弁士、一條民子~わたしの祖母の物語⑦
此れをきっかけに妾は弁士の免許をとり、一條民子の芸名で舞台の人と成りました。
其の時、カルカヤの役をやった人が浅田でした。
浅田は高校を出て失恋して弁士と成ったそうです。
其の時の浅田にわ、叶屋と云ふ料理屋に文子と云ふ、深い仲の夫婦約束をした人が有りました。
又、妾の舞台での師匠でもありました。
よく遊び、父の片腕でも有りました。
妾の芸名は、浅田民雄の民をとって一條民子と付けたのです。
説明者としての免許もうけ、資格も取った妾しは、舞台の人と成りました。
妾しが何時も舞台に立った時、二階正面の同じ場所に若い男の姿が有りました。
映画の変わるたびに来て、同じ所で妾しを見てゐる人、妾しはかすかな明の中で其の人の姿をもとめる様になりました。
どこの方か何をしてゐる人か、映画の変わる日が楽しみになりました。
ある日友達と鉄道の寄宿舎の前を通ると、其の人が立って居ます。
妾しがかるく頭を下げると、笑ってこたえてくれました。
それからの妾しわ、よくその前を通る様に成り、又その人も必ずまってゐる様に、マドから笑顔を見せてくれました。
※ほぼ原文ママ。
※句読点は読みやすさを考慮して追加。
※写真はイメージ。
【登場人物】
妾し(幸子):この物語の主人公。T.Yamazakiの祖母
ノヱ(小野ノヱ):幸子の母。
楯身(楯身友蔵):幸子の養父。
小野康太郎:幸子の祖父。
ノブ(小野ノブ):幸子の祖母。
武士(小野武士):幸子の叔父、ノヱの弟。
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