「今は 積極財政一択」の理論(番外編.量的金融緩和の後遺症はあるか1)
はじめに
日本では量的質的金融緩和政策が採られて来ましたが、日本銀行は今後2年間ほどかけて国債の買取額を減らしていくことを決めています(2026年1~3月期で2.9兆円(0にするわけではない))。
これまでに膨らんだマネタリーベースは膨大なものとなり、当初から「ジャブジャブマネー」やら「ハイパーインフレが起きる」やら色々と言われて来ました。
実際、デフレから脱出した後、ハイパーインフレのようなことは起きるのでしょうか。(ハイパーインフレは、月50%以上のインフレという定義があるようですが、ここでは”高インフレ”という程度の意味合いで用います。)
ふと思いましたのは、同じく金融緩和政策を採ったアメリカでは、物価・金利がそれなりに上昇した後も、物価・金利の操縦不能には陥っていないではないかと。
そこで、日本も安心できる状況なのか、日米の状況を比べてみたいと思います。
マネタリーベースとは
マネタリーベース=現金通貨+日銀当座預金
※現金通貨=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」
上記で示されるマネタリーベースは「中央銀行が供給する通貨の総量」で、それを操作することによって、「日銀を含む金融部門全体が供給する通貨の総量」であるマネーストックの増減をもたらすとされています。
デフレ期はマネーストックが増えにくく、量的質的金融緩和としてマネタリーベースを大幅に増やしましたが、マネーストックへの影響は僅かでした。
マネタリーベースとマネーストックM1は、「現金通貨」は共通しており、マネタリーベースは日銀当座預金が加わり、マネーストックM1は預金通貨が加わります。
日米のマネタリーベース
日本については、2023年度の名目GDPは596兆円で、2024年9月末のマネタリーベースはGDPの113%、うち現金通貨は21%、日銀当座預金は92%でした。(M1は183%)
アメリカは、2023年の名目GDPは27.4兆ドルで、2024年8月のマネタリーベースはGDPの21%、Currency in circulation(現金通貨に対応)は9%、Reserve Balances(準備預金:日本では日銀当座預金の90%が準備預金)は12%でした。(M1は66%)
対GDPでは、日本はマネタリーベース全体ではアメリカの5倍以上(現金通貨で2倍以上、中央銀行当座預金で7倍以上)あります。
現金通貨
2000年における対GDP比現金通貨は、日本で12%、アメリカで4%と、元々日本の現金通貨が相対的に多い状況でした。(現金通貨は2000年末、GDPは2000年)
量的金融緩和は日本では2001年から、アメリカでは2008年からとされるので、緩和策の前から日本の現金通貨は相対的に多かったことになります。(日本ではキャッシュレスの利用が限定的であったことも、この大小関係の要因の1つかと思われます。)
それを考慮すると、現在、日本の現金通貨が、対GDPでアメリカに比べ2倍以上あることも特異な状況ではないと考えることができます。
日銀当座預金とは何か
では、マネタリーベースに占める比率が高く、対GDP比でアメリカよりも7倍以上もある中央銀行の当座預金は、どう捉えればよいのでしょうか。
まず、準備預金には主として以下3つの役割があります(日銀HPより)。
(1)金融機関が他の金融機関や日本銀行、あるいは国と取引を行う場合の決済手段
(2)金融機関が個人や企業に支払う現金通貨の支払準備
(3)準備預金制度の対象となっている金融機関の準備預金
日銀当座預金の増加
2000年における対GDP比中央銀行当座預金は、日本で1.3%、アメリカで0.3%と、従来はほぼ必要最小限の非常に小さい値で、これも日本が相対的に大きい状況でした。
2013年に始まった量的質的金融緩和においては、長期国債等を大量に買入れ、その代金が当座預金に入りました。
既述のように超過準備には付利が行われていましたが、その後2016年からは当座預金の一部にはマイナス金利が適用されるようになり、当座預金のまま残している状態は不利になりました。しかし、それでも貸出の増加は僅かでした。
量的質的金融緩和で当座預金を増大化させたのは、予想インフレ率に影響を与え、実質金利(=名目金利-予想インフレ率)を低下させることが目的でもありました。必ずしも目論見通りには行かなかったという評価になるでしょうが。
今後で心配になるのは、このようにして積みあがった当座預金の存在によって、急激な貸出増加が生じるのか、それがハイパーインフレの原因となるのかということです。