネス」が蔓延しているわけです。だって当てはまる人が多ければ多いほど、記事は読まれるし本は売れるし顧客は増えるのですから。

さらに言えば病院を受診する患者さんの多くは何かに困って受診をしています。発達障害が困りごとの原因かもしれないと疑って受診をしたものの、発達障害でないと言われると当然どうしていいかわからず困ってしまいます。生きづらさの原因を探しにきたのにその原因がその時点では見つからない、そうするとどうしていいかわからない。しかしここで、グレーゾーンという細い細い蜘蛛の糸を垂らされます。

医師からグレーと言ってもらえれば自分の生きづらさの原因や子供が他の子と違う気がする原因に理由をつけてもらえた気がしてしまい安心をするわけです。さて、グレーと言ってもらい誰もが安心をして病院は儲かりめでたしめでたし、と終わるかと言えば当然そうではありません。

そもそも発達障害かどうかを判断できない医師が下したグレーという診断ほど意味のないものはありません。手帳は取れず支援も受けられませんしその背景にある疾患の早期発見機会を逃す可能性すらあります。先日話題になったピーターパン症候群をはじめ、カサンドラ症候群、HSPなど定義のはっきりしないものを医者やエセカウンセラーがそれらしく伝え、生きづらさの理由がわかったと誤認させることが多くあります。

医師がヒーローになるのはとても簡単で、十人中九人の医師が違うというものをそうだ、と言ってあげる医師になることです。

標準治療では治らないと言われたがんを「治せる」と言ってあげること。

薬物治療をせねば治らないと言われた精神疾患を「食べ物で治せる」と言ってあげること。

ただ金をぶんどっているだけであっても追い込まれた患者さんには救いの神に見えるでしょう。

9件病院を回って違う、無理だと言われ続け10件目で理想の答えをもらえた時、患者さんにとっては美談であってもそれは素敵な話ではない可能性があるのです。

しかしこれだけめちゃくちゃなことをやっていてもこれらのクリニックの闇はなかなか世間に晒されません。なぜなら先ほども書いたようにこれらのクリニックは美容外科と関連のある法人などが運営していることも多くお金を持っているため、宣伝力は潤沢で多くのメディアのスポンサーをしています。ニュース番組であろうと、当然その局の大口スポンサーを怒らせてCMを取り下げられたくはないわけです。昨今メディアの忖度がだいぶ明るみに出てきていますのでそういったことが起こりうる、となんとなく実感しやすくなってきたのではないしょうか。

実際私は以前、「正しい医療を普及したい」というあるYoutube番組の理念に賛同し、無料で出たことがあります。しかし蓋を開けてみればそのチャンネルでは、あるTMSクリニックのほぼ精神科勤務歴のない医師がTMSへ誘導する番組なども放映しており、それを再三指摘しましたが削除されませんでした。そのため私はそのメディアや関係者の方とはもうお仕事をしないと決め現在は私自身の動画もその方の動画も削除されております。

これらの事情ゆえ今回共同通信からこういった記事が出たことにはとても驚いたのですが、方向性としてはとてもいい方向に進んできているのではないかなと思っています。

精神科に関してはどうしてもまだまだ人に相談しづらく、それゆえに悪徳なクリニックや詐欺にハマってしまう方が多くいます。
先にも述べた通り企業などと比べてしまうと我々個人の力は小さいものですが、それでもこうして少しずつ精神科のことを知ってもらえるよう、正しい知識を得てもらえるよう発信を続けていきたいなと思っています。よろしくお願いします。

いいなと思ったら応援しよう!