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「このミステリーがすごい」|賞とかではなく、心からそうつぶやいた【方舟】

今回は、本の紹介です。久々に1回読んだら絶対忘れない本に出逢いました。
その本の名前は『方舟』。

Xのタイムラインで気になっていた本ですが、有栖川有栖さんの帯が破壊力抜群です。そして、読了ポストも気になるものばかりで、「初めて、読んですぐに2周目に突入した」というものもあり、興味津々でした。

以前、「思い出の一冊」として紹介した本多さんの『MISSING』。
『MISSING』は短編集であり、テイストは全然違うのですが、根っこにあるものはわたしのなかでは同じで、『方舟』も間違いなく忘れられない一冊だと確信した本でした。

ネタバレなしで魅力を紹介していきます。

意図的な不自由さ

それは計算されたもの?

最初の内は少し読みにくさを感じるかもしれません。人物像が掴みにくい。状況描写が入ってこない。夕木さんの作品は今回が初めてのわたしは、もどかしさに似た不快感というか、なんでこういう描写の仕方にしたのだろうとやや苛立っていました。

さすがに、わかりにくいと思ったのか、途中で見取り図的な挿絵が一枚だけ入ります。随所に挿絵を入れてほしいと思っていたのも束の間、途中で気づきました。
この不快感はわざとだ。詳しくは書きませんが、途中で明らかになっていくことが多く、最初は敢えて伏せていたのだと見えてきます。

また、その証拠に、最後のほうは一気に読んでしまいましたし、確実に「映像」が頭の中に描かれていました。最初のほうはスッと頭に入ってこなかったのになぜ。あぁ、これも作者側の手の内だとわかった瞬間ゾッとしました。

複雑な謎はない。だが、全然見えてこない。

冒頭で提示された展開。
それがわかっていても、どうやってその展開につながるのかまったく予想がつきません。この状態は終始続き、ずぅーっと頭に「?」が残ります。いや、残るどころか、どう着地させるかもわからない謎ばかりです。

広げまくった大風呂敷をどう回収させるのか、物語をどう着地させるのか気になり過ぎて、後半は一気に読んでしまいました。

話の展開はもちろん、話の持っていき方がものすごく巧妙な作品です。


ちなみに、いつも同じテーマで書いているnoteを拝見するようにしているのですが、mikaさんの読書感想文がものすごく共感したので紹介します!

「結果をすべてわかったうえで、再度読んでも良い気分にはなれないこともわかっているのに、もう一回読みたい。(中略)ちょっと元気なときにあらためて読み返したいと思います。」

mikaさんのnoteより

まさにこれです!!





ここから若干本編のヒントあり。
『方舟』をまっさらな気持ちで読みたい方は、ブラウザバック推奨です。





最悪の悲劇は防げた、のか?

比べる対象が違うのかもしれませんが、『MISSING』では、ただの甘酸っぱい後悔という形で、ifを考えることはありませんでした。
しかし、今回の『方舟』では、何度もifを考えてしまいました。

それは、明らかにターニングポイントとなるシーンがあり、違う選択を選べた描写があるからでしょうか。

基本、”ゲーム脳”であり、リゼロなどのループ物好きなせいか、なぜか「これってもう一個のエンディングとかもあるんだよね」という淡い期待を寄せたりしましたが、そんなご都合主義ではありませんでした。

そして、さらに奥が深いのは、仮にもう一つの道を選べたとしても、それが無事なのかわかりません。もっと言うと、本に描かれている展開でも、その後はどうなったのか描かれていません。
別な作品で伊坂さんが書いていた、作者が書かなかった意図を、余白を察してほしいというやつですね。

ホントなにはどうあれ、本書はまったくもって幸せな気持ちや、あったかい気持ちに包まれるような内容でも結末でもありません。
しかし、「やられた!」とか「そうきたか!」の感情が限界突破すると、人はこういう反応になるのだと思います。

わたしのなかで、映画で言うと『SAW』や『CUBE』のように、新しい形として鮮烈に刻まれた作品でした。
読んだことのある方、ぜひ語りたく作品ですね!

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灯火 @ココロ・カタチ・ヅクル「リ・キュレーター」
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