不思議なサウナー文化。
不意に時間ができたので、先日の「やりたいことリスト」のうちの1つとして挙げていた「サウナに行ってみる」を決行することにした。
私の自宅近くにはスーパー銭湯があり、そこには確かサウナもあったぞ、という記憶があったので、先日仕事終わりにその銭湯に向かった。
入り口でチケットを購入する。入湯料が約1000円と、レンタルタオルセットが約500円。そもそもお風呂に対してあまりこだわりがない私は、近くにスーパー銭湯があることは知っていても行く機会がほぼないので、お風呂業界の金額相場すらよく知らなかった。もはや入場チケットを買うことも新鮮であるように感じる。
脱衣所を経て浴場の中に入ると、そこには私の想像以上の人がいた。体感的には結構広い浴場なのだが、シャワー場所が全て埋まっているほどではないにしても、室内の浴槽の縁がほとんど占められているくらいの人数はいたように思う。金曜夕方の仕事終わりの時間帯だったことも影響しているのかもしれないが、普段銭湯を使わない私からすると結構な驚きである。
今日の目的のサウナに入る前にまずは頭と身体を洗って、一旦外の露天風呂に浸かって身体を温めることにした。普段は浴槽にお湯を張らずにシャワーだけで済ませてしまうので、しっかりとお湯に浸かるのは久しぶりのことだ。熱すぎずちょうど良い湯温の温泉に身を沈めてしばらくじっとしていると、身体が芯から温まるように感じる。
そろそろ今日の目的であるサウナに入ってみようかと、遠目にサウナ入り口の様子を見ていると、結構ひっきりなしに人が出入りしている印象だ。サウナへの人気が伺える。
さて、私もそろそろ入ってみよう。サウナ室から1人が出てきたタイミングを見計らって湯船を出て、水分を落としてからサウナ室に入る。するとそこには既に裸の大の男たちが10数人程度、段々になって座っていた。上方はほとんど埋まっていたので、私は空いていた最下段の中心に座らざるを得なかった。
最下段ということもあって、「あれ、こんなもんかなぁ」というくらい熱くない。いくら初心者とはいえ、もう少し温度の高い環境で「うわー、あちぃー」とか文句を言いながら楽しむ、みたいな状態を想像していたのに、調子が狂った。
しかし、数分程度経過した後、外から2人の男が威勢の良い声と共にサウナに入ってきた。衣服を着て顔にタオルを巻きつけ、目だけが見えるそのスタイルは忍者を彷彿とさせたが、恰幅がかなり良いことから忍者ではないことは瞬時に理解した。
「えー、皆さまこんばんは。これから蒸気を発生させて、皆さまに熱波をお送りしたいと思います。よろしくお願いしまーす!」
周囲から湧き起こる拍手。その短時間での環境変化に戸惑いながら、つられて私も拍手する。彼らがいわゆる「熱波師」か、ということをようやく理解した。
2人がサウナ内で熱された高温の石に水をかけてロウリュし始めると、ジューという音と共に多量の蒸気が発生するのが見える。その上記が私の肌に届き始めると、先ほどまで「こんなもんかぁ」と言っていたのが嘘のように急激に体感温度が上がってきた。
「それでは下段の方から熱波を送っていきまーす」との声かけがあって、最下段にいた私は一番最初にその対象者になった。熱波を送られるのは初めてのことで、その熱波をどう受け止めて良いのかがわからなかったので、とりあえず手を両膝の上に置いて俯いておいた。熱波師のタオルから放たれた熱風が、自分の肌の周りを駆け抜ける。こういうとき、「あぁ対流熱伝達を実感するなぁ〜」などと考えている理系バカは、おそらくサウナ室で私1人だけだっただろう。
その後、辛くなるまでは頑張って滞在してみようと考えてしばらくじっとしていたが、じっとしていてもボーッとすることはできず、つい脳内で何かを考えてしまうのが私の悪いクセだ。「さっきなんで拍手が起きたんだろうか?そういうサウナーたちの文化なのかな?これってある意味、サウナ内ライブみたいな感じでもあるのでは?」など、考える必要もなさそうな謎の問いを立てては自己解決することを繰り返す。
いよいよ外に出て、すぐそばの水風呂に入ってみる。身体が温まっているからある程度入りやすいのかと思いきや、全然そんなことはなかった。超絶冷たかった。
冬空の下、外で休憩するのは流石に寒すぎるので、浴場の中にあるイスに座って休憩時間にした。いわゆる「ととのう」瞬間がくるというタイミングらしいのだが、その間も私はつい色々と思考が巡ってしまい、「ととのう」という状態をついぞわからずに終わった。
初めましてのサウナー文化への隠せない戸惑いと、「ととのう」ための練習の必要性を理解した体験だった。