何番煎じか分からないけれど物理側から2024年ノーベル物理学賞の解説をする

物理側から見た人口知能のノーベル賞

今年のノーベル賞は人口知能でした。

ノーベル賞のサイトにアンケートがあったのですが、人口知能の元ネタが物理であることを半分以上の人が知らなかったようで、その意味においても意外な受賞であったようです。

人口知能側からみた解説は様々な人がしているので、あまり述べるつもりはないですが、その中で「何故日本人が受賞できなかったのか?」みたいなことを多くの人が述べています。

物理学側から見るとこのあたりがなんとなく見えてくるよというお話です。

物理学賞の意外なところ

歴代の受賞を見ていると実は何度か技術に対しても贈られています。

1番目立つのは彼ですね笑

その他にも霧箱、泡箱、多線比例計数管、コライダーといった「素粒子実験装置」にも伝統的にノーベル賞が貰えます。

という事情があるということを踏まえまして受賞理由を見てみましょう。

元論文を読む

受賞理由は毎年委員会が出しているリリースに書かれています。まずイントロには

https://www.nobelprize.org/uploads/2024/10/advanced-physicsprize2024-2.pdf

This year’s Nobel Prize in Physics recognizes research exploiting this connection to make breakthrough methodological advances in the field of ANN. 

まず「この(物理との)関係を利用してANNの分野で画期的な方法論的進歩をもたらした研究」に与えられたと言っています。

つまりは「明確に物理との関係を使った」というのが大事です。

ホップフィールドの論文を見ると明確に「磁性との類似」が示されています。そして甘利さんの論文も引用されていますので「無視された」というのは不当です。

さらには引用として「オールドファッション」な手法として引用されている笑

https://www.pnas.org/doi/pdf/10.1073/pnas.79.8.2554

もうちょっとみるとホップフィールドは数値実験をしている。

甘利さんの論文を見てみましょう。

https://people.idsia.ch/~juergen/amari1972hopfield.pdf

もちろんこの論文だけではわかりませんがこの論文は今で言うバイナリネットワークの安定性の議論をした論文になります。しかも計算だけですね。

バイナリネットワークとそのゼロイチを「スピン」に見立てて計算する(しかも数値実験までする)のは天と地ほどの差がある。この時点で甘利さんは落選です。

この点では福島さんのネオコグニトロンは惜しい。彼のモデルは視神経回路をモデルにしているからです。それ故にこの論文にも明示的に引用されている。

福島さんの落選は二人と比べた際の「インパクト」の問題のように思います。

ヒントンはまあボルツマンマシン以降の発展の寄与ですね。そこは皆さん文句はないでしょう。

この二人な理由は結論にも書いてあります。

The pioneering methods and concepts developed by Hopfield and Hinton have been instrumental in shaping the field of ANNs. In addition, Hinton played a leading role in the efforts to extend the methods to deep and dense ANNs.

要は「人口知能の最初の貢献」はホップフィールドで「人口知能を流行らせた貢献者の代表」がヒントンということです。

こういった代表が選ばれるのも大型実験の代表者のように物理では珍しくありません。

この意味においても私個人の主張としては人口知能受賞のニュアンスとしては「素粒子の道具」のニュアンスが強いと言いたい。

このリリースでは科学の道具としての人口知能として「多体系、相転移、気象」等が挙げられてますが、これらのほとんどは「AI革命後」なのでさほど成果はありません。

一方で素粒子実験はボルツマンマシン等の古の機械学習を当初から使っていました。

ANNs improved the sensitivity of searches for the Higgs boson at the CERN Large ElectronPositron (LEP) collider during the 1990s [44], and were used in the analysis of data that led to its discovery at the CERN Large Hadron Collider in 2012 [45]. ANNs were also used in studies of the top quark at Fermilab [46].

とある様にヒッグス粒子等の発見に貢献した技術でした(といいつつも極々少数です)。

もちろん現在様々なところで使われている人口知能ですが、それを昔から素粒子実験で使って色々な発展に繋がったという意味においても人口知能が選ばれたのだと予想します。

伝統的にはご存知の様に「科学的発見」のみにフォーカスされます。それ故に今回の受賞は物議を醸し出しているのですが「素粒子実験へ貢献した技術」に対しては例外的に過去にも実績が存在していますので「素粒子実験の技術として」であれば過去の伝統とも外れない。

ある意味で「キャッチーさと伝統のギリギリを攻めた」ネタとして人口知能は「ギリギリあり」なのかなと。

物理側のぶっちゃけ①:機械学習はあまり支持されてない

そうであるならもっと早くあげれば良いのですが、後出しジャンケンであることには変わりません。

それが今なのはぶっちゃけ物理での機械学習はそこまで信用されてなかったのいうのがあります笑

というのも物理をやるからには「理解すること」が大事です。関係を近似するにも「なぜそのような関数になるのか」を考えることで物理の発展になるわけですから、「何も考えずに近似する」機械学習は当然支持されてませんでした。

例えば黒体輻射のプランクは当初「内挿公式」としてプランク分布の式を見つけ、その関数系を解析することでエネルギー量子を発見したのです。
もしプランクが人口知能を知っていて多層パーセプトロンでフィットしてたらどうなるでしょう?

関数形がわからないので分析の仕様もない。ただフィットできたとなって量子力学は生まれなかったでしょう。

いまでこそ「流行りに乗っかった」研究が山程出ていますが、僕が大学にいた当初から深層学習を使った分析してみて結局「発展性がない」ということで論文化しなかった人はぼちぼちいます。

つまり新たな知見(=研究の種)を得るには「わからないこと」を知ることも大事です。何でもわかった様にさせる今の人口知能の発展は「プランク分布の発見」を見逃すような危険性を孕んでいます。

物理側のぶっちゃけ②:ネタが無い!

最近の物理学賞では地球温暖化や天文等など過去とは少々毛色が違うものが受賞しています。

それはノーベル賞をあげられるようなインパクト大な研究がないという深刻な事情があります笑

まだノーベル賞をもらってないけどインパクトのある研究はぼちぼちあったのですが、メインの貢献者が死んでしまったためにその後の発展を様子見せざるを得ないのもあります。

代表例が2023年の量子情報でベルの不等式の名前になっているベルさんは1990年代に脳卒中で亡くなってしまったためにその後「凄い貢献」がなされるまで待たされたわけですね。

毎年素粒子宇宙と物性で交互という伝統もありましたが、特に素粒子、宇宙、原子核側についてはあらかたノーベル賞を挙げ尽くした感もある笑。

発見されたらノーベル賞というネタはぼちぼちありますが、またまだ先の話です。

この意味において「インパクトのある素粒子宇宙の研究手法」として人口知能を挙げざるを得ないほどにはネタが枯渇してしまったとも言えます。

まとめ

というわけで「素粒子実験の手法」としての人口知能とすると一応は「色々まとまる」んだよという話でした。

化学の方は知りません笑

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