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PYPにおけるユニットとMathの融合カリキュラムの設計方法とは?
岐阜市にあるサニーサイドインターナショナルスクールでの初等部(小学5/6年生)における数学の実践についてまとめていきます。
今回のnoteのキーワードは「教科融合はコンテンツ(トピック)ではなく概念で繋ぐ」です。私自身も、探究型のカリキュラムを設計する上で、何度も概念ではなく、コンテンツ(トピック)ベースで繋いでしまった経験があります。これは、「活動」という手段が目的化された活動主義、つまり「這いまわる経験主義」ともいわれるものになっていました。
這いまわる経験主義の事例(引用)
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具体的なわかりやすい事例として、マクタイ&ウイギンス「理解をもたらすカリキュラム設計」に書かれている事例を紹介します。以下の事例はまさに「りんご」というトピックで教科横断の学びになっているのが伝わるでしょうか?
秋になると毎年2週間、第3学年の児童全員が、リンゴについての単元に参加する。3年生は、このトピックに関連する様々な活動に取り組む。言語化では、ジョニー・アップルシードについて読み、その話を描いた短編映画を見る。彼らはそれぞれリンゴに関わる創作物語を書き、テンペラ絵の具を使って挿絵を入れる。美術では自動は近くの野生リンゴの木から葉っぱを集めてきて、巨大な葉っぱ模様のコラージュを作り、3年生の教室に隣接する廊下の掲示板に掛ける。音楽の教師は、子供たちにリンゴについての歌を教える。科学では、違うタイプのりんごの特徴を、五感を使って注意深く観察して描く。数学の時間、教師は3年生全員に十分な量のリンゴソースをつくるために、レシピの材料を定率で倍にする方法を説明する。・・この単元のハイライトは、近所のリンゴ農園への見学旅行である。そこで児童は、リンゴジュースが作られるのを見てから、荷馬車での遠乗りに出かける。単元における山場の活動は、3年生リンゴ祭りという祝典である。そこでは、保護者はリンゴの衣装を着て、子どもたちはそれぞれのステーションを順に回って、様々な活動を行うーリンゴソースを作り、リンゴの言葉探しコンテストで競い合い、リンゴ採り競争をし、リンゴに関する文章題を内容とする数学のスキル・シートを完成させる。その祝典の締めくくりには、カフェテリアの職員が準備したリンゴあめをみんなが楽しんでいるところで、選ばれた児童が自分の書いたリンゴの物語を読む。
上の事例を読むと、子どもたちの目線になると、理科でりんごの特徴を学び、国語でりんごに関する物語を書いて、音楽でりんごについての歌を学び、算数でりんごソースをつくるための計算方法を学ぶ等、「りんご」をトピックにした活動が多く面白い授業ではあると思うのですが、この授業を受けた先に、子どもたちに残るものとは何でしょうか?
◎ 今回のnoteの問い
「なぜ、教科融合の学びなのか?」
「学びの先に何をデザインするのか?」
「子どもたちが学んだ先に別の文脈で応用できるカリキュラムの設計はどのようにできるのか?」
今回のnoteでは欲張らず、まずは社会科(政治、経済)、算数科の教科融合について考え方と実践について紹介していきます。まずは、「学びの先にあるもの」ということで以下の問いについて考えてみてください。
「小学校から高校までの12年間算数・数学を学んできた私たちは、算数・数学で教わったことのどれくらいを日常生活でいかせているでしょうか?」
恐らく数学に苦手意識のある多くの人は「とりあえず公式を覚えて公式を使う練習をしよう。」「そもそも算数って何のために学習をしているんだろう?」と感じていると思います。今の私の指導観の支えになっている「思考する教室をつくる」の著書にも、次のように書かれています。
多項式方程式を解く手順を全部覚えている人がいったい何人いるだろうか。多くの人は覚えていない。なぜなら、私たちが高校で多項式方程式を解いているときに、その課題が現実の世界に関連していると理解していなかったからだ。実際、最後に多項式方程式を解いたのはいつだろうか?おそらく高校であるだろう。記憶が失われている理由はまた、多項式について学んでいるときに、公式や定理の背後にある概念についてけっして本当には理解していなかったせいもある。私たちは、理解することなくアルゴリズムを「やっていた」のである。
さて、まず最初にざっくり教科融合のカリキュラムにイメージについて共有します。先ほどのりんごについての単元と比較してみてもらえたらと思います。
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りんごを起点に様々な教科を横断して学んでいます。一方で、PYPのカリキュラムでは、トピックではなく、概念で教科を横断しています。以下がUnit3のカリキュラムになります。
PYPにおける概念で教科をつなぐ考え方
【Central idea(大きな一般化)】
経済は社会を形作る
【重要概念】関連、原因、変化
【関連概念】経済、金融、政府、企業、家計、経済活動、公平、平等、割合、比率
【教科の枠を超えたテーマ】
この地球を共有する
【探究の流れ(小さな一般化)】
- 政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動き
- 政府の政策、規制、介入の役割
- 経済成長が社会構造に与える影響
「トピックではなく、概念で教科をつなぐとはどういうものなのか?」
言葉ではわかりずらいと思うので、図解にトライしてみました。例えば、この経済のユニットを通じて、日本という社会の文脈で生きていく上で、様々な立場を選択して生きていくことを考えた場合、家計と企業と国の関係、市場経済での販売、購入、金融機関との関係に関する知識以上の何か、例えば数学における減価率、販売収支、銀行の利息などの経済及び数学の概念や、政治による経済活動の影響などの政治に関する関連概念を理解する必要があります。ここでは、それぞれの経済主体の関係性という大きなマクロ概念を中心に知識を繋ぎ合わせて、整理し、別の文脈や状況に転移できるようにすることが重要になります。
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今回のユニットで取り扱うマクロ概念は関連、原因、変化、また関連概念は経済、金融、政府、企業、家計、経済活動、公平、平等、割合、比率になります。これらの概念を、切り口に教科の枠を超えてカリキュラムを設計していきます。以下が、学習者に身につけてほしい知識やスキルを構造化したものになります。特に着目してほしいのが、左2つの構造になります。公平や調整という共通の概念で、数学、政治、経済の3つの教科を繋いでいます。これによって、学習者は教科の枠を超えて、それぞれの教科の見方・考え方を働かせて、様々な視点で概念的理解をつくりあげていけるようにアプローチしていきます。
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具体的な実践(進行中)は以下のnoteにまとめてあります。実践の背景にある考え方についてもまとめられたらと思い、今回自分なりの理解を言語化してみました。
以下のnoteがこのユニットのWEEK1-3の実践になります。
こちらのnoteがWEEK4の実践の導入になります。
まだ、現時点では子どもたちにつくりあげてほしい理解(一般化のフェーズ)にアプローチできていませんが、様々な事例をリサーチし、整理するフェーズまできました。シュミレーションゲームの後半から、子どもたちと割合の考え方を用いて、公平な社会に近づけるために税率を調整するワークを行っていきます。
いつも私の思考の整理のためのnoteを読んでいただきありがとうございます。
moi moi!!!