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PYPにおける「経済」の授業実践<市場経済シュミレーションゲーム>

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究をどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。まだまだIB教員2年目の実践ログなので、どのような場面に難しさを感じながら概念型探究の授業にトライしているのかについてまとめていけたらと思います。

今回のnoteのテーマは「現実世界とのつながり」になります。小学校高学年の子どもたちと「どのように経済について学んでいくのか」を考えたときに、教科書に書かれている用語のようなものをたどるような学び方では、用語を覚えることはできても、実際に世の中の経済がどのような仕組みになっているのかを理解するところまではいかないのではないでしょうか。

そこで、今回のnoteでは子どもたちが「経済をトピックに現実世界とのつながり」を感じながら学べる実践についてまとめてみたいと思います。

前提として、PYPでは、6週間で1つのユニットを探究していきます。ここが、一般的な公立校の単元の考え方との違いの1つにもなると思います。そして、PYPのカリキュラムでは、ユニットごとに大きな一般化と、大きな一般化を支える小さな3つの一般化があります。子どもたちは小さな一般化(概念的理解)をつくりながら、最終的に大きな一般化(概念的理解)にたどり着けるようなデザインになっています。

さて、今回のnoteで紹介する実践は、ユニット3がはじまり、4周目を迎えいよいよ総括課題に向けて探究も中盤フェーズの実践になります。最初の3週間では主にミクロ経済について理解するために、私たちが普段使っているお金がどこからきて、どこにいくのかを調査し、整理を行いました。4周目からはミクロ経済からマクロ経済に広げる手法としてシュミレーションゲームを通して考えていきます。

【Central idea(大きな一般化)】
経済は社会を形作る
【重要概念】関連、原因、変化
【関連概念】経済、金融、政府、企業、家計、経済活動、公平、平等
【教科の枠を超えたテーマ】
この地球を共有する
【探究の流れ(小さな一般化)】
- 政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動き
- 政府の政策、規制、介入の役割
- 経済成長が社会構造に与える影響
【ATL】
・リサーチスキル:メディアリテラシースキル
・思考スキル:転移スキル
【Learner Profile】
・考える人

これまでの探究の流れは以下のnoteにまとめてあります。

形成的評価課題(整理するフェーズ)では、以下の課題を設定しました。ここでは、1つ目の探究の流れの「政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動き」の理解を確かめる課題になりました。

アウトプットの方法としては、LEGOブロックで整理したものをLEGOブロックを実際に動かしながら言葉で整理して伝える課題を出しました。

ここからは1つ目の探究の流れ「政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動き」とつなげながら、2つ目の探究の流れ「政府の政策、規制、介入の役割」に入っていきます。これまでに、子どもたちは小学4年生の「政治」のユニットで「政治」や「税」の役割について学んできました。第5/6学年では、「政府が経済活動に与える影響や役割」について学んでいくことになります。以下のnoteに過去の実践をまとめています。

2つ目の探究の流れに入るということで、改めて概念型探究でいうと「導入するフェーズ」に戻ります。概念型探究では、6つのフェーズを行き来しながら進んでいきます。さて、今回も導入のフェーズでは経験型ストラテジーの1つである「シュミレーション」の手法を用いました。緑の本には、シュミレーションの概要について次のように書かれています。

概要:
シュミレーションは、単元が生徒にとってなじみのないものである場合や、生徒が他者の視点を理解することを難しく感じる場合に非常に有効である。シュミレーションを通して、生徒は日々の生活から少し離れ、異なる現実について考察することができる。つまり、生徒は自分の置かれた文脈にとらわれずに思考し、単元の内容に対して感情をともなったつながりをもつことができるということだ。
シュミレーションを実施するポイント:
① 生徒の感情反応に配慮する
② 概念を強調する
③ 振り返りの機会を設ける

概念型探究の実践 pg.79

また過去のシュミレーションの実践については以下のnoteにまとめています。

さて、今回の市場経済ゲームでは、「政府の政策、規制、介入の役割」について学んでいきます。シュミレーションゲームで扱う関連概念としては、「公平」「平等」「調整」になります。シュミレーションゲームをトータルで9ターン程行うのですが、最初の設定としては、政府が最小限に平等に介入するシステム(小さな政府)になっています。今の日本の経済システムでは、所得に応じて納める税率が変わるなど、公平な社会になるために政府が介入するシステムとは現段階では異なるシステムになっています。

シュミレーションゲーム説明

まずは、ゲームの設定について説明します。このゲームに登場する経済主体は「6つの家計(従業員)、3つの企業(経営者:農家、スーパー)、JA、税務署、国(財務省)、税務署、(今後、地方銀行が立ち上がる予定)」です。担任の役割としては、JAと国の役割を担います。学級を大きく6つ(各3人)の家計に分けて、それぞれの家計に以下のミッションカードを渡しました。

大きな経済の流れは以下のようになります。

これは、子どもたちが1つ目の探究の流れで学習したことをベースに作成しています。まず、農家の経営者は従業員を雇うために、給与のシステムを設定し、また従業員は仕事を見つけるところからこのゲームははじまります。お給料の設定や交渉に難航している場面も見られました。0からはじまる経済ゲームでもあるので、国が各家計、企業に60ドルずつ日本銀行から借入をして補助金として配布するところからはじめました。ここでも、国はお金を無限に持っている誤った考え方にならないように、日本銀行に借入を行い、国民に給付をしていること、またこのお金は税収などで返済する必要があることを伝えました。

「では、従業員はどのようにものを生産することができるのでしょうか?」

流れとしては、JAと直接取引できるのは、契約している農家(家計AB)のみとなり、個人事業の人とは直接的に取引できない流れになっています。そのため、従業員は農家を通じて生産したものを出荷することになります。農家の方は、従業員が生産したものをチェックして、しっかり製造できているものをJAにもっていき、お金と引き換えます。また、この上に書かれている様々な図形は貿易ゲームを参考に作成したもので、小学5/6年生で学習するコンパスを用いて図形を作図する算数的なスキルを活用した学習も含まれています。子どもたちは正確に作図をしないと取引が完了しないので、ドリル学習以上に真剣に作図できる方法を教え合い、効率よく正確に作図できるように繰り返し学習しています。

そして、無事にJAと取引ができたものを農家は従業員にお給料(或いは取れ高)として、JAで取引した金額の30%以上を支払うことになっています。このお給料は雇用主と従業員の間で決まります。
また、6つの家計には共通するミッション(ルール)があります。

ミッション① 生きること
すべてのチームに共通するミッションの1つとして、生きるために(≒生活費)毎日1人3つはリンゴを食べる必要があります。このリンゴは、スーパーを通じてしか購入することができないシステムになっています。子どもたちは、安く買うためにJAから直接買うことはできないのか、或いは農家から直接買うことができないのかの交渉をしてきました。この経験からもスーパーに商品が並ぶまでにかかっているコストが商品の価格に加算されていることを体感できたのではないでしょうか。スーパーでのリンゴの価格も、JAで取引した価格の2倍以内という制限で自由にスーパーが設定をすることができます。

ミッション② 納税すること

全てのチームは、1日の終わりに所得の10%を一律で納める義務があります。

この10%という割合の考え方も小学校第5/6学年の数学で扱う重要な概念であるので、事前に割合について学習し、実生活でどのように割合の考え方を用いるのかを感じられるように、ここで割合の算数的活動を取り入れてあります。

そして、税務署担当の家計が各家計の納税(税金の計算方法)の相談にのり、また、税金を正しく納めることができているのかのチェックを行います。この納める税金も、経費の考え方を取り入れており、全ての売り上げから生産にかかったコスト(従業員のお給料や原材料の購入代、機械のレンタル代)を控除した金額に税金がかかる考え方になっています。また、今は累進課税の考え方を取り入れていないので、今後国民とも話しながらどのような税金のシステムを取り入れていくのかを話し合いながら決めていくか、国が独自に定めるのかを検討しているところです。

現在、2日間の経済活動を終えてこのような結果になっています。

① 国の状況
初日に補助金として各家計に配った金額と公務員への給料の支払い分が支出になっており、2日間を終えて41$の税収が入ってきている現状です。

② 各家計の経済状況

印象的なのは、経営側の農家よりも従業員の方が家計の所得が大きくなっていることです。経営する側は、優秀な従業員を手放さないために給料を上げすぎて自分の家計の所得分がなくなっている現状になっていました。経営側は、銀行からお金を借りる必要があると話しており、今後銀行を立ち上げて銀行から借入をして経営を続けるのか、経営を続けることが困難と判断し、経営者を変えるのか、相談して決めていくことになります。

実際に市場経済ゲームがはじまり3日目を終えました。このシュミレーションゲームでは、経済システムが未熟なままはじまり、リフレクションを通してブラッシュアップしていくことを大切にしています。一番の問題として、家計の資金がなくなり、食料の調達や生産に必要な原材料の調達が難しくなり、経済活動が止まりそうな家計も出てきました。そこで、銀行でお金を借りれるシステムが必要ということで、銀行立ち上げの仕組みをつくり、本日から銀行の機能が経済活動に加わりました。

実際に企業や家計とお金のやり取りをするために、以下の記録用紙を書いてもらい管理をしてもらいました。

◎ 今後のアイデア
・イベントカードとして、災害が起きることを取り入れる
・国全体の生産を上げるために海外との貿易を始める
・金融機関からお金を融資、貯金ができるシステムをつくる【Done】
・広がる経済格差に対して国がどのように介入していくべきかを考える

今後は、ミクロとマクロの両方の視点でもよりよい経済システムの構築について子どもたちと考えていきます。

また、このシュミレーションゲームのアイデアは子どもたちが現実世界とのつながりを感じられるように、できるだけ現実世界のシステムを取り入れて設計しています。これは、フィンランドの「Me and my city」のアイデアからインスピレーションを受けて設定したものでもあります。

興味がある方は以下のYoutubeの動画も見ていただけたらと思います。

まだまだ、市場経済ゲームは始まったばかりです。今後どのような経済システムが構築されていくのか楽しみです。

いつも読んでいただきありがとうございます。

moimoi!



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