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【焼き鳥理論:実践ログ】数学でマラソンを分析する

今、私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究をどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。まだまだIB教員2年目の実践ログなので、どのような場面に難しさを感じながら概念型探究の授業にトライしているのかについてまとめていけたらと思います。


また、PYPのカリキュラムの特徴でもある学際的なカリキュラムの実践の記録として、今回のnoteでは、PSPE(体育)とMathの融合についてまとめられたらと思います。

学際的なカリキュラムのミニ考察

学際的なカリキュラムを設計のメリットとしては、それぞれの教科の間にあるつながりを見つけ、「なぜ、その教科を学ぶ必要があるのか」を感じながら学習をすることができます。一方で、全てを学際的なカリキュラムで実施することで、その教科特有の知識、スキル、概念的理解の習得が難しい状況にもなることを最近は感じています。学際的なカリキュラムの全体設計の中に、それぞれの教科特有の知識、スキル、概念的理解が育めるような概念型のカリキュラムをそれぞれの教科ごとに設計する重要性も感じ始めています。

さて、今回の焼き鳥理論の教科融合の実践では、数学とPSPEになります。トピックとしては「マラソン」になります。あくまでも担任目線での教科融合についてまとめていきます。

焼き鳥理論については以下のnoteにまとめています。

「みなさんはマラソンの授業と聞いてどのようなイメージをもちますか?」
私のクラスでも、マラソンのイメージが「キツイ、しんどい、苦しい」等のネガティブなイメージからユニットが始まりました。いわゆる「マラソン=根性、諦めない気持ち」というイメージがどこかで育まれていたのかもしれません。実際に1回目のマラソン(30分間走)では、最初に思いっきり走ってその後ずっと歩いていたりと、30分間の時間のマネジメントができない状態がマラソンの授業のスタートでした。

「さて、あなたが授業の設計者だったらマラソンを通して、どのようなスキルやストラテジー、概念的理解を育んでほしいと考えて授業の設計を行いますか?」

私の勤めている学校では共同設計を大事にしており、他教科のカリキュラムであっても、教科担任の先生と授業設計の相談を日常的に行っています。時間の関係で全ての教科でできないこともありますが、可能な限り共同設計の時間は大事にしています。

導入フェーズ

一旦、30分間試しに走ってみるところから始まります。ここには、教員はあまり介入せず、学習者の実態をみとる重要な時間になります。「30分間走る上で、どのようにペースを調整するのか。」問いだけ最初に投げかけて、実際にどの程度ペースを調整できているのかを見とっていきます。実際に、私も30分間走に参加をしたのですが、最初は、500mを2分30秒のペースで走り、スタートから2500mはそのペースを維持できたのですが、途中で腹痛がはじまり、後半は500mを3分のペースでお腹の痛みを伴いながら走り続けました。結果的に目標のバンド11本(1本あたり500m)を30分間で走ることはできましたが、「30分間走る上で、ペースを調整できたのか。」と問われると、「できていなかった。」という結果でした。

18人の学習者の実態としては、3分間のペースを30分間走った児童と、2分30秒のペースで30分間走った児童がいました。そこで、ペースを調整していた児童をモデルにペースという概念を掴む時間が2コマ目の最初にありました。

方向づけるフェーズ(Mathとの融合)

1回目の30分間走において、児童の実態としてペースという概念をつかめていない人、ペースという考え方は知っているけど、ペースの調整するスキルがそもそも掴めていない人、ペースという概念を掴んで実際に調整ができた人様々な理解のグラデーションがありました。そこで、全体で共通の理解をとるために、ペースについて理解する時間を設けました。

ここで、ペースという概念を理解するために、Mathの学習として速度の概念の確認を行いました。

ここで大事になってくるのは、速さいう概念の理解になります。

速さを量として表すには,移動する長さと,移動にかかる時間という二つの量が必要になる。速さを,単位時間当たりに移動する長さとして捉えると,(速さ)=(長さ)÷(時間)として表すことができる。例えば,時速 60㎞の速さとは,1時間に 60㎞の長さを移動する速さということになる。

【算数編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 pg.264

ここでは、実際にクラスメイトのデータを用いて、速さを求め、実際に走った距離を求める算数の知識とスキルの確認を行いました。最初子どもたちは速さを求めなさいと言われると、一生懸命に公式(みはじ/きはじ)を思い出す様子が見られました。「公式を忘れたから求められない。」「公式ってなんだったっけ?」というような状態から始まりました。この状態は、速さを求める公式というものをただ知っている状態で、速さという概念が理解できていないことがみとれる分かりやすい子どもの姿になります。

さて、「速さというものが単位時間あたりに移動する長さ」ということが理解できていると、公式を使わずにこの問題を解くことができます。

例えば500mを2分30秒のペースで走る人の平均の速度(km/h)を求めるときに、3つの考え方がクラスの中で出てきました。

「さて、この問題を解くのが早かったのは、公式を覚えていた人でしょうか?それとも速さの概念を使って問題を解いた人でしょうか?」

まずは、公式を用いて解いた人の考え方です。

考え方① 分速から時速を求める
「みはじ」で当てはめると、「速さ=道のり÷時間」
だから、まずは「分速」で考えると、
500m÷2.5分=200m/分
次に分速を時速に変えると、200m×60分=12000m
よって、時速12kmと求められます。

考え方② いきなり時速で求める
これをいきなり「時速」で考えてしまうと、
500mは0.5km
2.5分は2.5分/60分=25/600分
つまり0.5÷(25/600)=0.5×600÷25=12
よって時速12kmと求められます。

公式を用いて解こうとした人は、そもそも公式が分からず前に進めなかったり、時速で求めようとして計算が複雑になり解くことに困難を感じていました。一方で公式を使わずに速さの概念を用いて解いた人は次の考え方で解いていました。

考え方③
速さを2分30秒で500mを移動する長さを捉えると、
5分間で1000m移動する長さ、
つまり60分間で12000m移動する長さ
だから、1時間で12km移動するので長さ
よって、時速12kmと公式を用いずに求めることができます。

「思考する教室」の第4章(pg.110)には、学習者がたんなる「できる」ではなく、理解を伴った「できる」であり、概念的理解に達するには、その教科に特化した学習経験が必要になると書かれています。さて、上の事例で言うと、どちらがたんなる「できる」状態で、どちらが理解を伴った「できる」状態なのでしょうか。公式はあくまでも手段であり、公式の背後にある概念的理解を育むには、教科に特化して学時間の重要性を感じ、PSPEの授業前に概念の確認を行いました。

ここまできて、ようやくPSPEとの融合が可能になります。PSPEでは、ペースの概念レンズを用いて、ペースを調整する学習を行っていきます。実際に子ども達は、Mathで学習した知識/スキルを活用して、自分の目標となる走る距離を3つに分解したり、500mの単位で分解して、一定の長さを移動するのにかかる時間(=ペース)と考えて、マラソンの30分間の計画を立てていきます。

ここでは、「速さを、単位時間当たりに移動する長さ」としてではなく、「速さを、一定の長さを移動するのにかかる時間」と捉えて、考えていきました。

実際にこのペースの考え方を理解した後に、子どもたちの会話の中で500mを3分間のペースで走る計画の人、最初は500mを3分間で走って、最後の方で体力が余っていたら少しペースを上げる人など、ペースの概念が加わることで、計画の質が変わり、30分間の子どもたちの走り方にも変化が見られるようになりました。

「マラソンの概念を変えよう」という専科の先生の言葉でマラソンが始まりました。「マラソン=根性」という精神論ではなく、マラソンを通して、速さやペースという概念を理解し、それをもとに計画や戦略を考えるスキルは、PSPE以外の場面でも転移する考え方なのではないかと考えています。

実際に、2回目のマラソン(30分間走)を終えて、1人の子どもが、30分間で6000mを走るには、500mをどれくらいのペースで走ったら良いのかを計算して、計算の方法が分からなくなり、質問をしてきた子が出てきました。まさに、算数の考え方を用いて、日常生活に応用しようとする姿でした。
そして、マラソン大会前に、結果を出すために精神論で闇雲にトレーニングをするのではなく「どのようなペースで30分間を計画するのかをずっと考えている」姿にも、この学習で伝えたかった、時間を分解して、自分で分解した距離をどんなペースで走るのかを考える価値を少しずつ感じ始めているのではないかと思いました。
ちなみに、1回目の練習でペースが調整できなかった私の課題についても解決する方法を子どもたちに考えてもらっています。

今回の教科融合では、PSPEが「運転者」となるような立ち位置で、数学は、学んだ知識とスキルを活用するフェーズで教科融合を行いました。今回の融合の串となるものは「速さ」という概念かなと考えています。

さて、今回のnoteでは、教科融合の実践例の1つを紹介させていただきました。

お知らせ

また、今回シェアした資料の多くは、概念型探究を探究する、共に働きながら学ぶ「C.I.I=Conceptual.Inquiry.Institute」のメンバーと一緒に作成したものが多いです。今、C.I.IのメンバーとSpotifyで日々の実践の試行錯誤を放送しています。こちらも良かったらフォローしてもらえると嬉しいです。

いつも読んでいただきありがとうございます。




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