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「103万円の壁」のついでに「社会保険の壁(106万円、130万円)」の基本事項を整理


課税・非課税の境界線である「103万円の壁」は、令和7年度税制改正大綱に明記した123万円までの引き上げはほぼ確定し、178万円に向けた協議を継続することになりました(攻防は2月末頃まで)。
一方、社会保険関係では106万円130万円が境界線となっており、「103万円の壁」引き上げと関連づけた議論もされていく可能性もありますので、関連事項を整理しておきたいと思います。

社会保険被保険者要件等の基本事項

適用事業所

強制適用事業所
 法人事業所(事業主のみの場合を含む)
 個人事業所:適用業種(従業員が常時5人以上)
任意適用事業所
 個人事業所:適用業種(従業員が常時4人以下)
 個人事業所:適用業種以外
適用業種は主に、農業・林業・水産業、サービス・自由業、宗教など
任意適用事業所が社会保険に加入する場合、被保険者となる者の半数以上の同意、厚生労働大臣の認可

加入対象者

フルタイムフルタイムの3/4以上の従業員

上記以外については、従業員数が51人以上の企業等で以下の加入要件
(1)週の所定労働時間が20時間以上
(2)所定内賃金が月8.8万円以上(=年約106万円
(3)2か月を超える雇用の見込みがある
(4)学生ではない
2024年10月から、従業員数が「51~100人」の企業等で働くパート・アルバイトも新たに社会保険の適用

扶養要件(130万円)

年収130万円以上となることで、国民年金・国民健康保険に加入することになり、親や配偶者の扶養から外れる
(なお、一時的に130万円の壁を越えても2年までは扶養内とすることが可能となっています。)

要件緩和(適用拡大)へ

上記の要件について、以下の順で緩和される見込みです。

金額要件撤廃(2026.10~?)

時給が1,100円の場合、
週給与=1,100円×20時間=22,000円
4週間で88,000円で、月88,000円以上の要件を満たします。
細かくは時給1,016円で要件を満たすようです。

令和6年度の最低賃金は952~1,163円(全国加重平均は1,055円)であり、東京・神奈川・大阪など12都府県では最低賃金が時給1,016円以上です。
これらでは、最低賃金であったとしても、既に週20時間で金額要件を満たします。

それ以外の道県では、現行であれば、週20時間でも適用対象となっていなかった場合でも、金額要件撤廃後対象となり得ます。
金額要件撤廃後は、週20時間未満になるように時間だけは気にすべきことになります。

募集賃金は下図の状況であり、全国平均は1,100円を超えています。

パート・アルバイトの都道府県別募集賃金の推移
内閣府「令和6年度 年次経済財政報告」

(参考)
時給が1,250円の場合、
週給与=1,250円×20時間=25,000円
25,000円×52週=130万円 で、
社会保険の扶養対象から外れる130万円に達し得ます。

企業規模要件撤廃(2027.10~?)

2024年10月から51人以上になった人数要件がなくなる方向性です。

非適用業種要件撤廃(2029.10~?)

非適用業種は上述のように、主に、農業・林業・水産業、サービス・自由業、宗教などで、これらも適用事業所となり得ます。

属性ごとの壁

以下では仮に年収123万円以上で所得税が課されるとします。住民税無視します。

学生

学生は社会保険の加入対象外です。

123万円以上:所得課税
130万円以上:親の社会保険の扶養対象外
150万円以上:親の特例扶養控除(税関係)対象外

配偶者(適用事業所)

106万円以上(今後週20時間以上):社会保険加入
123万円以上:所得課税
130万円以上:配偶者の社会保険の扶養対象外
150万円以上:配偶者特別控除減額開始

配偶者(適用事業所以外:今後縮小)

123万円以上:所得課税
130万円以上:配偶者の社会保険の扶養対象外
150万円以上:配偶者特別控除減額開始

(注1)税金と社会保険とで、収入の捉え方が異なります。(社会保険では、将来の収入見込みであり、また、時間外手当などが含まれないなどの違いがある)
(注2)上記で太字は、(本人、親、配偶者のいずれかの)手取りが不連続に減る壁を指します。
(注3)これらの他、親や配偶者の会社から家族手当がある場合、一定の基準で手取りが減少します。(現在は103万円が多く、130万円、150万円など、会社ごとに異なる)

社会保険に加入するということ

社会保険の適用で保険料を支払うことになっても、厚生年金保険分は将来受け取る金額も増えますのである意味問題ありませんが、健康保険の分も加味すると元を取るのに時間がかかるとされます。
企業にとっても、費用を折半しないといけないので、回避したいでしょう(負担軽減措置はある)。

「130万円の壁」の意味合い

学生非適用事業所でパート等の配偶者にとっては、社会保険の扶養から外れる「130万円の壁」を超えるのは大きなものであり続けます。
一方で、適用事業所でパート等の配偶者にとっては、130万円の壁に達するときには、既に106万円の壁を超えて社会保険に加入しているので、130万円の壁は関係ない状態で、今後これに該当する人が増えていきます。

130万円は、会社から支給される家族手当の基準となっているケースも多いので、働き控えを避けるためには、「103万円の壁」の引き上げに合わせて「130万円」も同時に引き上げることが望ましいと思います。(しないかな)

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